「住民税が2倍に増えた」「自営業者はツラい」の謎を探る(3)……他の税制の対応が追いついていない

2007年06月23日 19:30

年初の国税(所得税)の減税と6月あたりから反映される地方税(住民税)の増税は税制改正に伴う税源移譲に伴うことはすでに【「住民税が2倍に増えた」「自営業者はツラい」の謎を探る】で説明した通り。そこで今回はそのフォローアップ記事を掲載し、まず「全体的な増税感は、実は定率減税の廃止が大きい」という結論を税額の試算やグラフから証明した。さらに続いて、以前の記事に対する感想や意見に対するリアクションもかねて、さらに色々と掘り下げてみることにする。

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税源移譲に他の税制の変更が追いついていない:保険料控除の場合……増税の正体その2

まず当サイト掲示板からの反応として、次のような意見があった。

住民税の各種控除(生命保険など)所得税のより少ないですよね。税率小さいときは目立たないけど所得税と同じにしてくれないと控除少なくて増税になってしまう(ハバネロさん)。


まさにその通り。たとえば国税や地方税のように直接税金として引かれるのではなく、「課税所得」から引かれる(つまり控除される)「生命保険控除」だが、国税と地方税ではその額が違う。そしてハバネロさんの指摘通り、国税の方が高い。

国税(上)と地方税(下)の生命保険料控除(【生命保険文化センター】より)
国税(上)と地方税(下)の生命保険料控除(【生命保険文化センター】より)

特に地方税では累進課税から一律10%の定率減税に変わったため、生命保険料控除の国税・地方税の負荷の変化による税額の違いは低所得層ほど大きくなる。例えば生命保険料控除の考慮前の「課税所得」が200万円で、年間生命保険料が10万1000円だった場合(実際には課税所得の5%も保険料を払うのはいかがなものかと思うが)

■税源移譲前
・国税……(200万-5万(生命保険料控除上限))×10%=19.5万円
・地方税……(200万円-3.5万円(生命保険料控除上限))×5%=9.825万円
 ∴29万3250円

■税源移譲後
・国税……(200万-5万(生命保険料控除上限))×5%=9.75万円
・地方税……(200万円-3.5万円(生命保険料控除上限))×10%=19.65万円
 ∴29万4000円

 すなわち750円の増税


という試算が出来る。国税の「195万円以下なら5%に半減」というのが大きく効いている形になるが、課税所得額の違いによってはもう少し増税額も変わってくるだろう。

多種多様な意見とタイムラグと:「はてブ」からの意見

続いてソーシャルブックマーク「はてなブックマーク」の【該当記事分におけるデータ】から。発言者の名前はここでは差し控えることにする。各自直前リンクから参照してほしい。

・先に住民税の増税が来ればそんなに悪印象はなかったんじゃないだろうか。地方に税源を委譲するのは方向性として間違ってないと思うが、何か間が悪いというか・・・。
・参院選前にこれをやるって勇気あるよな、と今年の2月ぐらいに思った。
・それはそうだけど選挙直前にこれをやった神経を疑う。これを計算できないダメ首相と言われても仕方ないかも


などなど。「選挙の直前にやる必要はなかったのでは」という意見が多い。ただ、地方税と国税の切り替えタイミングを考えると半年は必要になるし、収支部分の時期をシンクロさせないと「国税は減らずに地方税が増える」(国民が困る)とか「国税が減って地方税はそのまま」(国家財政が困る)という事になりかねない。

また、そもそも税源移譲云々の話は「地方交付税による国から地方への権限が強すぎて、天下りや陳情、不正などの温床・原因となっている。地方に権限(財力)をもう少し移して、自主性を高めるべきでは」という事に端を発している。これが遅れたら遅れたで「中央集権制による汚職温存がうんぬん」など別の方面で問題が起きるなり、地方自治体の財政破たんに拍車がかかる可能性もあった。どのみちやらねばならなかったことに違いはない。

・「扶養控除や配偶者控除の差から来る実質的な増税」通知書の裏面に差分を調整するって書いてありませんか?激変緩和措置っぽいからじんわり消えていきそうだけど。


これもその通り。他にも、例えば2007年に退職したり転職した場合「国税は今年分で計算されるので非課税対象となり国税の恩恵は受けられない。けれど地方税は去年の所得に課税されるので増税される。結果として大規模な増税をこうむることになる」というパターンが想定される。

