「年収300万円以下の低所得者層」と「2000万円以上の超高所得者」の増加……二極化する給与実態

2007年09月29日 19:35

国税庁は9月27日、2006年における民間給与実態統計調査を発表した。その発表内容から、民間企業で働く人が2006年中に得た平均の給与は434万9000円であり、1998年から9年連続で減少していることなどについてはすでに【景気回復はサラリーマンからは遠く……給与は9年連続減少、格差も拡大方向に】でお伝えしたとおり。今回はこのデータについて気になる点に絞り、もう少し詳しく見てみることにしよう(【発表リリース、PDF】)。

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今調査は基本的に2006年12月31日現在における給与所得者を対象としている。ただし日雇い労働者、各種公務員、源泉所得税の納税がない事務所の従業員は対象外となっている。調査対象者数は29万2316人、調査対象事業所数は2万0873件。

平均給与は毎年減少の一途、ただし減少率は縮小傾向

先の記事でも大きく取り上げた、平均給与について。これは9年連続減少傾向にあることが分かる。

平均給与の推移
平均給与の推移

2006年に限って言及すると男性はわずかに前年比0.1%のプラスという数字が出ているが、女性が大きく0.7%と下げ、全体的には0.4%のマイナス。ただし救われるべき話としては、減少率そのものが縮小傾向にあること。同じ「額」ずつ削られていくのであれば毎年減少率は拡大するはず。その率が縮小していることから考えるに、そろそろ減少そのものが止まるのではないかという期待もある。

格差は広がっている……のか? 低給与者の増加は確実

続いて、各給与階級別の所得者数の違いについて。要は「年収いくらの人が全体のどれくらいいるのか」という割合。まずは100万円単位、1000万円以上は500万単位での区分でグラフ化してみる。

給与階級別の所得者構成比その1
給与階級別の所得者構成比その1

あまりにも階層が細かく区分されて過ぎていて、分かりにくい。そこで【「住民税が2倍に増えた」「自営業者はツラい」の謎を探る】でも取り上げた、国税(所得税)の税率比率の階層に近い、「300万円以下」「300万超~900万円以下」「900万円超」で再区分してみた上でグラフ化する。

給与階級別の所得者構成比その2
給与階級別の所得者構成比その2

この5年間で納税者数にはほとんど変わりがない(2002年で4472万4000人、2006年で4484万5000人)。つまり300万円以下の「低所得者層」の割合=人数の増加が一目で理解できる。しかも高所得者数の比率はほとんど変化がないので、過去において中堅所得者数だった人たちが低所得者層に移行している可能性が高い。仮に5年間で低所得層の増加分がすべて中堅所得層から移動したとすれば、4%近い(人数にして約170万)人が所得減少の憂き目にあい、下層の所得層に移ったことになる。

もちろん年齢的な新陳代謝により、高所得・中堅所得層の高齢者が無くなり、代わりに低所得の若年層が入っている可能性も十分にある。とはいえ、上記計算の半分と仮定しても5年間で80万人弱が給与階級層の下層への変更を余儀なくされたというのは、少ないとはいえない値だろう。

高低給与者は増加していない?

一方先の記事では「給与所得そのものにおける格差が拡大」と仮説を説いたが、上記グラフ上では900万円超の層に変化はなく、高所得者層は変わらないように見える。しかしこれには「900万超1000万円以下の層の急減」と「この層の絶対人数の少なさ」が背景にある。900万円超の層だけを抽出して、さらに全体の割合ではなく2002年の段階の人数を100%とした時の変化率を%でグラフ化すると、次のようになる。

給与階級別給与所得者数・構成比(高給与者のみ・2002年を100%としたとき)
給与階級別給与所得者数・構成比(高給与者のみ・2002年を100%としたとき)

900万円超~1000万円以下が減少していく一方で1000万超~2000万円以下の層はほぼ変わらずかやや増加にある一方、2000万円以上の層が急激に増加しているのが分かる。絶対数こそ少ないが(2006年時点で22万3000人)、5年間に約30%も増加したことが分かるだろう。

要は高給与者の中でもとりわけ「超」がつく高給与者の数が増えていることになる。


今夏に労働経済白書を分析した中で、「企業は業績がアップしても従業員の給与を増やすどころか減らし、配当や社内蓄積、そして役員報酬を増やしている」という話を伝えた(【大企業の業績アップ分は労働者には回らず、企業自身の拡大や役員報酬に~景気拡大の内訳とは】)。今回の計測データでは役員報酬もすべて「給与」に含まれている。よほどの実績を上げた上級の一般従業員が数千万円の年収を手にしている可能性もなくはないが、5年間で30%もそのような社員が増加するとは考えにくく、むしろそのほとんどは役員報酬の増加の結果と見てよいだろう。

一つのデータだけで物事の事象を決定付けるのは正確さに欠けるところがある。とはいえ今回の「民間給与実態統計調査」を見る限り、先の労働経済白書からの結論同様「企業は業績が上がっても従業員への支払を増やすどころか減らし、その一方で役員の報酬は増やしている」可能性が高いことがうかがいしれる。これを「当然の役得」と見るか、「時代錯誤と内需縮小の原因にもなりかねない搾取行為」と見るのか。それは、ひとりひとりの判断にお任せすることにしよう。


(最終更新:2013/08/19)

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