証券税制優遇措置終了で「投資方針にマイナス」は6割

2007年11月26日 06:30

株式イメージ日本証券業協会が11月に発表した個人投資家の証券投資に関する意識調査報告書によると、株式の譲渡益・配当に対する税率10%の優遇措置について、現状の予定通り終了した場合、「投資方針にマイナスの影響があると思う」と答えた人は約6割に登ることが明らかになった。具体的な投資方針の影響としては「新規投資に慎重になる」「投資活動そのものを減らす・止める」「短期売買を優先する」などが挙げられ、市場の冷え込みを加速しかねない動きが推定される。

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今データは20歳以上の証券保有者に対して郵送による調査の回答を元に生成されたもので、有効回答数は1017。調査日は6月7日書類発送で21日締め切り。男女比は586対431、年齢階層は50代がもっとも多く210人、次いで40代が192人、20~30代が177人など。収入は500万円以下で7割弱を占め、証券全体の保有額は100~300万円がもっとも多く23.9%、ついで300~500万円が17.4%、1000~3000万円が17.1%。前者2者は現役のサラリーマンなど給与所得者、後者は定年間近あるいは定年後の人など恩給や年金生活者が主な階層と思われる。

今調査のポイントは「調査書が証券保有者に対してランダムで送られた」こと。特定の階層や投資・財産傾向とは関係なく、「証券を保有している」という共通点しかない。

なお「証券税制優遇措置」とは株価低迷を是正するために2003年に導入されたもので、従来20%である株式の譲渡益・配当益税率が10%に半減されているというもの。現状では譲渡益は2008年末、配当は2008年度末に廃止が決定している。現在アメリカのサブプライムローンなどに端を発する金融信用不安で株価が不安定な状況にあるため、市場に影響を与える可能性を考慮し、再延長・恒久化を求める声が高まっている。先日も【大和証券(8601)】の研究調査部門的立場を担う大和総研の試算として、撤廃後5年間で実質GDPを25.2兆円引き下げ、就業者人口を34.5万人失わせ、6年後には平均賃金を1.0%引き下げるなど、経済に大きなマイナス影響を与えうることが発表されている。

税率10%措置終了で「マイナス」は6割

証券税制優遇措置で撤廃されるのは譲渡益(売買益)への課税と配当・分配金への税率が10%という措置。まず譲渡益に対する措置終了が及ぼす影響についてたずねたところ、61.2%もの人が「マイナス」という結果が出ている。


譲渡益(売却益)の税率10%終了が与える影響と今後の投資方針への具体的影響
譲渡益(売却益)の税率10%終了が与える影響と今後の投資方針への具体的影響

次の「配当・分配金」に関する問いでも同じような計算が用いられているのだが、これらの問いは複数回答で行なわれており、「無回答」「特に影響は無い」「わからない」以外の選択肢を選んだ場合、すべて「マイナス」の範ちゅうに含まれるという考え方になっている。

つまり「61.2%」は正確には「マイナスの影響がある」と答えた人のみ、ではなく「全体から『無回答』『影響なし』『分からない』を引いた数」であることに注意しなければならない。選択肢には含まれていないがもしかすると稀有な例として「税率があがると投資方針にプラスの影響がある」と考えている人もいるかもしれないからだ(実際にそのような考えをする人がいたら見てみたいものだが……)。

ともあれ、投資行動にマイナスな影響を及ぼすと考えている人は6割を超え、昨年よりも5%ほど増えている。内容も「今後投資に慎重になる」が4割、「投資を減らす・止める」が2割強、「手持ちの証券を売却する」も2割ほどと、憂慮すべき数字が出ている。

