大企業の業績アップ分は労働者には回らず、企業自身の拡大や役員報酬に~景気拡大の内訳とは

2007年08月20日 06:30

時節イメージ【厚生労働省】が8月3日に発表した2007年度版「労働経済白書」(労働経済の分析)によると、前世紀末から今世紀以降に言われている「景気回復」においては、企業の支払う人件費は総じて減少していることや、特に大企業において「儲けた分は利益の拡大と企業の維持拡大、役員賞与の増加、内部留保」に当てられ、賃金支払にむけられる分は少ないことが明らかになった(【白書完全版】)。

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白書では社会全体で作られた付加価値が、賃金を通してどれだけ労働者に配分されたかを示す「労働分配率」の推移が掲載されている。簡単に言い直すと「みんなで作った儲けのうち、どれだけ現場で働いている人の給料に反映されているか」の割合。

社会全体で作られた付加価値が、賃金を通してどれだけ労働者に分配されたかを表す「労働分配率」の推移
社会全体で作られた付加価値が、賃金を通してどれだけ労働者に分配されたかを表す「労働分配率」の推移

これを見ると2000年前後以降の景気回復と共に、労働分配率が低下しているのが分かる。

景気が拡大する時には人件費の上昇以上に国民所得や付加価値が拡大するので(人件費≒給与のアップは遅れて、少なめに反映されるものだ)、一般的に「労働配分率が下がる」=「景気が拡大している」ことを表している。

これ自体は別に悪いことではないが、今回の「景気回復」に伴う労働分配率の減少が過去の事例と異なるのは、「雇用者報酬」の減少も伴っていること。

過去の「景気回復」=「労働分配率の減少」と今回の「労働分配率の減少」における違い
過去の「景気回復」=「労働分配率の減少」と今回の「労働分配率の減少」における違い

これについて白書側では、「所得水準が相対的に低い、非正規雇用者(非正社員)の割合が高まったことが、総計した上での雇用者報酬の削減効果を生み出した」と説明している。

つまり、正規雇用者(正社員)の割合を減らし、アルバイトやパート、契約社員など人件費・所得水準が低い非正社員の割合を増やすことで、総人件費を削っていることになる。

正社員の数を減らして人件費を削減していることの説明
正社員の数を減らして人件費を削減していることの説明

今回の「景気回復」は主に輸出の拡大によってもたらされたことはすでに別記事で述べたとおりだが、景気回復=企業の収益向上がどこに回っているかを表しているのが次のグラフ。

売上高経常利益率の推移(製造業・大企業)(原図から一部抜粋)
売上高経常利益率の推移(製造業・大企業)(原図から一部抜粋)
今回の景気回復では
大企業は上昇利益分を
配当金・内部留保
役員報酬に割り当て、
労働者へはむしろ
減らしている

各期の純利益を売上高で割った「期別純利益率」の構成で見ると(要は純利益のうちどれだけが、各要素に配分されているかの割合)、2001年以降は配当金・内部留保・役員賞与の割合が増加しているのが分かる。特に2005年は配当金と役員賞与の伸びが大きい。

一方で中小企業では、売上高の上昇率が大企業ほどでない(景気回復の恩恵をそれほど受けていない)ので、販売管理費の削減で利益をねん出していることが分かる。


正社員の削減を非正社員の増加で穴埋めして人件費を削減することは、短期的には利益率の向上につながっても、中長期的にはあちこちで歪みを生じさせ、企業の人的厚みや経営資源の蓄積という観点からすればマイナスにしかならないことは、すでに【「男30代は働き盛り♪」けど、ツラくて身体が持ちません!】【企業業績向上、けど基本給は変わらない・残業手当やボーナスで補完中な給与事情】【パート・アルバイトなど増加する非正社員に、正社員並みの仕事をさせる傾向強まる】で説明した通り。また、【「国内経済の喚起には労働者への配分を」2007年度版労働経済白書発表】にもあるように、労働者全体への配分を増やさない限り、内需の拡大などあろうはずもない(与える分を減らしておいて「消費を増やせ」というのは無茶な話、ということ)。

これを「グローバリゼーション化による世界を相手にした企業体質」と見るのか、「国内切捨て、短期的視野における戦略でしかない」と見るのかは、人それぞれ。このような企業戦略が正しいか否かは、そう遠くないうちに明らかになるだろう(一部ではすでに内需の縮小などで具体的な形として現れているが……)。

ちなみに「賃金を上げないのは国際競争力云々」というセリフもよく聞くが、白書内資料によれば(【この資料の189ページ「為替レート換算でみた時間当たり賃金(製造業)」、PDF】)、為替レートの変動もあり、最近ではむしろ日本の時間あたり賃金は相対的に低い水準にある。蛇足かとは思うが、念のため。また、この表中に無い発展途上国との賃金の差を云々というのなら、労働の質などを比較すれば、その論議自体がナンセンスであることもお分かりいただけると思う。

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