住民税倍増でクレーム殺到・税源移譲問題再考

2007年06月13日 06:30

株式イメージ国税と地方税の割合の変更、俗に言う「税源移譲」の施行により、今年から国税である所得税が減り、その分地方税である住民税が増えた。単純に両者を足した額に変わりはないのだが、支払時期は所得税が先で住民税が後になるだけに「問題やクレームが起きるだろうな」とは思っていたが、住民税の納税通知が届けられるようになった6月上旬以降、案の定あちこちで問題が急増している。

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神戸新聞によると神戸市では6月11日一日だけで、電話と来所で約5000件にも及ぶ「なぜ住民税が上がったのか」といった問い合わせがあったという。11日に設置した専用コールセンターでは10回線の電話が9時から17時までの間鳴りっぱなし。尼崎市でも電話を当初5台、4日から10台増設したが、1日で800件以上もの質問電話。問い合わせの内容はほぼ同じで「住民税が以前から2倍近くに増えた。間違いではないか」というもの。

これは先に【1月から所得税が減ってもぬか喜びはダメよ・「所得税マイナス」+「住民税プラス」+「定率減税廃止」=「増税」】で説明したが、「地方への権限委譲の一環として、所得税の分の一部を住民税に移行する」というもの。分かりやすく図解した先の説明イラストを再掲載しておく。

税源移譲前後の税金の概念図。所得税分が減り、その分住民税が増える。さらに定率減税が廃止されるので、全部併せると増税になる。
税源移譲前後の税金の概念図。所得税分が減り、その分住民税が増える。さらに定率減税が廃止されるので、全部併せると増税になる。

正確には定率減税が廃止されることで少々の増税になり、住民税を元に計算される国民健康保険の額も変わるはずなのでさらなる多少の変動があるのだが、全体的にはほぼ変わらない。

しかし人間というのは「得はあまり記憶に残らないが損は印象深く尾を引くもの」。これは最近特に話題に登るようになった行動ファイナンス(行動経済学)でも説明されているもので、この学問でノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマン氏も「プロスペクト理論」として次のように説明している。いわく、

「人間は基準となる参照点、金額より上回るときと下回るときでは、同じ率の損得でも損の方が得よりも2倍強のインパクトで評価される」


というもの。例えば500円のラーメンを50円引きの450円で食べられた時の喜びより、50円割高の550円で買わざるを得なくなった時の悔しさの方が2倍以上大きいというものだ。

今回の「税源移譲問題」もまさにこれ。例えば昨年「所得税が20万円で住民税が10万円、合計で30万円」だった人が、今回の税源移譲で「所得税が10万円で住民税が20万円、合計で30万円」になったとする。所得税は10万円の減税で住民税が10万円の増税でプラスマイナスはゼロなのだが、「増税による10万円分の悔しさは減税による10万円分の喜びの2倍以上」に相当するため、多くの人が地方自治体に問い合わせをすることになったわけだ。

また、【「税源移譲」「定率減税撤廃」3割が知らない】にもあるように3月の段階で「税源移譲を知らない人が3割に登っている」という統計データもある。元々知らなければ驚きはさらに増すことになる。そして昨今の年金のごたごたの問題があるので「またいい加減なことしてるのではないだろうか」といった不信感が拍車をかけているのも否定できない。

届いた住民税の納税通知を見て腰を抜かし、慌てて電話機に飛びつく前に、もう一度住民税と所得税の書類を見直そう。


■税源移譲と増税に関する一連の記事:
(6/22)【「住民税が2倍に増えた」「自営業者はツラい」の謎を探る(3)……他の税制の対応が追いついていない】
(6/22)【「住民税が2倍に増えた」「自営業者はツラい」の謎を探る(2)……定率減税廃止がかなめ!?】
(6/19)【「住民税が2倍に増えた」「自営業者はツラい」の謎を探る】
(6/13)【住民税倍増でクレーム殺到・税源移譲問題再考】
(3/23)【「税源移譲」「定率減税撤廃」3割が知らない】
(1/23)【もう一つの大増税!? 税源移譲で変わる国民健康保険の額】
(1/21)【1月から所得税が減ってもぬか喜びはダメよ・「所得税マイナス」+「住民税プラス」+「定率減税廃止」=「増税」】

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