欧米金融機関がかかえるサブプライムローンの損失額と今後の展開

2007年12月03日 06:30

今や金融機関や投資家にとって「つうこんのいちげき」以外の何物でもない呪文にすら聞こえる「サブプライムローン」。「アメリカの住宅ローンが何で日本の株式市場にまで影響を与えるんだッ」と頭を抱えている人も多いだろうが、情報と金融商品とキャッシュが世界を駆け巡っている、つまり「国際金融化」が進んでいる証しなのだから仕方が無い。先日金融庁が「管轄内の金融機関におけるサブプライムローン関連商品保有額は1.4兆円で、現在の損失額は2760億円」と発表したが、「本当にそれだけなの?」と不安に思っている人も多いだろう。そこであちこちの資料を集め、分かる範囲での国内外における「サブプライムローン関連の損失額」をリストアップしてみることにした。

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サブプライムローン、そして関連商品の特性について

まずはおさらい。「サブプライムローン」とはアメリカにおいて信用担保力の低い人たち(主に低所得者)に対して行なわれた住宅ローン。信用力が低いため一般のローンと比べると金利が高く、さらに2年後から金利が急上昇するのが特徴。住宅供給が過剰となり住宅市場が低迷し、また金利上昇後に支払いが出来なくなり住宅を追い出される低所得者層が増加、ますます住宅市場が飽和状態となると共に「サブプライムローン」そのものが焦げ付きつつある。それと共に「サブプライムローン」を組み込んだ各種証券も大きな損失を抱えているのが現状。

サブプライムローンイメージ組み込み方も単純にまとめてではなくて、分割して行なわれているため、どれだけ「サブプライムローン」分があるのか把握しにくいのが現状。例えるなら定食屋で出された野菜炒めの中に、どれだけ国産の野菜があり、中国産の野菜が含まれているのか分からない状態。

さらにサブプライムローン関連商品は一般証券と比べると流動性が低く、一度需給のバランスが崩れると加速度的に価格が乱高下したり、売買そのものが難しくなる傾向がある。現物株式や先物、FXのように、常に多数の売買注文があり取引が成立しているような、高流動性の商品ではない。商品ブローカー同士のやり取りで売買されるものがほとんどで、いわばお寿司屋や日本料理店の「時価」のようなもの。そしてこの「時価」の決定には証券会社の格付けや関連商品の需給が、一般証券以上に大きな影響を与える場合もある。

元々売買している投資家が少ないのだから、一斉に売りに出されたら、そしてそのような状況が起きうる環境になっていれば、買い手がつかないのは明らか(例えば今年で制度がまるっきり別物に変わる国家資格試験において、過去の問題集を積極的に買おうとする人がどれだけいるだろうか)。

サブプライムローン、そしてその関連商品はまさにそのような状況にある。多分に心理的影響もあるが、投売りに近い形であることは事実に他ならない。

損失額のリストアップ

それでは実際に、損失額をリストアップしてみることにする。当サイトではすでに【9月末時点のサブプライムローン関連商品保有額は1.4兆円、損失額は2760億円】で示したように、金融庁が「9月末で国内金融機関の簿価は1兆4070億円、含み損1350億円、確定損1410億円」という数字を出している。他にも内外で大手金融機関がそれぞれ損失額を計上しているが、海外においてそれらをまとめる(といってもすでにまとめてある記事をさらにまとめたものだが)と次のようになる。

■海外の主要金融機関の損失額

シティーグループ……1兆5070億円
メリルリンチ……9240億円
バンク・オブ・アメリカ☆……7260億円
モルガンスタンレー……5060億円
UBS☆……4200億円
HSBC☆……3740億円
ドイツ銀行☆……3500億円
バークレイズ☆……3000億円
ワコビア☆……2750億円
AIG……2700億円
クレディ・スイス……2200億円
JPモルガン・チェース……1760億円
ゴールドマン・サックス……1650億円
リーマン・ブラザーズ……770億円
ベア・スターンズ……770億円(※東洋経済では2260億円)

【USA TODAY】から抜粋
※1ドル110円で換算
※☆マークは週刊東洋経済12月1日号から抜粋


ベア・スタンダーズを例としてあえて注意書きをしてみたが、USA TODAYと東洋経済のリストに、(特に金額において)大きな違いがあるのは、為替レートの変動以外にサブプライムローン独自の特性が原因。詳しくは上記で述べたが、評価額のほとんどが「時価」扱いであるため、「確定損」はともかく「評価損」の算出がしにくい。そして周辺事態は常に流動しているため、この「時価」も非常に動きやすいことがその理由。

