財政政策の結果予想をグラフ化してみる(上)……所得税減税? 法人税減税?? それとも公共事業に投入!?

2008年12月09日 06:30

財政イメージ先に【円高になるとどんな良いこと・悪いことがあるのか再確認してみる】で円高によるメリット・デメリットを調べていた際に、非常に興味深い資料を見つけた。内閣府所属の内閣府経済社会総合研究所による試算で、同じ予算を「所得税減税」「法人税減税」「公共事業投資」それぞれに振り分けた場合、経済はどのような動きを見せるのか、というものを3年先までシミュレートしたものだ。国家運営系の戦略シミュレーションゲームのような設定とその結果はもちろん、その結果から「なぜあのような政策をあの人たちは叫んでいるのか」がそれとなくつかみとれるデータであったため、簡単にまとめてグラフ化してみることにする。

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用いた資料は内閣府経済社会総合研究所が2008年11月に発表した【短期日本経済マクロ計量モデル(2008年版)の構造と乗数分析】。要は、さまざまなパラメータを事前に設定入力しておくことで、「このような政策をとった場合、どのような経済上の変化が生じるのか」を推算するモデルを創り出し、それを元にいくつかの事例を挙げて実際に計算してみたらこうなりましたよ、という研究結果。入力データとしてはできるだけ最近のものを用い、さらにバブル期のデータを除外してバブル崩壊後のデータに限定。より現状に近い経済構造の反映を目指している。

元データでは各種想定毎に16項目について、発動1年目から3年目の予想数値が挙げられているが、ここでは一般消費者が関わりやすい値や比較検証用として欠かせない値として「実質GDP」「消費」「単位時間当たり賃金」「失業率」「財政支出対名目GDP」の5項目を抽出し、グラフ化することにした。

今記事で対象としたのは「所得税減税」「法人税減税」「公共事業投資」の3政策。「名目GDP1%相当」という予算を与えられた場合、どの政策を実施するとどんな影響が生じるのかが試算されている。ちなみに2007年における名目GDPは約515兆7000億円なので、その1%だと約5.2兆円というところだろう。また、当然ながら変化した値以外はまったく現状維持が前提となっている。

まずは「公共事業投資拡大」。3年の間GDPの伸びは1%程度が期待できる。

公共事業GDP比で1%相当額だけ継続的に拡大
公共事業GDP比で1%相当額だけ継続的に拡大

消費はさほど伸びないが、賃金の拡大は大きなものとなる。また失業率もわずかながら減少を見せる。いわゆる「道路建設」「箱物建設」に代表される建築事業の成果がこれだ。もちろん例えば「公的機関による太陽光発電施設」や「海洋バイオエタノール農場の建設」など「未来への橋渡し的事業」という観点で公共事業を手がければ、波及効果は計り知れないものになる(いずれにせよ恩恵を受ける部分への片寄りが生じるが)。

続いて「個人所得税減税」。多くの消費者にとっては、これが一番ダイレクトに「財政活動による景気対策をした」ことが実感できる。例えばサラリーマンなら、手取りが増えることになる。

名目GDP1%相当の個人所得税減税(継続減税)
名目GDP1%相当の個人所得税減税(継続減税)

GDPのかさ上げはやや小さくなるが、消費は活性化する。ただし直接企業が受ける恩恵は多くないので、賃金上昇率は小さい。そして財政が受けるダメージはかなり大きなものとなる。

最後に「法人税減税」。GDPや賃金はそこそこ伸びるが、消費は大きく抑えられる。そして失業率は3年目になるとプラスに転じてしまう。

名目GDP1%相当の法人税減税(継続減税)
名目GDP1%相当の法人税減税(継続減税)

財政上の受けるダメージはほぼ個人所得税の場合と同じ。ただし個人所得税においては段々とダメージが小さくなるのに対し、法人税の場合はその減り方が小さい。恐らく、中期的に見れば法人税の方が財政に与える影響は大きくなるだろう。

以上のような結果から見て、名目GDP1%の景気刺激予算があると仮定して、単独の目標のみに3年間継続して注入を行った場合、

・GDPかさ上げ……公共事業>法人税>=所得税
・消費かさ上げ……所得税>公共事業=法人税
・賃金かさ上げ……公共事業>法人税>所得税
・失業率減少……所得税>公共事業>法人税
・国家財政負担……公共事業>法人税=所得税


という順位立てをすることができる。

財政イメージもちろんあくまでも「他の条件が同じ場合」という仮定上の話でしかないので、対外的要因によってこの結果は大きく異なる。さらに例えば、前回の金融危機以来昨今までの(いわゆる)「好景気」において企業の多くが利益を拡大したにも関わらず、給与水準がほぼ横ばいかむしろ下落していた現状を見ると(【「年収300万円以下の低所得者層」と「2000万円以上の超高所得者」の増加……二極化する給与実態】【景気回復はサラリーマンからは遠く……給与は9年連続減少、格差も拡大方向に】)、法人税を下げたところで賃金が計算どおり上昇するかどうかは、きわめて疑わしい。また、法人税・所得税はある程度公平に恩恵が受けられるが、公共事業の場合は前述したように、財政出動による恩恵を直接受けられるのは、特定の業界に限られてしまう。

それでもこの仮説通りで経済が動くとすれば、「できるだけ財政負担を低く抑えたい」国から見ればどの選択肢で「景気対策をしたい」かは、おのずから見えてくる。また、個人・法人それぞれの立場から、「どれが選ばれれば一番自分のふところが痛まず、恩恵を得られるか」を想定すれば、それぞれの立場が主張している「景気対策」の事由が理解できよう。


■一連の記事:
【財政政策の結果予想をグラフ化してみる(上)……所得税減税? 法人税減税?? それとも公共事業に投入!?】
【財政政策の結果予想をグラフ化してみる(下)……消費税1%アップ・金利1%引き上げがどのような影響を及ぼすのか】

(最終更新:2013/08/01)

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