政府主導型バイオガソリン「E3」市場販売開始

2007年10月13日 17:30

バイオエタノールイメージ先日NHKなどで報じられたのでご存知の方も多いだろうが、バイオエタノールを混ぜた「バイオガソリン」のうちの1形態「E3」の販売が、10月9日から大阪の2か所のガソリンスタンドで始まった。日本国内で流通が進められているもう一方の形式の「バイオガソリン」である「ETBE」とは別のもので、廃木材などを原材料に用いている。1リットルあたりの価格は146円で、レギュラーガソリンと同じ価格だという。

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期待が寄せられるE3形式販売開始、されど供給量は極わずか

詳細はバイオエタノール関連の記事をまとめた【バイオエタノールまとめページ】内の、特に【バイオマス燃料と二つの方式・政府VS石油業界の対立構造と現状をまとめてみる(2007/1/29)】あたりを確認してほしいのだが、日本国内では地球環境に優しい(とされている)バイオエタノールを混ぜてガソリン消費量を減らした「バイオガソリン」については、政府主導で今回販売が始まった「E3」と、石油連盟主導で使用が促進されている「ETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)」方式が対立している。

「E3」生産量が少ないのは
石油連盟がガソリンを
ストップしているから。

素材としてはETBEが既存の農産物エタノールを使用しているため、調達しやすい一方で、現在の食料品の高騰や生態系の変動につながる状況から批判の声も高まっている。他方E3は廃木材(いわば不要なゴミ)を材料にしているため、ETBE方式と比べて食料品などの影響が少ないとされている。環境省によると、廃木材から作ったバイオ燃料を商業的に販売するのは世界でも初めてだということ。

日本の国情から見ても廃材利用のE3は有望な方式の一つであるはずなのだが、石油連盟側がE3に利用するガソリンの供給を拒否。結果としてE3形式のバイオガソリンを生産する【バイオエタノールジャパン】側でも(廃材はあるのにガソリンが手に入らず)供給量は計画を大幅に下回っているという。いわば「政府主導のE3形式が、石油連盟の兵糧攻めを受けている」状態だ。当分の間は、地元協力企業や自治体の公用車など約100台を対象にして販売するくらいの量しか確保できないとのこと。

環境省側では「E3方式だけでもETBE方式だけでも国の普及目標は達成できないため、調整を進めてE3・ETBE両方式を普及させていきたい」とコメントしているという。

石油連盟が「E3」方式を兵糧攻めする理由とは?

石油連盟が「兵糧攻め」ならぬ「ガソリン攻め」までしてE3の普及を阻む理由はいくつかある。「自動車の機関部に影響アリ」「品質問題」「環境問題」などを挙げているが、そのもっとも大きなものは「ガソリンに最終段階で直接バイオエタノールを混ぜるのだから、水などの不純物が混入するかもしれない。そうしたら、エンジンのトラブルにつながるかもしれない。排ガスの環境への影響が懸念されるかもしれない。そうなれば製造物責任が問われかねない」というもの。

「E3」を嫌う理由は
「製造者責任は負いたくない」

一方ETBE方式は、はじめからバイオエタノールに石油ガスを加えたもの(これがETBE)をガソリンに混ぜるから問題はない。すでに製造されているものをガソリンに追加するので(バイオエタノールに関する)製造物責任は問われない、品質も安定していると踏んでいる。ところがこの方式も、オーストラリアやアメリカの一部では毒性のチェックが済んでいないため、使用を停止されているという事実もある。ETBE方式が万能ですべての面においてE3方式と比べて優れている、というわけではない。

本来どちらの形式にもそれなりの問題があり、それぞれの問題を解決しつつ普及を進めていかねばならないのだが、主要材料のガソリンの供給を握っている石油連盟側が自勢力を強力に推し進めようとするあまり、政府や関連官公庁(主導の「E3」方式)に「ケンカを売っている」構造になっているというのが現状といえる。

