UBSの損失発表で見えたもの~サブプライムローン損失の底知れぬ奥深さ

2007年12月12日 06:30

サブプライムローンイメージスイスの金融機関の大手であるUBSは12月10日、アメリカの低所得者向け住宅融資「サブプライムローン」関連の金融商品焦げ付き問題で、新たに約100億米ドル(1兆1000億円)の損失を計上した。この損失を補完する目的で130億スイスフラン(1兆3000億円:1スイスフラン≒100円)の強制転換社債を発行して資本基盤を増強するなどし、「難を逃れる」ことになった。このリリースにおいて、サブプライムローン問題の一面が把握できる文言が記述されているので、ここで改めて取り上げてみることにする。

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サブプライムローンの問題点は2つ・「細切れ」と「評価額計算」

■サブプライムローン関連の
 金融商品の問題点
(1)どこに混じっているか分からない
(2)評価額の算定問題

サブプライムローンが大きな問題になっているのは、そのローン自身が単独で「焦げ付いている」のではなく、「細切れ」にされ「増殖した形」で世界中に出回っているため。例えがあまり良くないが、あるハンバーグ工場で異物混入の形跡が認められたとする。実際に異物が入っていた特定のハンバーグだけでなく、混入されたと思われる時期に生産されたハンバーグ全品、さらにはそのハンバーグを用いたお弁当やハンバーガーまでもが「異物混入の可能性あり」として疑われ、大抵の場合は回収されることになる。

サブプライムローンイメージこの「異物が混入した可能性のあるハンバーグ」が、焦げ付き可能性のあるサブプライムローンだと思えば良い。さらにやっかいなのは、サブプライムローンの場合、このハンバーグが刻まれてミンチにされたり、フライにされたり、果ては炒飯の具にされるなど、元の姿(ハンバーグ)がまったく分からない状態になっている可能性もあること。サブプライムローン「を含んだ」金融商品にしても似たような状態で、売っている金融機関もその中に「サブプライムローン」が紛れ込んでいるかどうか分からない場合が多い。だから「損失が確定しにくい」わけである。その観点で見れば【米メリル、サブプライムで評価損9100億円に拡大し赤字転落へ】にもあるように【野村ホールディングス(8604)】が多額の損失を出しながらもスパっと損切りを成し遂げできたのは、評価に値する。

さらにもう一つ、「サブプライムローン」がやっかいなのは、その金融商品を取り扱う市場の取引高が少なく特殊化しており、純資産価値を算定しにくいところにある。例えがもの凄く煩雑になるが、高級料理店の「時価」のようなものだと思えば良い。要は買い手がいない、あるいは「その値段では買わない」として拒否され誰も買ってくれなくなったらたら、推定評価額≒資産価値は奈落の底に落ち込むことになる。まさに今がその状態といえる(【欧米金融機関がかかえるサブプライムローンの損失額と今後の展開】)。

UBSのリリースに潜むもの

さて、肝心のUBSが発表したリリースだが、具体的には【こちら(PDF)】。内容をざっとまとめると

・サブプライムローン関連で1兆1000億円の追加評価損を計上
・財務上の補填をするためシンガポール政府投資公社から1兆1000億円、中東の匿名の戦略的投資家から2000億円の強制転換社債による増資を受ける(2年内、それまでは年利9%)
・配当を現金から株式配布へ変更


となる。要は「サブプライムローンで評価損が大きくなって財務上危なくなったので、シンガポールや中東に増資を引き受けてもらった」ということ。先月もシティグループがアブダビ投資庁から出資を受けて助け舟を出してもらうなど、「オイルマネー」を中心とした海外金融機関による対応策が相次いだことにより、「サブプライムローン関連の損失における金融機関の問題は何とかなるのではないか」という雰囲気が市場に浸透しつつある。実際、この発表を好感しアメリカ市場は大きく上げ、それを反映して12月11日の東京株式市場も堅調に推移した。

注目したいのはこのリリース上の、「1兆1000億円(100億米ドル)の評価損」の前後の表記。そのまま抽出してみる。

米国サブプライム・モーゲージ証券市場の継続的な下落に対して、一部は住宅所有者の支払遅延の増加に起因したため、かつ、主として今後の見通しに関する市場の見方が悪化したため、UBSは、米国サブプライム・モーゲージ関連証券を評価するために使用される前提と諸条件を変更しました。これにより、主にCDOと”スーパー・シニア” の保有について、約100億米ドルの追加の評価減が生じます。サブプライム市場の下落が継続することに鑑み、UBSが保有する残るサブプライム証券の評価は、11月末までに米国サブプライム関連証券と指数の取引がほとんど行われていないという状況で形成される価格による極めて厳しい損失予想を反映するものとなります。

