「ウィキノミクス」と情報公開とプレスリリースと

2007年07月31日 19:35

『セカンドライフ』の特集が組まれていたこともあり、最新号の「週刊東洋経済」を購入した。その号のコラム「経済を見る眼」で、少々気になる(というより賛同したい)話が掲載されていたのでここで紹介してみることにする。題材は「『ウィキノミクス』で経済政策」というもの。大竹文雄・大阪大学教授による寄稿だ。

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「ウィキノミクス」とは

この「ウィキノミクス」というのは当方(不破)も一度か二度聞いたことがあったかな、という程度で詳しくは知らなかった言葉なのだが、同名の書籍『ウィキノミクス』で紹介されていたというもの。ある団体やグループ、企業が保有しているが持て余している情報、難題を(範囲を限定しながらも)公開して有効活用してもらったり、懸賞金をかけて解決法を募集し、情報を有効活用したり経済を活性化しようという考え。具体例としては「カナダの金鉱山会社が地質データをネット上に公開し、金鉱脈を見つける方法を賞金付きで募集したところ、有効な手立てが集まり、その会社は多くの金鉱脈を発見できた」という事例が挙げられていた。

要はWikipediaのように情報の共有化を行い、経済問題の解決のためのアイディアを企業・グループ内だけでなく世界中の専門家から集めるというものだ。大竹教授いわく「役所の中だけで限られた人たちが忙しい公務の傍らでデータを分析してアイデアを考えるよりは、はるかに効率的に正しい処方せんが得られるはずだ」「世界中の研究者の頭脳をほとんど無料で使うことができるのだ」と力説している。

アメリカでは有効活用、日本では……?

そしてこの手法を実際に使い、大いに活用しているのがアメリカなのだという。各種データが個人識別ができないようにした上で公開されているので、アメリカの経済問題はアメリカ国内だけでなく世界中の研究者によって分析され、論文化され、発表されてきた。それらの論文や分析結果は政府の行政立案、政策決定や政治家の主義主張に大いに役立っているという。

日本ではどうだろうか。今年5月に統計法が改正され、一部については11月までに施行する予定だが、その改正によって似たようなデータを公開することが可能になった。しかし大竹教授によれば「可能になっただけで公開しないことも自由なので、実際にはどうだろうか」と現状には否定的な意見を述べている。その上で「アメリカでこれだけ成功している事例があるのだから、日本でもどんどん公開して研究・分析を世界中の専門家・研究者に求めるべきだ。そうすれば政治論争も具体的なものになるし、シンクタンクの政策提言能力も実のあるものとなる」と説明している。要は「データの公開が、私たちを豊かにしてくれる」というのだ。

「ウィキノミクス」的な考え方と一次・二次情報

このような考えは当方としても大歓迎。かつて【「1.5次情報」という考え方~昔から考え、そして今、目指しているもの】で述べたように、当サイトでは一次情報と二次情報についてある程度意識してより分けて記事にしている。

そして最近では記事の構成を「一次情報元から発信されたものを元にして作られた二次情報」を参照にしたものから、出来るだけ「一次情報元から発信されたもの」を元に創るようにしている。二次情報化された時点で少なからぬフィルターがかかることが多いような気がしたからというのがその理由。

個人ベースでは手に入らない情報は仕方が無いが、手に入るものならば出来るだけ一次情報にさかのぼってデータを手に入れ、独自の見解をおりまぜつつそのデータを分析して紹介することにしている。そうすることで元のデータを精査すると共に、独特な色を出せるし、それぞれの報道機関の意図を織り込まずに済むからだ(特に官公庁関連や研究所発表の調査データはその傾向が強い)。

先に【政府機関のネット事業への「やる気」をリリースの掲載速度の速さで測ってみる】で述べたように、官公庁ではその省庁によって公開スピードや姿勢に大きな違いがある。報道には先行して情報を流しながらサイト上(=世間一般)には週単位で待たされる場合もあるし、中には「マスコミ向けに情報を流したのでそれでOK。世間一般には報じませんよ」という情報もあるくらい。あきれ返って空いた口がふさがらない思いをしたことも何度もある。官公庁だけでなく、一般企業(上場企業)にも似たようなことは山ほどある。

ネット内の情報交換は脳内シナプス的な組織構造に似ている

情報の分析や解析は脳内のシナプスの働きに似ている。多くのシナプス(読み手)があれば、色々な考えがリンクされて発想も豊かになり解決策も発見される可能性が高くなる。パソコンで例えるならCPUの高性能化、メモリやハードディスク領域の拡大化といったところか。そしてその考えはWikipediaのようであり、検索エンジンのようでもある。

また、大型掲示板やチャットで色々な話を語り、さらに質問して互いに論議を交わしていると、その掲示板やチャットが不特定多数の頭脳を要素とする人工知能(あるいは擬似人工頭脳的な、そして利用には情報リテラシーのスキルが必要な検索エンジン)のような錯覚すら覚えてくる。そして自分もその一要素(シナプスの一つ)であるように思えてくる。そう、【大手情報サイトが「アルファ」たる理由3か条と「スニーザーブロガー」】にあるように多くの人に設問が波及すれば、さまざまな見方が生まれ、新しい解決法が生み出される可能性もある。

官公庁、上場企業にもプラスになる、「ウィキノミクス」的な情報公開を

「ウィキノミクス」の発想に限らず、ネットの大海に確固たる(もちろん個人情報など色々な問題のない)データを流せば、多くの職人(研究者)によってさまざまに調理(研究、分析、論文化)される。中には酷い扱いを受けてとてもではないが食べられないものもあるだろう。だが必ずや素晴らしい料理(研究結果、分析と結論、論文)も産み出されるはずだ。データの持ち主は自分の眼でそれを判断し、すくい上げればよい。先の金鉱山会社の例のように、コンテスト形式で公募して自らに結論や分析結果が送り込まれる仕組みを作っても良いだろう。

そのような期待も込めて、官公庁、そして少なくとも上場企業には、

1.マスコミ向けのリリースはすべて「同時間」にネット上へ一般公開
2.「新聞社などへのマスコミにリリースなどの情報を流したから(サイトなど不特定多数がアクセスできる場所に)公開する必要は無い、という態度は止める
3.官公庁は「ウィキノミクス」構想にあるように、統計法改正に伴い各種データを積極的に公開して分析や論文化を世界中の人に求める


この3点を実践してほしいものである。

上場企業において「世間一般にサイト上で公開できる情報ではないから」と公開を拒むかもしれないが、そもそも公開できない情報ならマスコミに流していることがおかしい。「マスコミには流せて世間一般に流せない、マズイ情報って何ですか」と突っ込まれたいはずはなかろう。また、東証の適時開示情報のコーナーを見れば「同時公開」が出来ないはずもない。「面倒くさい」「サイト上に掲載する体制が整っていない」などという言い訳は(少なくとも上場企業としては)言語道断だ。

官公庁のデータもしかり。世界中の研究者によって分析か行われれば各官公庁内の分析担当も下手な分析ができなくなり、やる気を出さざるを得なくなる。結果として技術レベルも上がる。

これらの「情報開示と不特定多数の研究者による分析アプローチ」は一言で表現するのなら、先の「ウィキノミクス」本の副題にある「マス・コラボレーション」に集約されると思う。「ウィキノミクスでマス・コラボレーション」。インターネットの有効な活用方法であり、今後多くの分野で使われるべきものだろう。当方もその一端を担えるよう、スキルを磨くべく修練を重ねる今日この頃だ。


(最終更新:2013/09/08)

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