農作物産バイオエタノールと「E3」勢力を巡る状況の変化

政府側主導の「E3」形式においては、【国土交通省10月12日発表の「E10対応車の技術指針策定」】にもあるように、ガソリンにバイオエタノールを10%混ぜた「E10」の製作に関する動きが見えている。

・「E3」に続く「E10」の
ガイドライン策定
・アメリカではバイオエタノールが
供給過多(アンバランス状態)

当然3%よりも10%の方がバイオエタノールが多い分、「E3」よりも「E10」の方がガソリンを節約できる。しかし上記リンク先ページにもあるように、「E3」は一般車両で使用できるが「E10」は特殊な対策を採っていないと配管が腐食したり排気ガスが規程以上の量を出してしまう可能性がある。そこであらかじめ「E10使用の車はこのような基準で作りなさい」という指針を策定し、その基準に従って国土交通省の認可を受ければ、公道走行試験が出来る(そして試験にクリアすれば一般販売への道もつながる)という道筋が作られた。ガイドラインを策定することで、民間に「地球に優しいE10対応車を作っても良いですよ」というお墨付きを与えたわけだ。

一方で、ただでさえ中国などの新興国からのニーズ急増やオーストラリアの大干ばつで不足気味の食糧事情下で、「儲かるから」という理由で食料品の畑をつぶしてバイオエタノール用の穀物を生産しているアメリカにおいても、これまでとは違った状況が生じている。【日経新聞】でも伝えられているが、バイオエタノール市場が低迷し、大手はともかく中小のバイオエタノール業者は存亡の危機に面しているという。要は「作りすぎた」ということ。

猫も杓子(しゃくし)もバイオエタノールとばかりに、材料のとうもろこしや精製工場を作ったのは良いが、輸送用やバイオガソリン精製のためのインフラ整備が追いつかない。余るはバイオエタノールばかりなり、というおかしな状況になりつつある。素材となるとうもろこし市場は上昇を続ける一方で、エタノール価格は大幅に下落しているという(「貯めておけば」という意見もあるが、専用の貯蔵タンクも不足気味)。

バイオエタノールの普及が叫ばれだした当初、誰かが「根本的に、食べるものを燃料に変えるということ自体、おかしいと考えねばならない」と主張していた。その時はほとんどの人が耳を貸さなかったが、次第に「そうかも?」と疑問視を投げかける意見は増えている。「材料そのものは二酸化炭素を吸収する植物だから地球に優しいかもしれない。しかし精製の過程で大量の油を使うではないか」「食料生産を削って燃料用に充てた場合、食料減産が与える影響を考えると巡り巡って『地球に優しい』とは言い切れない」などの声だ。

しかもバイオエタノールの急成長国アメリカで、そのエタノールがだぶつき、市場が下落している。これが現状である。


石油連盟がケンカを売る相手は、現在のところ政府主導型E3の関連団体や官公庁だけに留まっている。この状況ならまだ勝てる見込み(「油」を握っている)と読んでいるのだろう。

しかし一般消費者がこの構造を第三者的な視点から見たら、どのように思いを馳せ、判断するのだろうか。地球環境の問題やバイオエタノール絡みで食料品の値上げが現実のものとなり、消費者のフトコロに影響を与えている今、覇権争いにすら見えかねない行為で技術の進歩を押し留めてよいものかどうか、再検討の時期に来ているといえよう。

また「日本に多い廃材を利用する」E3方式や、【プロジェクト名は「オーシャン・サンライズ計画」・東京水産振興会発の「海藻からバイオエタノール年間400万トン」構想詳細判明(2007/5/15)】のように日本の国情にあった、オリジナリティに富んだ(しかも材料の国内安定供給が望める)方式で、真に「地球に優しい」バイオガソリンの開発・精製・提供を進めることこそが、「日本らしい」やり方ではないかと思われるのだが、どうだろうか。

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