このような事態に対処するため、2007年に所得税が非課税となった人のために、2007年度分の地方税を「前年度までの額に」減税する経過措置を政府では設けている(つまり税源移譲前の額にまで1年限りだが減らしてもらえる)。2008年の7月中に、今年1月1日現在に住んでいる場所の市町村長に申告することでこの減額措置を受けることができる……のだが、絶対的に告知が不足していることもあり、ほとんどの人が知らないのが実情。

税源移譲による実質的な増税への
経過措置は実は色々と用意されている。
気がかりなことは気兼ねなく
お役所に問い合わせよう

リストラや転職、起業や定年退職などで、今年所得税が非課税になった人は案外多いはず。「該当するかも?」と思ったら、まずはもよりの税務署や役所の税務課に問い合わせてみよう。

他にも例えば「国税(所得税)が減ったら住宅ローン控除限度額が所得税額より大きくなるんで、控除しきれなくなるじゃん!」という、家持ちの人からの切実な意見もいただいた。当方は税務署の中の人でなければ税理士の資格もないので「どうすりゃええねん」とエセ大阪弁が頭の中をよぎってしまったものだが、これについても実は救済措置がある。

詳しくは【平成19年度国土交通省税制改正要望主要項目結果概要】などで確認してほしいのだが、税源移譲で住宅ローン控除限度額関連で控除がし切れなくなったり控除額しきれない額が増えた場合、特定の条件を満たせば「今まで所得税から控除されていた分が2008年から2016年まで引き続き(地方税からに振り返られて)控除される経過措置」が設けられている。こちらも各種手続きが必要なので、税務署など該当する役所に問い合わせ、必要な書類を提出して申請しないと適用されない。


そのほかにも、例えば今回の税源移譲のタイミングにあわせて、老年者控除や公的年金等控除、非課税措置の廃止や見直しも行われている。高齢者から「大規模な増税だ」とする意見は、むしろこちらを原因としているものがほとんど。じつはこれについても、期間限定だが経過措置が設けられている。

今回の記事作成とその反応への対応の過程でよく分かったのは、「税源移譲がすべての増税の原因」ではなく、あくまでも「税源移譲」は税制改革の一つに過ぎないということ。増税そのものはむしろ付随して行われた「定率減税の撤廃」など各種改正や、「国税・地方税に関連する各種税制が、国税と地方税の比率変更に対処しきれていないこと」によるものがほとんど。

また、啓蒙活動が絶対「的」(笑)に不足していることや、「個人が情報を入手して、その上で積極的に動かないと余計な税金を取られ損になってしまう」仕組みがあちこちに用意されたことも分かる(後者は逆に考えれば「ちゃんと情報を入手し動けば、色々と税金を取り戻せるチャンスを用意してくれた」とポジティブに考えることも可能)。

さらに、「景気が良くなったから定率減税廃止というけれど、企業向けの法人税や高所得者向けに優遇されている累進課税部分は継続したままでは」という、ダブルスタンダード的なお話が進んでいることもあらためて明らかになったことが分かる。

ともあれ、今回の記事が、これから給与明細を受け取る人に少しでも役立つものとなれば、幸いである。


■税源移譲と増税に関する一連の記事:
(6/22)【「住民税が2倍に増えた」「自営業者はツラい」の謎を探る(3)……他の税制の対応が追いついていない】
(6/22)【「住民税が2倍に増えた」「自営業者はツラい」の謎を探る(2)……定率減税廃止がかなめ!?】
(6/19)【「住民税が2倍に増えた」「自営業者はツラい」の謎を探る】
(6/13)【住民税倍増でクレーム殺到・税源移譲問題再考】
(3/23)【「税源移譲」「定率減税撤廃」3割が知らない】
(1/23)【もう一つの大増税!? 税源移譲で変わる国民健康保険の額】
(1/21)【1月から所得税が減ってもぬか喜びはダメよ・「所得税マイナス」+「住民税プラス」+「定率減税廃止」=「増税」】

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