「男30代は働き盛り♪」けど、ツラくて身体が持ちません!

2007年08月18日 12:00

時節イメージ【厚生労働省】が8月3日に発表した2007年度版「労働経済白書」(労働経済の分析)によると、労働時間は「増加する層」と「減少する層」の二分化傾向が強まり、特に35歳から49歳の層で週60時間以上の雇用者が増加していることが明らかになった。正規雇用者(正社員)とパート・アルバイト・契約社員などの非正規雇用者(非正社員)の割合において、後者が増加することによって、正規雇用者に負担が増えていることがうかがえる結果となっている(【白書完全版】)。

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白書の第2章第2節「雇用管理と勤労者生活」によれば、1990年以降の俗に言う「失われた10年(15年)」における経済不況の中で、雇用創出を図るため、ともかく「働き場を作るべし」との考え方から、非正規雇用者のシステムが大規模に導入された。結果として、次の3点が問題視されるようになった。

1.非正規雇用割合の増加……正規雇用者との賃金、技術格差。マイナススパイラル※。
2.業績・成果主義的賃金制度の導入……労働関係の個別化、賃金格差の拡大。
3.労働時間制度の多様化と長短労働時間の二分化……長時間労働に伴うストレス増大問題。

※マイナススパイラル……非正規雇用者は雇用期間が短く職業技術を高める機会が少ないため、技術を習得しにくく、年齢を重ねるにつれて正規雇用者との賃金格差は拡大する


●賃金格差は高学歴ホワイトカラーで拡大

賃金格差は正規雇用者・非正規雇用者の間で増大しているのはすでに報じている通りだが、正規雇用者間でも広まっている層がある。高卒ではほとんどの層で格差が縮小しているものの、大卒・ホワイトカラーの層では格差が大きく開く結果となっている。

高卒・大卒の1980年代、90年代、2000年代による賃金格差の変移(同一企業で継続労働)
高卒・大卒の1980年代、90年代、2000年代による賃金格差の変移(同一企業で継続労働)

特に年齢層別でみると大卒40歳台以降の層での格差が大きい。これは、労働賃金において(少なくともこの層では)、業績や成果主義的な賃金制度が導入されたことにより、「年齢や勤続年数で一律同じ」というこれまでの給与体系が大きく変化しつつあることを意味している。白書ではこれを「労働関係の個別化」と表現している。同一年齢層・勤続年齢層で画一化することなく、個々の能力から判断するという意味なのだろう。

●労働時間は二分化、非正社員の不足分を中堅正社員がカバー

労働時間別に雇用者(社員)の割合を調べると、労働時間の短い雇用者と長い雇用者の双方が増加する傾向が見られる。

年齢層別に見た、週35時間未満労働者と60時間以上労働者の割合(男性)
年齢層別に見た、週35時間未満労働者と60時間以上労働者の割合(男性)

グラフによれば、15歳から34歳の若年層(特に20代)、そして50歳以上の層で35時間未満の雇用者が増えている。一方で35歳から49歳の層では週60時間以上労働者の割合が増加を続けているのが分かる。

若年層側の短労働時間者の増加は【フリーター・ニートは減少中、ただし年長フリーターは……労働経済白書から】でも解説したように、若年層では正社員をあまり雇わずにパート・アルバイトなどの非正社員として雇用、経費を削減しようという企業側の姿勢の表れといえる。一方で高年齢層における短労働時間者の増加は、固定給が割高になる高齢正社員はできるだけ囲い込まず、嘱託(しょくたく)などの形で在籍させようという姿勢からなのだろう。

ちなみに法定労働時間は週40時間なので、60時間以上労働者(長労働時間と定義)は、週20時間の残業をしていることになる。土日出勤をしなければ一日4時間残業、土曜日をフルタイムで休日出勤したとしても1日2時間(土曜日含む)残業をしなければならない。

●負担が増える中堅正社員、心も身体もぼろぼろに……

企業での作業量は(合理化されてもその分利益向上を目指すので)減少することはあまり見られない。短労働時間者(≒非正規雇用者)が増えれば、その分正規雇用者、特に長労働時間者に負担がかかる。むしろ、負担がかかるから長労働時間者になってしまう、と見るべきだろうか。

