「紙媒体をおびやかすネットメディア10社」を実際に見てみる

2007年09月24日 19:30

時節イメージ先に【「新聞没落」…週刊ダイヤモンド最新号を読み解く】でお伝えした、新聞業界の現状を色々な面で知ることができる週刊ダイヤモンド9月22日号。その特集「新聞没落」でリストアップされていた「編集部厳選! 紙媒体を脅かす(おびやかす)ネットメディア10社」について、実際にアクセスして中身を見てみた。概要や感想などと共に、改めて紹介することにしよう。

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この「編集部厳選! 紙媒体を脅かすネットメディア10社」とは「新聞没落」の第五章「米新聞業界の窮地」の中で、大手新聞社の経営状態と経営陣の頭を大いに苦しめている広告収入減少の大きな「原因」として語られているもの。要は、ネットメディアが勢力を広めて広告もそちらに移りつつあるため、読者減だけでなく広告収入源でも既存メディアが割を食ったという話。

リストアップされた10社(サイト)は、ニールセンや各社公開情報を元に週刊ダイヤモンドが独自に厳選したもの。「独自」とはいえ、なるほどと思わせるものが多い。リストは一応月当たりのユニークビジター数(UV)の多い順になっている。元々アメリカ新聞業界の話の中で語られているリストなので、当然ながらすべて英語版。

Yahoo NewsイメージYahoo News【http://news.yahoo.com/】……3267万4000UV/月

ポータルサイトヤフーの総合ニュースサイト。日本同様に大手ニュース通信社だけでなくローカル紙のグループ(試験運用中)、さらにはABCなどのテレビ放送局とも提携し、包括的にニュースを配信して収益を分け合う形を形成している。さらに独自のニュースやユーザー投稿のニュース、写真も掲載し、独自性を確保している。

デザインは縦二段組(2カラム)方式のシンプルなもので好感がもてる……が、トップページの縦長さは仕方ないところか(人の事はいえないが:P)。ともあれ、ニュースサイトではこのYahoo Newsがトップのユニークビジターを確保しているとのこと。

craigslistイメージcraigslist【http://sfbay.craigslist.org/】……2017万3000UV/月

各種コミュニティ、掲示板、求人、「売ります買います」、住宅案内など、さまざまなネット上の情報交換を地域別に行なう総合情報サイト。「ワールドワイド井戸端会議」のようなものか。元々は三行広告や人材募集、不動産広告などの投稿サイトとしてスタートしたとのこと。特集の説明によれば、このサイトが「主に新聞メディアから広告収入を奪った元凶」とのこと。

構成はきわめてシンプルでほとんどがテキストのみ。一瞬URLのタイプミスをしたかと勘違いしたほど。内部ページもほとんどがテキスト、あるいはテキスト+ベタ貼りの写真のみで質素極まりない。しかしこれだけのアクセスを集めているのは、管理がきわめてうまく行なわれていることと、シンプルであるゆえにハードルが低く、多くの人が利用しているからなのだろう。その意味では典型的なCGM(Consumer Generated Media、利用者が内容を創って行くメディアのこと)の成功例といえよう。

Google News【http://news.google.com/】……897万3000UV/月

トップのYahoo News同様に、大手ポータルサイトが運営している総合ニュースサイト。4500以上もの世界のニュースサイトから自動生成したカテゴリー別のニュースへのリンクを掲載している。Yahoo Newsと異なるのは、Yahoo Newsが本文(の一部)もサイト内に掲載しているのに対し、Google Newsではあくまでもリンク集としてのサイト構成であるということ。

ヤフーもグーグルも日本版ポータルサイトにおいても同様のサービスを提供しているが、グーグルが本家のを忠実に移植しているのに対し、ヤフーでは日本独自のサービスも盛り込もうとしているなど、方針の違いが見られるのは興味深いお話。