※強調は当方による


サブプライムローン関連の金融商品が、きわめて薄商いの市場であることはすでに説明した通り。そして市場心理が「売り一色」であることも説明するまでもない。さらに12月6日に発表された「金利上昇分の5年凍結」により、サブプライムローンそのものの焦げ付きの可能性は減ったものの回収期間が延び、金利収入も減退してしまうことになる。「焦げ付くよりはマシ」とはいえ、貸し手としては痛手になる≒証券価値は下がる。借り手は延命されても、貸し手としては複雑な心境に違いない。

リリースによればサブプライム関連の金融商品の市場においては、下落が続き、さらに(UBS保有分については)取引がほとんど行われていない……というより買い手がいない状況であることが分かる。しかもかなり深刻なレベルで。

UBSが過去に算定した評価損は4200億円。そこから1兆円超も増えた理由は

そしてもう一つ。「欧米金融機関がかかえる~」でも触れていたが、UBSは10月30日の段階でサブプライムローン関連の評価損を(確定損失も含めてだが)4200億円(42億スイスフラン)と説明していた(【発表リリース、PDF】)

第3 四半期のUBS の業績悪化は、主に、インベストメント・バンクの債券・外国為替・コモディティー部門における42億スイス・フランのマイナス収益を招いた、米国サブプライム住宅モーゲージ担保証券市場に関するトレーディング・ポジションの相当額の損失および評価減によるものでした。


手持ちのサブプラ商品は変わらない。
資産評価の掛け率が勢い良く下がり
多額の損失計上が必要になった。

つまり、10月30日時点でサブプライムローン関係の「含み損+確定損」が4200億円だったのに対し、この「含み損」分について「ほとんど誰も買ってくれなくて含み損の再計算を現状値を思いっきり下げてしなおさねばならない」としたところ、追加で1兆1000億円の損失が発生した、ということになる。「取引がほとんど行われていない」という表記もあるので10月30日以降に新たな確定損が発生しなかったと仮定すれば、

保有サブプラ商品×(1-10月30日時点の評価割合)+確定損=4200億円
保有サブプラ商品×(1-12月10日時点の評価割合)+確定損=4200億円+1兆1000億円

∴保有サブプラ商品×(10月30日時点の評価割合-12月10日時点の評価割合)=1兆1000億円


となる。要は「買値に対して評価率(掛け率・担保率・資産評価率)が変わるだけで1兆1000億円も評価損が発生するほど、評価率を一挙に下げざるを得ない市場状況にある」ということを表している。元々の買値がいくらかは不明だが(恐らく数兆円の単位だろう)、「買い手がいないけど、これくらいだろう」として計算していた評価について、どうしても買い手が見つからないので評価率・評価額を下げねばならないUBS側の心中は察するに余りある。

分かりやすく具体例を挙げると、くだんの「ライブドアショック」で手持ちの株式の掛け率が(一切売り買いしていないのに)突然ゼロにされてしまったようなもの、と表現すればよいだろうか。

UBSだけの問題に留まるのか否か

問題なのはこれがUBSだけの問題で終了するのかどうか。サブプライムローン関連の金融商品市場がそこまで売り一色で冷え込み、財務会計上の評価について見直しをしなければならない状態だとすれば、再計算をしなければならないのはUBSだけではない可能性がある。大手金融機関で直近では12月18日にリーマン・ブラザーズが、19日にはモルガン・スタンレーが、20日にはゴールドマン・サックスやベア・スターンズが四半期決算を発表する。

これらの機関の発表がいかなるものになるのか。既存の発表のままの評価で済むのか、UBSのように保有サブプラ関連商品の再評価を余儀なくされるのか。「困ったこと」になったとして、白馬の騎士的な存在がまた助け舟を出してくれるのか。今はただ注意深く事態の推移を見守るしかない。

唯一の救いは、各金融機関が所有しているサブプライムローン関連の金融商品の買値額以上の損失は、発生し得ないということくらいだろうか。その意味ではこの記事のタイトル「底知れぬ」は間違い、ということになるが(笑……えない)。

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