加速化する金融危機を時系列化してみる

2008年09月27日 12:00

株式イメージ先に【バフェット氏いわく「現在の金融危機は”経済版真珠湾攻撃”だ」】で伝えたように、サブプライムローンやCDSなど金融派生商品の問題に端を発する金融市場の混乱状態は、その度合いを強めながらスピードも加速しつつある。原因が「誰かが気がつかなければ裏付けもなく、止め処も無く増殖するばかりのデリバティブな商品」にあるのだから、一度そのふくらんだ「虚ろいの金(Phantom money)」から逃げ出す動きが見えれば、後は縮小する一方なのも日の目を見るより明らか。グリーンスパン前米連邦準備制度理事会議長をして「100年に一度あるかないかの深刻な事態」と言わしめるのも理解ができるというもの。今回はその流れを、海外動向を中心に、簡単ながら記録保全の意味も含めて箇条書きしてみることにする。

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2007年

・初夏
 市場全体を覆う「つかみ所のない不安感」。7月中旬以降日経平均株価も下落傾向に。一部では金融派生商品関連の破たんに関する話も飛び交う。外資系ファンドの売買動向に、現金化を目的としたものと思われる投売り的な、妙な動きが指摘される。

・8月17日(前後の数日間)
 俗にいう「サブプライムローンショック」。世界中の株式市場で大幅な下落。その後一時期のリバウンドはあるも、事態そのものの深刻さが相次いで明らかにされるにつれ、下落トレンドは確定的に。また、これ以降、過剰流動性に伴う相場の「ボラの大きさ」も顕著なものとなる。

・秋以降
 サブプライムローン絡みでアメリカだけでなくヨーロッパ、特にイギリスの住宅事情も大規模な悪化傾向。

・9月
 イギリスの中堅銀行ノーザン・ロックで取り付け騒ぎ。

(・12月3日付け記事
【欧米金融機関がかかえるサブプライムローンの損失額と今後の展開】)

・12月10日
 UBS、サブプライムローン関連で1兆1000億円の損失を計上(【UBSの損失発表で見えたもの~サブプライムローン損失の底知れぬ奥深さ】)

2008年

・1月4日
 年末年始の休みの間に市場への不安感が蓄積されたこともあり、大発会にも関わらず大幅な株価下落。下げ幅としては戦後最大のものに。

・1月11日
 バンク・オブ・アメリカ、住宅ローン会社大手のカントリーワイド・フィナンシャルを40億ドルで買収。アメリカの金融機関の再編が本格的に始まる(≒再編しなければならないほど資産が欠損し、経営状態が悪化する状況が見られるようになる)。

・1月30日
 スイスのUBSが40億ドルの評価損を追加計上。評価損総額は184億ドル(1兆9300億円)。

・2月17日
 イギリスのノーザン・ロック銀行、資金調達困難に陥り、国有化決定(【英政府、サブプラ問題で窮地のノーザン・ロック銀行を国有化で救済決定】)。

・3月16日、17日
 アメリカの証券銀行第5位のベア・スターンズがJPモルガン・チェースに身売り(1株2ドル)

・4月~6月
 株価一時復調。サブプライムローン問題は最大の山場を過ぎたのでは、との説も(同時に各種ローンやCDS問題も話題に浮上)。一方原油価格は高騰を続け、市場資金が証券から商品に逃げている象徴となる。

・7月13日
 アメリカ財務省、FRB(連邦準備理事会)が、GSE(政府系住宅金融機関)の2社、ファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)とフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)の支援策発表。

(・初夏以降
 これまで以上に多くの金融機関に対する噂話が市場を飛び交い、それが相場を大きく揺り動かす事態に。金融市場全体を覆う不安感と、過剰流動性を裏付ける証拠とも)

