日本企業のCDS値を見ながらCDSについて考えてみる

2008年09月29日 12:00

CDSイメージ先に【最近よく聞くキーワード「CDS」とは?】で解説したように、現在の金融危機において元凶・不安要素や焦点はサブプライムローンから、金融派生商品であるCDS(Credit default swap(クレジット・デフォルト・スワップ))に移りつつある。そのCDSについて、国内の上場企業を対象にしたCDS取引の価値指標を日々更新公開しているのが、東京金融取引所が運営する[J-CDS(TFX)(http://www.j-cds.com/index.html)]である。

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CDSと「なぜ破たんしかねない」のか

CDS(Credit default swap(クレジット・デフォルト・スワップ)は商取引におけるリスク管理や軽減のための派生商品・取引。しかし当事者以外の第三者以外でも取引可能なことや、連鎖反応を引き起こしやすいこと、取引総額が80兆ドル(8400兆円)にも及ぶ壮大なものであることなどが問題視されているのは、すでに多種多彩な金融市場関連のニュースで目にしている通り。

投資とギャンブルイメージ現状は例えるなら「1等6億円が当選するトト・ビッグにおいて、当たりが1万本まとめて出かねない状態になった」というところ。つまり「ビッグの1等」と同じように滅多に出るはずのない確率「と思われていた」企業の破たんが、サブプライムローン問題で次々に起き、その確率が「過去の経験則ではありえないほどに上昇」していることになる。ロトや宝くじなどなどなら、ある程度資金の工面はつくだろうが、金融機関の場合はそうもいかない。

もっと分かりやすく例えるなら、CDSを受け持った金融機関側としては現状は、「破たんするはずないから」とばかりに「A社が破たんしたら1億円を支払う富くじ」を1万円で1万枚売りさばき「1億円のぼろ儲け」と思っていたら、A社が本当にコケてしまいそうになり、このままでは1億円×1万枚=1兆円(!)の支払い請求を受けそうになる状態にあるわけだ。A社の社債を購入していたのならA社が破たんしてもその社債購入費のみの損で済むが、CDSの場合には「発行した側の損失」はそれどころではない額におちいる。

日本の上場企業のCDS値を提示するJ-CDS

さてCDSは基本的に店頭市場で相対にて行われるため、価格が一般公開されることは無かった。そこで[J-CDS(TFX)]では(事実上)上場企業の各企業を対象とし、市場の透明性のアピールとリスク管理に役立てるように、その値の平均値を公開している。公開される値は、協力金融機関から提供される気配値が5つ以上(つまり5つ以上の金融機関がその企業のCDSを取り扱いデータをオープンにする)の場合のみ。そして相対取引のために時にはイレギュラー的な上下値が出ることも予想されるため、一定数の上下値を平均算出値から除外した上で単純平均を求めることになる。

CDSの「発動」条件
・倒産
・支払い不履行
・その他財務的に
 破たん傾向が
 見られる事象

対象となるCDSの「信用事由(クレジットイベント、発動、支払い発生事象)」は倒産、支払い不履行、リストラクチャリング(人事や構造改革の意味ではなく、債務上の問題。例えば支払い金利の減免や支払日の延期など、財務的に危機的状況にある事象の発生)の3要素。上場企業でこのような問題が起きれば、確かに「破たん」したと見なされても仕方が無いところもある。

現時点でJ-CDSにCDS参考値が掲載されている銘柄は全部で129。具体的には[こちらのリスト(http://www.j-cds.com/data/refrate_gj.html)]に一覧化されている。

CDS参考値一覧
CDS参考値一覧

株式の証券コードとは異なるCDSコードが割り振られ、最新のCDS参考値、前日比、クォート値(CDS取り扱い金融機関数)、前日値、そして3か月・6か月・1年で表示の切り替えが出来るチャートが掲載されている。チャートは期間をクリックすると別窓が開き、拡大表示もできる(ちなみにクォート値が4以下だった銘柄はCDS値そのものが算出されない)。

・CDS値の上昇
→破たんリスク上昇
・CDS値の下落
→安定性の増加

CDSの仕組みを考え直せばすぐに理解できると思うが、CDS値が高いほどCDSが発動する、つまりその企業が破たんする可能性が高い「とCDS市場からは考えられている」ことになる。破たんする、つまりCDSが発動する可能性が高ければリターンが得られる可能性も高くなるため人気が集まる。よって売る方もリスクを軽減するため、値を吊り上げざるを得なくなるからだ。1/10の確率で100円を支払うくじを20円で売る人はいるだろうが、1/2の確率で同じく100円を支払うくじを20円で売る善人はいない。