Topix.comイメージTopix.com【http://www.topix.com/】……594万9000UV/月

2004年に設立された、ニュースサイト・投稿サイト・掲示板(フォーラム)の統括サイト。集約されているニュースサイト数(ニュースソースとして用いられている)は5万、読者投稿型のフォーラムは36マンに及ぶという。自らをTopix.comは「あらゆるアメリカ国内の場所であらゆる人たちに、情報や議論を提供し結びつけるための、ウェブ上におけるニュース共同体」「つまりはニュースコミュニティ」と説明している。

投稿規模数も巨大で、すでに100万人以上の人が550万以上ものコメントを残し、1日3万以上ものコメントが追加されているという。以前はニュースの項目はサイト側から提供されるばかりだったが「5万サイト」でもソースとしては不十分だと判断し、4月からはユーザー投稿型のニュース提供も開始したとのこと。

Digg.comイメージDigg.com【http://www.digg.com/】……469万9000UV/月

「これ面白いよ」という話を一人でも多くの人に伝え共有したいという想いを実現するために用意された、ブックマーク共有サイト(ソーシャルブックマーク、SBM)の代表的サイト。典型的な「web2.0」形式のサービスともいえる。このサイトの成功と普及で、SBM方式のサイトが次々と登場し、日本国内でも類似のサービスが多種多様な形で提供されるようになった。

なお、diggではニュースサイトやブログ、ビデオ動画などを「ブックマーク」するが、これを動画に限定してブックマークではなく動画そのものをファイルとして投稿するコンセプトのサービスが「YouTube」である(多少の違いはあるが……)。面白いものを他人に知らせたいという考えは、対象媒体が違っても類似システムを活用できるという好例ともいえる。

The Huffington PostイメージThe Huffington Post【http://www.huffingtonpost.com/】……164万0000UV/月

メディアコメンテーターとして知られているアリアナ・ハフィッングトンを中心とするブロガーグループが投稿して記事を構成する、ブログ記事集約型ニュースサイト。元記事の説明によると、ハフィッングトン氏などのコメンテーターだけでなくジョン・ケリー氏などの政治家や俳優などまでが参加。ソフトバンク・キャピタルなどが500万ドルを投資したそうな。

URLをチェックした時にアメリカの有力紙「ワシントンポスト紙のジョーク版か」とも思ったが、実際にはリーダー格の人物名から来ている(ただし、ワシントンポストと似たような言い回しになり聞こえが良い、というのもあるようだ)。シンプルにしてダイナミックなテキスト中心のニュースサイトとして注目したいところ。ちなみにこのサイトはMovableTypeで構築されているもよう。その点でも興味深い。

Daily KosイメージDaily Kos【http://www.dailykos.com/】……95万8000UV/月

元記事の紹介文いわく「最大の人気を誇る政治ブログサイト」。元陸軍兵士が2002年にスタートしたものでその影響力はアメリカの政治中枢にまで及び、昨年8月に開催されたオフラインの集会には、クリントン、オバマ、エドワーズ氏ら大統領選挙の候補者らも参加したほどの注目を集めているという。どれほどすごいのかは、日本でなら「政治ブログサイトのオフライン集会に、与野党のトップが参加する」と例えられると表現すればお分かりいただけることだろう。

Boing BoingイメージBoing Boing【http://www.boingboing.net/】……73万2000UV/月

テクノロジーやサイエンス関連の有力ブロガー数人が集まって作られている集約型ブログ。おおもとは1988年に紙媒体としたスタートしたメディアだが、現在はブログの形で運用されている。ブログ関連のランキングでは常に上位にあるらしい。記事のテーマも絞られていることから読者の構成も把握しやすく、元記事によれば広告収入だけで年間100万ドルに達しているとのこと。

先に【日本にも「ヒーロー」が必要!?~日本は企業サイト、アメリカは一般人のブログを信用する傾向】で言及したが、日本と違いアメリカでは、専門家も盛んにブログを活用して自分の得意分野における情報を発信し、信頼を勝ち得ている。その傾向を知ることができる、顕著な例といえよう。

