プロジェクト名は「オーシャン・サンライズ計画」・東京水産振興会発の「海藻からバイオエタノール年間400万トン」構想詳細判明

2007年05月15日 19:35

バイオエタノールイメージ先に【「海藻からバイオエタノールを400万トン/年生産」水産振興会構想発表・2013年から実証事業開始】で報じた、【東京水産振興会】による「海面上に大きな海藻養殖場を作り、その海藻でバイオエタノールを量産する計画」について、主要マスコミに提供されたプレスリリースの提供を受けることができた。そこでここでは、先の記事を補完する点や以前参照した記事では分からなかったポイントをいくつかまとめてみることにしよう。

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プロジェクト名は「オーシャン・サンライズ計画」

リリースによると当計画の正式名は「オーシャン・サンライズ計画」。平成18年度水産バイオマス経済水域総合利活用事業可能性の検討(財団法人東京水産振興会)に関する委員会で検討されている、日本の豊富な海洋空間(資源)を活用する、海洋資源及び環境開発プロジェクト。

排他的経済水域(EEZ)と領海を合わせて面積で447万キロ平方メートル、世界では第六位に位置するこの地の利を活かし、資源エネルギー問題や地球温暖化、産業創造や国土保全に寄与していこうとする計画。年間1.5億トンの海藻(ホンダワラ科のアカモク)を養殖して約400万トンのバイオエタノールを生産する云々は先の記事で伝えたとおり。

「オーシャン・サンライズ計画」の流れ
「オーシャン・サンライズ計画」の流れ

問題なのはここからで、バイオエタノールを精製させた残りの部分には多くのミネラル分が含まれているため、家畜飼料サプリメントや肥料ミネラル分の原料として利用ができるという(概算で年間630万トン)。つまり、これまで未使用だった海面を用いて、従来のバイオエタノールの精製の際には家畜飼料との奪い合いの構図となっているとうもろこしなどの穀物を使わずに「バイオエタノール」を生産できる。それどころか、さらに多大な飼料を提供できることになる。

アカモクの成長率の凄まじさ

原材料として用いられるアカモク(ホンダワラ科)のスペックも説明されている。資料によれば0.3ミリほどの卵からわずか1年で全長5メートルほどに成長。東北地方の日本海沿岸などでは食用としての地位を獲得している。北海道東部を除く日本全土に分布し、養殖技術も基本的に確立している。

他にもコンブなども今プロジェクトにおける養殖対象海藻種として挙げられているが、やはりアカモクの頼り甲斐にはかなわないようだ。

鍵の技術は「RITE菌」と「シーカイト」

「オーシャン・サンライズ計画」では既存技術の積み重ねと改良によって、事業化の時間短縮とコストの削減を目指しているのは先の記事の通り。鍵となる技術は「RITE菌」の改良と「シーカイト」にあるという。

「RITE菌」とは先に【ホンダ(7267)、雑草を材料にバイオエタノールを製造する新技術を開発】でも取り上げた、[ホンダ(7267)]と【地球環境産業技術研究機構(RITE)】が開発した特殊な微生物。植物内のセルロース(繊維)と反応させてバイオエタノールを作り出す性質を持っている。

このRITE菌を改良し、エネルギー収支が割の合うタイプのものに作り変え、今プロジェクトに使用する。RITE菌の活用により、生産コストにおいてもバイオエタノール1リットル当たりとうもろこしの場合は56円かかるのに対し、海藻の場合は47円で済むという。今後とうもろこしの価格がさらに上昇する可能性が高いことを考慮すると、海藻の有効性はますます高まるといえよう。

養殖用施設の「シーカイト」。
養殖用施設の「シーカイト」。
1キロメートル超の網で
海藻を作りまくる。

また「シーカイト」は、ロープとネットでできている大きな凧(三角形のゲイラカイトのようなもの)を海流の上に浮かべて養殖するもの。水深1000~3000メートルでの養殖を想定している。長さは1.6キロ、幅は1.0キロ、養殖面積は1.6平方キロ。この「シーカイト」一つで9万4200トンの海藻が養殖でき、2500トンのバイオエタノールに生まれ変わる。

「シーカイト」は海流がある深海向きで、大陸だななど海流のない浅い海には、既存のコンブ養殖のような浮き流し型の養殖設備を巨大化したものを用いる。

育てられた海藻は巨大な海洋運搬バッグ(10×10×50メートル・容量5000トン)につめられて小型船で海藻バイオエタノール生産プラントまで牽引される。

今後の計画予定など

事業計画については今年度は基本計画の策定と普及啓発の開始に留まっている。今年7月にはシンポジウムを開催し、さらに9月末に開かれる国際会議OCEANS'07での発表も予定しているとのこと。

そして来年度から技術開発事業が本格的に始まり、海藻の栽培技術開発やエタノールの回収・利用技術の開発が行われる。これら技術開発を2012年度までに終えて、2013年度からは事業化のための実証実験事業がスタートすることになる。

この実証実験事業には前段階の技術開発時のインフラも活用し5年間ほど実施し、その過程で3年ほど様子を見て支障がなければ2015年前後から本格的な事業化に入るとのこと。

資料に掲載されている関係者一覧を見て観ると、大学教授(酒匂敏次・東海大学名誉教授、石谷久・慶応大学教授)や、全日本漁港建設協会の大島登会長、各種財団・社団法人、日本政策投資銀行、オブザーバーに水産庁や国土交通省の部局員、事務局に【アクロス・コンサルタンツ】の姿が見える。「今後民間の協力を仰ぐことが望ましい」「最終的には民間に」という言葉が見受けられるが、現段階では民間企業の姿は見つからなかった。


「海藻の大量生産によるバイオエタノールの原料確保」という大規模プロジェクトについては、今年の三月に【海藻(かいそう)でバイオ燃料問題が一挙に解決!? 東京海洋大や三菱総合研究所などが計画】で報じた案件が記憶に新しい。この件と今回資料の提供を受けた件は、「数字の部分でかなり大きな開きがある」「官民共に同一する人名・団体名が無い」ことなどから、まったく別系統のプロジェクトだと思われる。実際資料請求のために電話で問い合わせた際も、そのような反応が得られた。

先に共同通信の記事を元に今件についての第一報を掲載した際には「実際に4.5万~9万平方キロメートルの海藻養殖場を作るのは非現実的だ」という意見が得られた。仮に1%の4.5万平方キロメートルとなると、九州全土の面積(4万2175平方キロ)にほぼ等しい。東京都なら20個分である。日本の沿岸沿いすべてに散らばらせるとしてもメンテナンスや警備の面もあわせ、非常に広大なプロジェクトになることだろう。

とはいえ、(例えば軌道エレベーターやスペースコロニーのような)技術的に気の長い話ではなく、既存技術とその改良の延長で出来るものであり、十分に手が届きそうな内容に違いない。液体燃料の供給不足リスクに常に悩まされる日本としては、国策レベルで強力に推進すべき案件といえるだろう。また、技術やノウハウを習得できれば、他の海洋国(イギリスやアメリカ、オーストラリアなど)にも転用し、日本が世界に誇れる新しい産業と成りうる可能性も秘めている。


(最終更新:2013/08/21)

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