上場企業の粉飾8パターンと個人投資家がだまされないための3つのチェックポイント

2007年07月01日 19:30

今世紀に入ってしばらくしてからの新興市場の軟調さの最大の原因(あるいはきっかけ)ともいえる「ライブドア・マネックスショック」は、ライブドアの粉飾決算が発覚したのがきっかけだった。また、最近では【加ト吉(2591)】の循環取引や、アイ・エックス・アイとインターネット総合研究所の連鎖上場廃止をはじめ、粉飾決算に関する話題は尽きることがない。企業の力を推し量るのに必要不可欠な、いわば「お金の成績表」ともいえる財務諸表を偽る「粉飾決算」がなぜ行われるのか。先に【新興市場銘柄を正しく選ぶ5つのチェックポイント+1】で紹介した『ダイヤモンド ZAi』のコラム記事「ホントの株の話」の最新号で、非常に分かりやすい解説が行われていたので、当方(不破)自身も読み解きながら、ここでピックアップしてみることにする。

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粉飾決算と財務諸表、信義則

財務諸表は「お金の成績表」。成績表を偽ったところでテストの点数は変わらないし、学校に納められているデータが差し換わることはない。このように考えれば「粉飾決算がなぜ行われるのか」が分かる。要は、本物の成績表なら「親に良い成績であるように見せるため」、財務諸表なら「株主に(または取引所や証券取引等監視委員会に)良い財務状態であるように見せかけるため」に行うのである。

株式市場の前提は
「財務諸表は正しい」。
粉飾決算はその前提を
根底からくつがえすもの。

財務状態が悪ければ自社株は売られ株価は下がる。増資をしたくとも引き受け先も見つからず、自社株の担保価値も下がり資金繰りも悪化する。さらに上場基準に抵触して上場廃止の処分を受けてしまうかもしれない。逆に財務状態がよければ株価は上がり増資も容易に出来、資金繰りも堅調になる。

企業全体ではこのような理屈からだが、例えば先の加ト吉の例なら「自分の担当部署の売り上げが落ち込んでいて責任を取らされるかもしれないから」との理由で循環取引で粉飾をするというように、もっとダイレクトな理由の場合もある。

どちらにしても粉飾決算は、成績表なら親にとって、財務指標なら株主にとって、とんでもない話である。営業成績好調で売り上げ毎年何倍増という急成長を遂げている会社を見て「これはさらに成長を続ける」と思いその会社の株を買い込んだら、実はその大部分が(循環取引による)粉飾決算。ほとんど利益を上げていなかったことが発覚し、株価が暴落して大損してしまう……という冗談にもならない事態がここ数年の間、特に新興市場に相次いで見受けられる。

上場企業に限らず企業が第三者から評価を受ける場合、もっとも身近で重要視されるのが、財務諸表。特に上場企業ではルールが厳格化されていて、財務諸表には間違いが無いという前提で取引が行われている。株主は公開された財務諸表を信じ、その会社を判断し、株式を売買している。その諸表がいつわりのものだとしたら、信義則も何もなくなってしまい、取引そのものが出来なくなってしまう。ライブドア騒動で損失を受けた株主の多くが憤っているのは、「信じるに値する」はずの上場企業の財務諸表に大きな粉飾があったからに他ならない。

粉飾8パターン

さて、「ホントの株の話」では、粉飾について8つのパターンがあるとしている。項目としては次の通り。

1.売り上げを前倒しにする
2.売り上げを架空計上する
3.費用を先送りする
4.費用を計上しない
5.資産を評価替えする
6.資産を架空計上する
7.負債を評価替えする
8.負債を計上しない


例えば「1.売り上げを前倒しする」は【売上の繰上計上の件でミサワホーム九州(1747)など正式発表、監理ポスト行きへ】などで報じたように、ミサワホーム九州が行った手法として記憶に新しい。

要は「入るお金」を前倒ししたりでっち上げたり、「出るお金」を先延ばししたり無いことにしたり、手持ちの物品の価値を操作したりする。計算上、入るお金が増えて出るお金が減れば、利益が増えたように見えるのは明らかだ。

共通しているのはいずれも「帳簿上の調整」なこと。伝票くらいは偽造しているかもしれないが、例えば「一番上が本物の紙幣で下はすべて新聞紙の札束」を作って資金を大量に保有しているように見せかけているわけではないこと(考え方はそれに近いが)。「机上の空論」ということばがあるが、まさに「粉飾決算」は「帳簿上の空論」でしかない。それぞれの項目の詳細なチェック方法は、ZAiの該当号をご参照あれ。