また、先に【米メリル、サブプライムで評価損9100億円に拡大し赤字転落へ】でも言及したように、計上されている損失の少なからぬ部分が「評価損」であり「確定損」でないのも不安要素。上記説明にもあるように評価は「時価」であり、大きく変動しうる。買い手がいなければ買い手がつくまで値を下げるか「塩漬け」しなければならないのは個人投資家の現物株式と同じだが、損切りしてでも現金化しなければならない事態においこまれたとき、どこまで値が下がるか想定できない。よもや「タダ」ということはないだろうが、当初の評価額の1/5、1/10でも買い手がつかない状況になることもありえるかもしれない。

このような状況を考えると、上記の損失額がさらに今後増加する可能性は十分にある。実際に各金融機関も、今後追加損失が発生する見通しを発表している(例えばバンク・オブ・アメリカも次の四半期で39億ドルの追加損失計上を見越している)。

政府・金融機関の対応と今後の情勢

先日各報道機関で報じられたように(例【ロイター:ブッシュ政権、金融機関とサブプライムローン金利凍結で合意へ】)、米系大手金融機関とアメリカ政府との間で、サブプライムローンにおける問題の一つ「二年後に金利がほぼ2倍に増える」時期を先送りすることが決定されるらしい。

サブプライムローンの問題の一つには「借りてから二年後に金利が約2倍に跳ね上がり、収入がそこまで対応できずに払いきれず、借金が焦げ付いてしまう」というのがある。この問題において「最初の低金利の期間を2年ではなく、さらに数年(一説では7年)延長」するのが今回合意されるのではないかという案。

金利上昇の開始時期引き延ばし策
・貸倒リスク軽減
・高金利の有利性が損なわれる
 (金融商品として)

この案が事実で実際に施行されれば、少なくとも実際にローンでお金を借りている人にとって、支払の負担が急上昇して払いきれなくなる事態を先延ばしすることができる。猶予期間のうちに収入を増やすか、あるいは「自分の背たけに合った」住宅に引っ越すなり債務を整理することが可能になる。

債務の焦げ付きが少なくなるので、サブプライムローンを組み込んだ金融商品のリスクも下がり、買い手がつかなくなる(そして評価額が下落の一途をたどる)ような事態は避けられる。

……ようにも見える。しかしサブプライムローンを組み込んだ金融商品は、「リスクは高いが利回りも高い」のがセールスポイント。特に「2年後の金利跳ね上げ」を前提に利回り計算をしている商品も多いはず。それらの商品の価値において、「2年後に金利がほぼ倍増するはずのものが、数年延長されてしまう」としたら、その金融商品の価値はどのように扱われるだろうか。「利回り5%、3年目から10%」だから買ったのに、「焦げ付く可能性が高いので10%に引き上げるのは10年後からにします」と変更されたら、変更前ほどの購入魅力はあるだろうか。「ゼロになる、あるいは買い手がつかなくなるよりはマシだけど」と思うかもしれないし「マシだけど、でも魅力はないから出来れば売り抜けてもっと高利回りのものに買い換えたいな」と考えるかもしれない。

焦げ付きのリスク軽減を評価するか、それとも利回りの事実上の悪化をマイナスに受け止めるか、それは市場の判断に任されることになる。そしてそれはフタをあけてみるまで分からない。


ちなみにデータを参照した記事の一つ、【USA TODAY】では記事のトップ部分に2003年1月以降のアメリカにおける住宅市場の市場規模変遷(折れ線グラフ)と、年間ベースのサブプライムローンの住宅ローン全体における割合(円グラフ)が記されている。また、同じく参照した東洋経済の特集号でも言及されているが、サブプライムローンに代表される住宅バブル問題は、実はアメリカだけでなくヨーロッパでも(独自に、そして確実に、大規模に)進行中である。また、「サブプライムローン」が大騒ぎされてそればかりがクローズアップされているが、欧米を含む各金融機関の損失が「サブプライムローン」だけによるものとは限らない。

さて。

近年では例えばブラックマンデーやアジア通貨危機、LTCM破綻などのような金融危機が起きた際、多少の(場合によっては大きな)影響を受け各種体制の変更を行いつつも、各国政府や金融機関、関連組織が知恵を振り絞り対処を行い、なんとか乗り越えてきた。日本国内でも2000年からはじまるITバブルの崩壊や、2003年前半に日経平均が7000円台をつけることになる金融恐慌(メガバンク危機)を経験しつつ、どうにか立ち直ることができた。

今回のサブプライムローン問題も、以前から識者の間で警告されていたこともあわせ、恐らく後に経済史において、ブラックマンデーや世界大恐慌と肩を並べる形で語られることになるだろう。しかしかつてのそれらの事象と同様、関係機関が英知を振り絞り対処することで、必ずや状況の改善が図られ、問題は解決され、市場も安定化するに違いない。


それがいつになるのかは分からないし、今現在が「山場を越えた」のかそれとも「まだ序の口」なのかは分からないけれども。

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