例えばA社のCDS参考値が急激に跳ね上がった場合、CDSの市場関係者の間ではA社の破たんリスクが高まったという雰囲気が広まっていることになる。株価が上がるのは嬉しい話だが、CDS値が上がるのは問題があるということ。逆にいえばCDS値が下落傾向にある銘柄は、安定性が増しつつあると「CDS市場からは思われている」ことになる。

一覧を見てもらえればお分かりの通り、概して「不動産セクター」「その他金融セクター」のCDS値が高いことが分かる。逆に超がつくほどの大型インフラ系企業は小さい値でとどまっている。「~電力」「~瓦斯」などの電力・ガス系企業は鉄板揃いで2桁前半をキープしている。

他銘柄同士の比較はさほど意味が無い

注意して欲しいのは、あくまでもこれらCDS値は参考値でしかなく、株価のような実際の取引参考値ではないこと。例えばソフトバンクが564.00で三菱重工業が53.90(いずれも現在値)だとしても、ソフトバンクの破たんリスクは三菱重工業の10倍以上、というわけではない。

それぞれの銘柄には固有の事情、セクター毎の事情があり、一概に他銘柄を比較できるわけではない。他銘柄同士の比較は「参考値の参考値」程度の精度しかないと考えれば良い。ラーメンとカレーの美味しさを比較してどちらがどちらの何倍美味しいか、など分かるはずも無いのと同じ理由だ。さらにはCDS市場全体の事情(昨今ではCDS市場そのものが不安定化しているため全般的に上昇する傾向がある)なども加味されてしまう。

エルピーダメモリイメージむしろ(CDSそのものを取り扱う機会のないほとんど多数の投資家にとっては)それぞれ固有の銘柄について、CDS値がどのように変化しているのかを見比べ、「雰囲気」「気配」を感じ取るのが重要。

例えばエルピーダメモリの値を見ると、9月以降急激にCDS値を上げているのが分かる。同業他社の銘柄の中にも同じような値動きをしているのが多数見受けられることから、半導体関連でリスクが高まるような事柄が起きているのでは……と考えてみる、という具合だ。また、混乱著しい不動産セクターの銘柄はいずれもCDS値が高いが、その中から比較的低位で安定しているものがあればそれをピックアップし、株式の銘柄選択に役立てるというのもアリだろう(そのような銘柄があれば、の話だが)。


先日アメリカ議会と政府が金融危機救済案でほぼ同意に達し、「CDSリスク」も多少軽減された感が市場に広まった。CDSは対象企業が破たんしなければ発動しないため、このまま市場が安定化に向かえば「80兆ドル」は「支払わねばならなかったかもしれないね」で終わる可能性もある。ただし「懸念」は常に付きまとい、サブプライムローンやその他の金融不安要素(クレジット問題など、レバレッジをかけた金融商品絡みで問題は山積している)によって着火する可能性は否定できない。

きのこ雲イメージ先日放送された、ある放送局のCDS関連の番組では「CDSは金融市場から不安を少しでも取り除くためにもっとも有効な仕組みだった。この評価は今後も変わらない」と関連協会のトップがコメントしていた。確かに仕組みをうまく使えばこれほど役立つ商品はない。しかし従来の目的から逸脱し、投機の道具とされ、手がつけられないほど巨大化してしまった現状においては、そうとも言い切れないのが正直なところ。むしろ不安を加速しているだけに過ぎないからだ。

それはまるで、人類にとって「有効に使えば無尽蔵のエネルギーを供給してくれる核分裂・核融合理論」と「核兵器」のような関係と例えることもできるだろう。どのように使うかは使い手次第というわけだ。

※2013.06.27.
J-CDSのページは削除されていましたので、リンクを取り外してあります。


■一連のCDS関連の記事:
【リーマン・ブラザーズのCDS清算価値は8.625%に決定(2008年10月12日)】
【日本企業のCDS値を見ながらCDSについて考えてみる(2008年9月29日)】
【最近よく聞くキーワード「CDS」とは?(2008年2月17日)】

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