「本来正社員が充てられるべきところを非正社員が配属されたため、一部の正社員にその差分の仕事までしなければならない」という状態、つまり「非正社員の増加による正社員へのしわ寄せ」が、中堅層における長労働時間者の増加を産み出す結果となっている。それは下記の「残業や深夜・休日出勤などがある理由」のグラフからも明らか。

残業や深夜・休日出勤などがある理由
残業や深夜・休日出勤などがある理由

特に残業時間が長い人ほど、「仕事量が多すぎる」「突発業務がしばしば発生する」「取引先との関係で時間の調整が必要」という理由が挙げられている。これは正社員の数が本来必要とされる数だけ充当されていれば、ある程度は解決できる問題。数が不足しているので、一人一人の正社員への負荷が増え、結果として時間をかけねばならなくなる。またダイレクトに「人員削減により人手不足だから」「組織・個人の仕事の進め方にムダが多いから」という答えもある。

一方で、「頑張れば成果があがる、認めてもらえる、給料が増える」という、ポジティブな考え方から残業などをしている人は、ほとんどいないことも分かる。

企業の雇用体系の変化から負担が増える一方の中堅正社員だが、当然のことながら心身ともにストレスは高まる傾向にある。週労働時間別の、体力・精神的なストレスに関する問いへの答えのグラフを見れば一目瞭然といえる。

週労働時間別の、体力・精神的なストレス感
週労働時間別の、体力・精神的なストレス感

週10時間未満の労働者の体力・精神的ストレス、特に精神的ストレスが高いのは、アルバイト層がほとんどであることが推測されるため、不慣れな仕事に対するプレッシャーによるものと思われる。また、正社員と推定される週40時間以上の労働者のみを抽出して見てみると、確実に「労働時間の増加」=「体力への疲労・精神的なストレスの増加」の関係にあることが分かる。

表の掲載は省略するが、労働時間が増加するほど「一日の仕事で疲れて退社後何もやる気になれない人の割合」「うつの傾向にある人の割合」「健康のために心がけていることをする時間が短くなる割合」「仕事への不満足度の割合」も増加するデータが出ている。

残業が増えることによって仕事時間中の心身へのストレスは増え、自宅に戻っても自由時間がほとんど取れないので疲れをいやすこともできず、疲労は蓄積されるばかり。そのような中堅正社員の実情がうかがい知れる。


今回の抽出部分からは、企業側が費用的な効率向上を目指すため、若年層や高齢層の負担を中堅正社員(それなりの給金で一定の仕事をこなしてくれる。ローンや家族のしばりがあり、会社への忠誠心も高い)へ肩代わりしている状況が見て取れる。若年層は「正社員として雇うと教育費や社会保険費などの費用がかかるし、鍛え上げるまでは社員としてあまり当てにならない」、高齢層は「年功序列制の名残から対価が高すぎる」という思惑があり、正社員を極力減らそうということなのだろう。

しかし、現在負荷を増やしている中堅正社員も、あと10年もすれば高齢層に移行してしまう。そうなれば企業側の「それなりの給金で一定の仕事をこなしてくれる」という思惑は適わなくなる。そして、その時に現在の「中堅正社員」の後釜に座るはずの、将来の「中堅正社員」、言い換えれば現在における「若年正社員」はほとんど雇われていないのが現状。

つまりこのままでは現在の「若年・高齢層を極力非正社員化して、その負担を中堅層に任せよう」という企業の体質は、10年も経てば崩壊してしまうことになる。そしてその時に企業に残るのは「ごく少数の中堅正社員」と「過負荷でぼろぼろの高齢層正社員(退社していなければ、の話だが)」だけ。あとは相変わらず「経験もノウハウもない非正社員」が多数を占める。

果たしてこのような雇用スタイルで、企業そのものが維持できるのか、きわめて不安でならない。

救われる話を付け加えておくと、(いつか時間があれば取り上げることもあるだろうが)この「10年後の危機」、あるいはすでにその現象が見えつつある雇用スタイルの問題に気が付いた一部の企業が、大きく人事問題に対して手を加え、改善を進める動きを見せている。すぐに成果は出ない、むしろ費用の増大でマイナスの数字が出るだろうが、中長期的に見れば絶対にプラスの効果は出てくるはず。

ましてや企業は「ゴーイング・コンサーン(Going Concern、企業は継続するのが原則である、という考え方)」である以上、人材の育成は必要不可欠なもので、これは常識以前の問題だったはずなのだが……。

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