バイオマス燃料と二つの方式・政府VS石油業界の対立構造と現状をまとめてみる

2007年01月29日 12:30

バイオエタノール精製・商業用プラントイメージ先日政府がバイオエタノールを用いた「バイオマス燃料(バイオ燃料)」の普及に向け、政府が新法を制定する検討に入ったと報じられた(【参照:日経新聞】)。これは先に【エタノール燃料の普及促進のため、政府が法改正などを模索】などでも報じているように、昨年から検討されてきた課題の一つで、ようやく政府も本格的に動き出したことになる。そこで昨今の「バイオ燃料」に関する動きを少々まとめてみると共に、関連銘柄(企業)をピックアップしてみることにしよう。

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バイオエタノール精製・商業用プラントイメージ「バイオマス燃料」とはサトウキビや廃材などの植物を原料とした「バイオエタノール」とガソリンの混合燃料のこと。アメリカやブラジルなどでは普及しており、特にブラジルはバイオマス燃料の先進国として知られている。一方日本では一部で試験導入されているに過ぎず、この分野では出遅れ感がある。

例えば「揮発油等品質確保法」で、エタノール混入が3%に規制されている(そのためE3とよばれている)などが原因。今回はこれらの法律の改正や、新法「新燃料利用拡大基盤法」の制定などが柱になる。

また「バイオマス燃料は地球に優しい」とよく言われるが、これは「バイオマス燃料を混ぜた分だけ石油が節約できるのでその分エネルギー資源を確保できる」「材料が元々二酸化炭素を吸収して育った植物が原料なので、それから創られた燃料を燃やしても、もともとの二酸化炭素が大気中に戻るだけ」という理由がある。要は「二酸化炭素の循環の輪に入り込む」というところだろうか。

バイオエタノールと二酸化炭素の循環(バイオエタノール・ジャパンの解説より抜粋)
バイオエタノールと二酸化炭素の循環(バイオエタノール・ジャパンの解説より抜粋)

おりしも1月16日、【大成建設(1801)】、大栄環境、【丸紅(8002)】【サッポロビール(2501)】、東京ボード工業、などによって創設された【バイオエタノール・ジャパン・関西】による日本国内初のバイオエタノール精製・商業用プラントの稼動がスタートした(【発表リリース】)。この工場では木質系の素材(廃材や木くず)を材料とし、次のような能力を保持している。

・対象廃棄物
 木質系バイオマス(建設廃木材、木くず、剪定枝等)
 計4 万~5 万t/年
・処理能力:破砕設備 180トン/日
 (許可能力) 発酵設備 82トン/日
 ボイラー設備 86トン/日
・発電設備 1900キロワット


バイオエタノール精製・商業用プラントイメージ最大の特徴は原材料を廃材としているところにある。これまでバイオエタノールの材料としてはさとうきびやとうもろこしなどの植物がメイン。しかし【エタノールの需要急増でとうもろこしなど穀物のニーズ高まり価格高騰へ】にもあるように食料品としてだけでなく燃料の原料としてもニーズが高まり、商品価格が急騰しているのが現状。地球に優しくても財布に厳しいのではお話にならない。そこで「日本にも大量に確保できる廃材などで精製する」タイプの工場が建設されたわけだ。

しかし今回建設された工場から作られるバイオマス燃料は政府主導の方式によるもので、同じくバイオマス燃料の普及を目指す石油業界からは協力を拒まれている。肝心の「混ぜて消費者に提供するガソリン」が確保できないという事態に陥っているという。政府側では「日本が世界に誇れる画期的な技術で、品質にも問題はない。石油業界には引き続き協力を求めていきたい」とコメントしているが、現在にいたるも進捗は見られない。

ややこしい話だが、政府主導の方式と、石油業界主導の方式の違いを箇条書きに簡単にまとめると次のようになる(【石油元売もバイオエタノール販売へ、ただし経済産業省とは別形式のETBEで】も参照のこと)。

●政府主導方式
・直接バイオエタノールをガソリンに混ぜる
・先日精製工場を建設、生産開始
・商社や材料の廃材を輩出する会社が主導
・ガソリンに3%混ぜることから「E3」と呼ばれている(混合率を高める計画も)
・石油業界側は「自動車の機関部に影響アリ」「品質問題」「環境問題」から使用を拒む

●石油業界方式
・バイオエタノールに石油ガスを加えた「ETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)」と呼ばれる燃料をガソリンに混ぜる
・「バイオガソリン」と命名
・今年5月からスタンドで試験販売
・「品質安定」「二酸化炭素軽減効果高し」
・オーストラリアやアメリカの一部の州では毒性に関する調査が進んでいないので使用を禁止している
・とりあえずヨーロッパから輸入で確保


さとうきびなどの穀物関連として【東洋精糖(2107)】【日本甜菜製糖(2108)】【三井製糖(2109)】などが注目されているという話もある。しかし元々世界的な穀物不足は知られているところであり(【参照:穀物価格急騰中……気象災害多発や各方面でのニーズ増加】)それにバイオエタノールの要素が加わったに過ぎない。そもそも日本国内で十分な原料をまかなえるほどのバイオエタノール生産体制が整っているのなら、海外から輸入することもないだろう。将来的には伸びるかもしれないが、直近ではバイオエタノールを材料として業績が向上することは難しい。

利用側としては「地球に優しいのはもちろんだけど、価格や自動車に与える影響も考慮した上で、早いところ方式を統一してほしい」というのが率直な意見として挙げられる。ビデオデッキや次世代DVDのように、規格対立で利用者が混乱し、普及が遅れたりするという不条理なことがないよう、双方が積極的な検証や意見交換を行い、問題を解決してほしいものだ。

個人的には『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てくる車のように、バイオマス関連の素材に限らずゴミをはじめとしたどんなものを投入しても、それらがすべて燃料になれば最高なのだが。


(最終更新:2013/09/13)

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