同様に配当や分配金への税率10%が終了した場合の影響に関する問いでも6割近くが「マイナス」という答えになっている。


配当・分配金の税率10%終了が与える影響と今後の投資方針への具体的影響
譲渡益(売却益)の税率10%終了が与える影響と今後の投資方針への具体的影響

配当・分配金の税率に関する問題でも譲渡益への税率同様に約6割が「マイナス」と考え、さらに「今後投資に慎重になる」が4割と出ている。

「10%措置に賛成」6割、「継続」「10%措置は必要」は7割強

それでは、このままだと終了してしまうことになる「税率10%」について、そもそも良いと思うかどうか、そして延長すべきかどうかについて「個人投資家」にたずねてみた。その結果、措置そのものに好意的な意見は6割近くに達し、継続や何らかの優遇措置が必要と考えている人は合わせて7割以上にのぼっている(「優遇措置に対する考え方」は上記譲渡益などの計算と同様、引き算方式を用いていることに注意)。

「10%措置」に対する考え方とその内容
「10%措置」に対する考え方とその内容
「10%措置」の延長の必要性
「10%措置」の延長の必要性

税率の「10%措置」に対し6割ほどの個人投資家が好意的であり、反対の意見を持つものは1割にも満たない。また、現状維持を望む者が半数に及び、現状維持はかなわなくともなんらかの優遇措置が必要と考えている人も2割強に登るなど、証券税制に対する優遇措置を求めている意見は多い。


政府では「貯蓄から投資へ」をスローガンに投資活動の活性化を推し進めている。インターネット・ネット証券会社の普及や投資単元の小口化などで、投資家人口は増えつつある(これについては別記事で紹介する予定)。「ライブドア・マネックスショック」などでかなりの個人投資家が「退場」させられたものの、以前と比べれば「投資」の考えと実践行動は確実に根を伸ばしつつある。

証券税制優遇措置(税率10%措置)を今ここで廃止してしまっては、せっかく広がりを見せつつある「投資の根」が再び縮小し、これまでの労苦が水の泡になってしまうことや経済そのものに悪影響を及ぼす事は各種調査・研究結果から明らか。似たような調査は野村證券でもおこなわれ、やはり「6割がマイナス影響を及ぼす」と回答している。この「6割」という数字の信ぴょう性がますます高まったといえよう(【「証券税制優遇措置撤廃決定なら手持ち株式売却」6割に達する】)。

論理的・具体的数字から
「税率10%措置」の撤廃が
経済・市場にマイナスとなるのは
明らかであると証明済み。
一方撤廃賛成派は、
不確かな計算結果による算出と
「イメージ戦略」のみで
撤廃を声高に叫ぶ。

「投資活動はお金持ちのすることで、お金持ち優遇措置だから廃止すべき」という意見には金融庁が各種データを持ち出して具体的に「その主張は事実ではない」という反論を提示している(【「証券税制優遇措置は金持ち優遇税制」に異論、金融庁資料から】)。国際的観点から見ても、優遇措置を採られている現在ですら、世界的観点では「税金は割高」な部類に入ることも具体例を挙げて証明されている(【日本は譲渡益・配当益課税共に高い水準……国際競争力維持・強化のための「証券税制優遇措置継続」案】)。さらに大和総研の試算からも大きな経済的損失が予想されている(【証券税制優遇措置撤廃で「5年間でGDP25.2兆円減少」「失業者34.5万人増加」など試算】)。

一方、プラスとなるといえばその根拠として「毎年7800億円超の税収増」という数字が挙げられているが、これとて【「証券優遇税制廃止してれば7800億円超の税収増」にダウト!?】にあるように、「算出した側が『あてにならないから他の試算には使わないでほしい』とした上で提示している数字」を無理やり使って計算した値に過ぎない。

むしろ証券税制優遇措置の撤廃賛成派(措置そのものへの反対派)の意見は「'投資活動はお金持ちのすることで、お金持ち優遇措置'に見えるから、撤廃をアピールすると選挙民からのウケがよい」という考え方が強く、単に政争の具・得票のネタに使われている感が否めない。

自分の得票・議員の立場を守るためだけに、中長期的な経済にマイナスを与えることが様々な試算から明らかになっているにも関わらず、あえて「税率10%措置」を切り捨てようと考えている「先生諸氏」に対し、個人投資家がどのような「判断」を示すべきか。個人投資家のほとんどは選挙権を持っているはずなので、今一度改めてじっくりと考えるべきだろう。


(最終更新:2013/08/18)

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