また、特に物理的に商品が存在しない産業(ソフト、サービス、コンテンツ分野)では、架空の売り上げを計上しやすいので注意が必要となる。「確かにこの業界、この会社は堅調なのだが、あまりにも売り上げが急増しすぎではないか」と思ったら、財務諸表をスミからスミまで見直してみる必要があるだろう。アイ・エックス・アイの事例もあるし。

粉飾チェック3ポイント

粉飾をする側はすべての対象となる人たちを信じ込ませようとしてその表を作っている。例えば損益計算書や貸借対照表の右と左の項目の合計値が違っているなどというマヌケな粉飾なら話は別だが、通常の場合、ほとんどの人は一目ではそれが正しいものかどうかを見抜けないだろう。事実が発覚して「この財務諸表はおかしなところがあります」と指摘され、読み直して「なるほど、言われて見れば確かに変ですね」と理解するのがほとんどのはず。

そこで「ホントの株の話」では、個人投資家が粉飾決算にだまされないためにチェックすべきポイントとして次の3つを挙げている。

1.キャッシュフローを見る
2.事業の実態と会計上の利益のギャップに注目する
3.粉飾の「動機」を見抜く


一つ目の「キャッシュフローを見る」とは、お金の流れを見定めるということ。財務諸表は実際のお金の流れを会計ルールに従ってまとめ上げた「早分かり表」「成績表」であって、お金そのものではない。

例えば「この一か月間はずっと自宅にいましたよ」とアリバイ(粉飾された財務諸表)を主張する容疑者がいたとしても、その自宅の水道・電気消費量(お金の流れ)がその一か月間はほとんどゼロだということが分かれば、「なぜ自宅で過ごしていたのに水も電気もほとんど使われていないんだ」と偽装を見破ることができる。

企業の財務諸表も同じこと。現金の流れが財務諸表の数字と比べてあまりにも乖離している場合には、注意した方がよい。

二つ目の「儲かっているようには見えないけど」というのはその企業や業界をよく知っていないと判断できない。その企業をよく知っていれば容易にチェックできるポイントではあるが、そうでないと難しいだろう。

三つ目の「粉飾の”動機”を見抜く」とは、冒頭でも説明した「なぜ粉飾をしなければならないのか」という動機から逆に考えてみるというもの。コラムでは理由として「事業上の動機」「経営者の動機」の二つに大別している。

前者は会社そのものが利益を上げられなくなり、儲けを出す方法が分からないので(そのままでは会社が左前になり上場廃止になるから)粉飾をするというもの。後者は企業が儲けているように見せて株価が上がれば、手持ちの株式(やストックオプション)を高く売り抜けて大儲けできるから、というものである。

動機による粉飾を見抜く方法は、結果論になる場合が多い。「事業上の動機」は二つ目のポイントと共通する部分が多くそちらで確認できるし、「経営者の動機」は「経営陣が株式を売却して上場益を得る」こと自体は正当な報酬であり経済行為であって、何のやましいところもない。「粉飾決算」「株価の急騰」「経営陣の株式売りぬけ」「粉飾発覚」と一連の流れが明らかになって、初めて「粉飾決算をしていたのか、理由は経営陣が高値で売り抜けるためだったのか」と分かるのである。


信ずべきもの(財務諸表)が信じられない事態がまん延すると、そのシステム自身への不信感が強まり、リスクが高くなる。そのシステムを使う人は減少し、ますますそのシステムの存在意義が薄れてしまう。他にも理由は多々あるが、新興市場がいまだに低迷を続けているのは、この「負のスパイラル」が大きな一因であることに違いない。

各取引所や証券取引等監視委員会、金融庁も、9月に施行される金融商品取引法を足がかりに本腰を入れて信頼性の回復に乗り出しているようだ。これはこれで期待したい。一方で、どんなにルールが厳粛化されてもその網の目をかいくぐるようにして、投資家に背中を向けて「あっかんべぇ」をする企業は出てくるもの。8つの粉飾パターンと3つのチェックポイントは基礎中の基礎にして汎用的なものであるので、末永く役に立つはずだ。

「諸表を見るだけで頭が痛くなってくる」という人も少なからずいるだろう。それでも数万、数十万、あるいはそれ以上の額を投資するかどうかを判断するのに有効な知識であるのには違いない。最低限でも「財務諸表を読み解ける」「異様な数字(売り上げ)の雰囲気を感じ取れる」ようになるべきだろう。そうすれば少なくとも、先のライブドア・マネックスショックのような事態から避けられる可能性は、グンと高まるはずである。


■関連記事:
【加ト吉事件でのはてな「循環取引」とは?】


(最終更新:2013/09/08)

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