また記事デザイン的にも多くの記事で「象徴的な一枚の写真」が単独、あるいは数行の文章と共にトップを飾り、説明の文章が続くというスタイルをとっているところが興味深い。【ネット新聞読者は紙の新聞読者より記事を読みこなしている】でも触れた、日本の一部有力サイトが行なっている手法もここにつながるところがあるのだろう。

Newsvine.comイメージNewsvine.com【http://www.newsvine.com/】……57万8000UV/月

大手メディアのニュースと、ユーザーによる投稿ニュースを統合させた、「プロアマごっちゃまぜニュースサイト」。2006年にディズニーやESPNにいたメディア関係者、つまり元プロらによって設立された。

最近では同社のCEO、Mike Davidson氏が「大手サイトは記事を不用意に複数に分割することでページビュー数を稼いでいる」「SNSではサイト構成を複雑にしてクリック数を増やしてページビュー数を確保している」などと警告したことが知られている。

NorthwestvoiceイメージNorthwestvoice【http://www.northwestvoice.com/】……5588UV/月

「ハイパー・ローカルメディア」と呼ばれる、超地元密着型メディアの代表格。カリフォルニア州ベイカーズフィールド市が発行している、発行部数3万部のフリーペーパーから派生したサイト。住民の投稿を交えた、地元民なら大満足するであろうニュースを配信。インターネットにおけるニュース配信は世界レベル、国レベル、広域エリアレベルだけでなく、特定地域レベルのものでも有効な手段となりうる(そして地域紙の脅威となりうる)例として、リストに挙げられたのだろう。

ちなみに似たような「地域限定サイト」だが、日本では秋葉原や日本橋をターゲットにした「マニア系情報中心のサイト」が人気を呼んでいる。これらのサイトは情報収集対象が狭いエリアに特定されていても、その情報が業界内において最先端を行くものであり、全国レベルで注目される(読者を獲得できる)という特性をうまく活かしている。また、それらとは別にNorthwestvoiceのようなコンセプトでNPOが中心となり、ネット上の「◎×経済新聞」が主要地域ごとに登場している(【「ハマ経」「アキバ経」などネット上の地域社会新聞続々オープン】)。


以上、駆け足ながらも「新聞没落」で語られた「紙媒体をおびやかすネットメディア10社」をチェックしてみた。大手ポータルサイトのニュース総合サイトはともかく、Digg.comのような新しい発想を具現化したサービスや、専門家が集約して新規の情報発信源となり読者を集めているサイトには、納得のいくものもあり、興味関心を寄せられるところがあった。

一方で単純比較はできないものの、日本の類似サイトと比べるとユニークビジター数が少ない割には採算性が十分に高く、日本でならビジネスとして成り立たないものが十分に運営されている事例も多く見受けられた。これは繰り返しになるが、【日本にも「ヒーロー」が必要!?~日本は企業サイト、アメリカは一般人のブログを信用する傾向】でも少しふれた、ブログやネット上の情報に対する「重き」の違いによるものだろう。あまり日本では「ネット上の情報」が重要視されていないため、広告媒体としての魅力も薄く、広告費もそれほど注入されないため、結果として同じ人気度があっても収益率に違いが出ているものと思われる。

書き手の構成傾向や、インターネットの浸透過程、そしてインターネット文化(言語圏の問題含む)そのものにおいて、欧米と日本では違うところが多々あるため、日本がアメリカと同様のプロセスを踏むとは限らない。それでも「新聞没落」で語られているように、既存大手メディアの凋落は間違いなく進行しており、それと並行してインターネットメディアは普及の一途をたどり影響力を増しつつある。

今後日本のメディアでも現状を踏まえた広告費などのバランス調整が繰り返されることだろう。そして、結果としてインターネット上のメディアが今まで以上に躍進し、それこそ今回リストアップされたのと同じような「紙媒体を脅かしうる」、そして「財務的にも自立しうる」サイトが次々登場するに違いない。

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