「海藻からバイオエタノールを400万トン/年生産」水産振興会構想発表・2013年から実証事業開始

2007年05月12日 12:00

バイオエタノールイメージ共同通信が5月9日に報じたところによると、農林水産省所轄の財団法人【東京水産振興会】の研究委員会(座長・酒匂敏次東海大名誉教授)は5月9日、バイオエタノールを海藻(かいそう)から大量に生産する構想を発表した。同振興会の調査研究委員会がまとめたという。

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元記事によると海面に浮かべた網でアカモク(ホンダワラ科)やコンブなどの海藻を、海中に浮かせた巨大な網にタネや苗を植えて養殖し、工場も洋上に建造。その工場で海藻を材料としてバイオエタノールを生産するという。

この仕組みでは原材料の調達コストが現在バイオエタノールの主要材料であるとうもろこしやさとうきびなどの穀物と比べると安く、新たな技術開発も少ないため、ハードルは比較的低いとされている。また、食糧との競合も避けられるので、現在すでに影響が出ている価格全体の引き上げなど、食糧方面での悪影響も防げるメリットがある。

試算では日本の領海と排他的経済水域(EEZ)をあわせた海域約447万平方キロメートルのうち1~2%を用いるだけで年間1.5億トンの海藻を養殖でき、この海藻から400万~500万キロリットルのバイオエタノールが生産できるという。これは現在の日本国内のガソリン使用量の約1割にあたるとのこと。

当計画では2013年頃から実証事業を始めるべく各方面に働きかけをしており、漁業者や民間企業が事業主体になることを想定しているが、スタート時は国の事業とするように、国に働きかけるという。

今件については東京水産振興会サイト内の【水産振興事業】にその言及を見つけることができる。それによると、

「水産バイオマス経済水域総合利活用事業可能性の検討」(継続事業)
 平成18年度より開始した本事業は、水産バイオマスとしての海藻類の利活用に関する様々な調査研究を通じて、海藻類をバイオマスエネルギー(主としてバイオエタノール)の原料として活用するという方法が温室効果ガスの削減にとって有効であるという研究成果を得た。19年度は、引き続き、基本技術の確立のための技術開発、実証実験等についての検討を行う予定である。


とあり、昨年度から事業がスタートしたことが分かる。

バイオエタノールは地球温暖化対策や燃料不足の解決策として注目を集めているが、早くも穀物価格の高騰やそれに連鎖する形でさまざまな食料品市場の変化を引き起こしており、問題視される向きも出てきた。

【キユーピー、17年ぶりにマヨネーズ値上げ・バイオエタノール普及の影響】でも言及したが、バイオエタノール生産を国策としているアメリカではバイオエタノール向けとうもろこしの増産を最大で「食糧向けとうもろこしの」5倍にまで拡大する計画を持っている。その一方で、繁殖力が強く精製効率の良い「スイッチグラス」なる雑草をバイオエタノールの材料にしようという計画も推し進めている。

雑草にしても海藻にしても、現在の食糧市場に影響を及ぼさない原材料でバイオエタノールが生産できるのなら、それに超したことはない。また海藻なら過剰な栄養塩を除去するという「海のクリーニング」という効果もあり、一石二鳥である。今後の事業進展に期待したい。

……ということなのだが。

すでに賢明な読者の方々はお気づきだろうが、「海藻を大量繁殖させてバイオエタノールを生産する」という構想については、すでに3月の段階で【海藻(かいそう)でバイオ燃料問題が一挙に解決!? 東京海洋大や三菱総合研究所などが計画】として報じている。しかしこちらについては国際学会【国際海藻シンポジウム】での更新情報に記載はなく、その他発表されたとされる学会の後に関係法人や研究所などに問い合わせたが「資料無し」「学会で発表したのでペーパーやネット上で公開するつもり無し」などけんもほろろな結果となり、続報をお伝えできない状態。

当時の記事による「海藻バイオエタノール構想」と今件のそれを比較してみると

(前回のもの/今回のもの)
養殖場の広さ……1万平方キロ/4.5~9万平方キロ
年間精製バイオエタノール量……2000万キロリットル/400~500万キロリットル


となり、精製効率や規模にかなりの違いがあるのが分かる。

また前回のプランでは経済団体連合会が基礎となった【海洋研究開発機構】が関係しているが、今回のでは農水省が半ば直接タッチしている形となっている。さらに今件では(ソースが共同通信によるものだけなので分からないところも多いが)現状では民間企業の姿は見受けられない。

恐らくは似たような構想を別々のルートで考案し、たまたま時期的にほぼ同時期にそれぞれが発表した、ということになるのだろう。双方とも詳しい資料どころからプレスリリースすら一般公開していないので精査できないのが残念だが、少なくとも今件では「2013年には実証事業」という明確なスケジュールが定められている。

今後両プランが何らかの形で合流するのか、それともバイオエタノールのようにそれぞれ別個で進行するという、はたから見れば資源と時間の無駄使いのようなことになるのかは今のところ不明である。プロジェクトそのもの有効性や期待度が高いのには違いないのだから、効率よく話が進むよう、何らかの形で共同作業化を図るなり、合流することになればよいのだが。

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