・9月15日
 リーマン・ブラザーズが経営破たん。メリルリンチはバンク・オブ・アメリカに買収。A.I.G.も資本増強必須との報。
 (【米リーマン・ブラザーズ、破産法申請・買収交渉など決裂のため】【欧米主要五紙に見るリーマン・ブラザーズ破綻の衝撃】)。
 アメリカ市場急落。2001年の「9.11.」直後の暴落以降、最大の下落幅を記録する。翌日の東京株式市場も日経平均で605.04円・-4.95%の下落。

・9月16日
 金融機関同士の疑心暗鬼が高まり、資金の流れが急速に低下。日本・アメリカ・ヨーロッパの中央銀行が共同して市場への資金供給を開始。
 A.I.G.、FRBに事実上の買収、管理下に(株式市場雑感(08/09/17))。
 イギリスのバークレイズ、リーマン・ブラザーズのアメリカ資産の一部を17.5億ドルで取得。

・9月17日
 「次なる破たん」の不安感から、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーの二大証券銀行の株価が急落。
 イギリスの銀行大手ロイズTSB、住宅金融最大手のHBOSを買収。
 アメリカの証券取引委員会、新たに空売り規制を導入。

・9月20日、21日
 国債を発行して不良資産を買い取る「金融安定化政策案(最大7000億ドル)」の詳細が判明。
 ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、証券銀行から通常の銀行持ち株会社に(【ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが証券銀行から一般の商業銀行へ・FRB認可】)
 
・9月22日
 三菱UFJフィナンシャルグループ、モルガン・スタンレーに出資。最大20%・85億ドル(【三菱UHJFG、モルガン・スタンレーの普通株式を最大20%取得へ】)。
 野村ホールディングス、リーマン・ブラザーズのアジア部門、さらにはヨーロッパ・中東部門を買収(【野村HD、リーマン・ブラザーズのアジア部門買収で基本合意】)。

・9月23日、24日
 ウォーレン・バフェット氏のバークシャー・ハザウェイ、ゴールドマン・サックスの優先株式などを50億ドルで取得。ゴールドマン・サックスは同時に公募増資(最終的に50億ドルへ)(【ゴールドマン・サックス、総計1兆円強の増資へ】)。
 アメリカ連邦調査局(FBI)、ファニーメイやフレディマック、A.I.G.、リーマンブラザーズなどの会社や経営幹部を住宅ローン関連の不正疑惑で捜査との報道。詳細は不明。

・9月24日
 金融安定化政策案の承認に関わる攻防戦続く。ブッシュ大統領はテレビ演説で国民に政策案への支持を訴える。

・9月25日
 アメリカ貯蓄金融機関大手のワシントン・ミューチュアルが経営破たん。同時に一部資産をJPモルガン・チェースが19億ドルで取得。JPモルガン・チェース自身は80億ドルの増資を発表。

・9月26日←今ここ
 金融安定化政策案の是非で条件闘争を含めた論議続く(日本時間27日10時時点でまだ成立せず)。
 銀行再編でアメリカ第6位となったワコビアが身売り検討との報道。


火種はすでに去年、あるいはもっと前(サブプライムローンやCDSの展開以降)からばら撒かれていたが、それらが去年の夏に着火し、今年の春以降に連鎖の様相を見せ、リーマン・ブラザーズの経営破たんで一挙に堰を切ったかのように雪崩が発生しているのがわかる。

直近ではアメリカの金融安定化政策案が可決するか、どのような条件になるかに注目が集まっている。しかしこの法案が満額で成立したとしても、派生商品関連の穴埋めへの効果が疑問視されていること、さらに【GS、モルガンの「銀行持ち株会社」転換・投資銀行全滅を招いた戦犯は誰か?(ダイヤモンドオンライン)】でも触れられているように、当事者・責任者でありながら「儲けた時は利益を身内で山分け、損をしたら国に泣きついて自分達はゲットした資産を抱えて高みの見物」的な態度を取っている(元)経営陣への責任問題、業界そのものへのモラルハザード問題など、短期間で事態が解決するような状況でないことだけは誰もが知るとおり。

今後さらにこの流れが加速することになれば、アメリカ、そして世界の金融市場の再編が「100年に一度あるかないか」の規模で起きることだろう。

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