ニンテンドーDSと「バイラルマーケティング(口コミ戦略)」の意外でステキな関係……下編

2006年11月12日 18:30

ゲームイメージ最近気になるキーワード「バイラルマーケティング」。要は口コミ戦略ということなのだが、それがニンテンドーDSにはぴったりで、逆にDSがそれをうまく利用しているのではないかというお話の下編。

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上編では「ニンテンドーDSがバイラルマーケティングと非常に仲が良い」理由として

・良いソフトを市場に提供できればユーザーの一人一人が「スニーザー」になりうる。商品自身がそのままツールになる。
・「一人から多数へ」のプロセスが容易に可能。しかもハードルが低い。
・地域コミュニティ単位で広まる。
・メーカー側も納得の仕様。


ということを挙げた。早速簡単に説明してみよう。

良いソフトを市場に提供できればユーザーの一人一人が「スニーザー」になりうる。商品自身がそのままツールになる

「バイラルマーケティング」で重要なのは、自然発生的な「スニーザー」が確保できるかどうか。できれば多数の人に影響力がある方が良い。先に例にあげたみのもんた氏なら、テレビを使って多数の人に力強い言葉を発せられるのでパワーは絶大だ。

ニンテンドーDSの場合はどうだろう。DSには無線LANが標準装備されていて、ソフトが対応していればDS同士で自由にデータのやりとりが出来る。そしてDS用ソフトの中には、そのソフトの体験版を無線LANを通じて他の端末に配る仕組みが用意されている。【DSステーション】で配布するのと同じ仕組みだ。

自分が買ってプレイしたソフトが「面白い」のなら、その「面白さ」を他人に体験版をあげることで伝えることが可能
自分が買ってプレイしたソフトが「面白い」のなら、その「面白さ」を他人に体験版をあげることで伝えることが可能

もし自分が買ったソフトが目ん玉飛び出るほど面白かったとしよう。「これ、友達にも薦めたい」と思うだろう。単にそのソフトの面白さを語ったりレビュー記事を見せるより、「体験版でいいから試してみなよ!」とした方が簡単だし説得力がある。パソコンゲームでも一部に体験版がついていてそのような流れを推奨するものはあるが、DSでならそれが気軽に、誰にでも出来る。

つまり、ソフト自身が「スニーザー」のアクションを起こさせるツールとなるわけだ。そしてユーザーの一人一人がDSステーションの機能を持った「スニーザー」になりうるのである。

仕組みを作っておけば、後は勝手にユーザーがユーザー予備軍に宣伝してくれる。これぞ「口コミ戦略」の醍醐味といえる。


「一人から多数へ」のプロセスが容易に可能。しかもハードルが低い

「バイラルマーケティング」の効果を最大限に発揮する、つまり「スニーザー」から情報を受けた「受け手」がさらなる「スニーザー」となって相乗効果を生み出すためには、情報が伝播するプロセスのハードルが低くなくてはならない。誰もが簡単に「これ、面白いよ」といえるような仕組みを作っておく必要がある。もしこれが無いと、他人に面白さを伝えるのが面倒になったり出来なかったりして、波及効果が期待できなくなる。

パソコンのソフトに体験版がついていてもさほど広まりを見せなかったのは、ここが大きな要因の一つとして挙げられる。要はインストールが面倒くさいからだ。ダウンロードに時間がかかるし、組み込みにあれこれ指示をしてくる。しかも自分のパソコンに何か「いたずら」をされて不具合を生じるかもしれない。そんなリスクを背負うなんて……という心配が「ハードル」となっている。

ところがニンテンドーDSの場合、体験版を受ける側は単に電源を入れて体験版受信のボタンを押し、相手(発信側やDSステーション)のそばに行くだけ。あとは選択すれば勝手に体験版が立ち上がる仕組みだ。これほど楽なものはない。DSそのものを操作できる人ならほぼ全員がすぐに体験版をゲットできるだろう。

体験版を他の人に配布したい場合、複数の相手に一度で簡単に配布することができる
体験版を他の人に配布したい場合、複数の相手に一度で簡単に配布することができる

しかも無線LANを使っていることで、一人の「体験版送信方」(あるいはDSステーション)から多数に、一度に波及させることが可能だ。例えば仲良しグループでDSを持ち合って、一人が『脳トレ』の体験版を送信させる。周囲の準備を整えていた他のメンバーが全員いっぺんに『脳トレ』体験版を受信することが可能になる。一対一だと面倒だが、これなら非常に楽。


地域(あるいは最小の)コミュニティ単位で広まる

ソフトを購入した、いわゆる「エンドユーザー」が「面白いよ電波」を発信する「スニーザー」になることで、ソフトを薦める対象が地域社会における最小単位のコミュニティになるのもメリットの一つ。学校のクラスやサークル、近所の友達の間、塾の友達、仕事場の同じ部署の人などなど、いわざ末端に最初から浸透し、伝播することになる。

それらのコミュニティでは「属性」が似通っており、伝播する情報が好意的に受け止められることが多いのも特徴。クラスの遊び仲間なら『マリオ』が好きな人は多いだろうし、塾の同級生なら気分転換と脳の活性化という大義名分で『脳トレ』に好意的だろう。

つまりはニーズにマッチした対象ソフトが広まることになる。

日本中のあらゆる地域のコミュニティで「バイラル」が起きる可能性がある
日本中のあらゆる地域のコミュニティで「バイラル」が起きる可能性がある。一つ一つは小さくともまとめれば大きな動きとなる

もちろん特定の1コミュニティだけに伝播が生じるのではなく、日本各地でソフトが販売された各地域で「バイラル」が起きる可能性はあるから、「小さな波及」が全国で起き、結局のところ大きなエリアでの「バイラル」になる。


メーカー側も納得の仕様

最後に欠かせない特徴が、この項目。ソフト制作側の事情だ。パソコンソフトなどで最大の問題とされ、メーカー側がある意味体験版を敬遠した理由が「体験版は保存できちゃうし、もしかしたら体験版で満足しちゃってソフトを買ってくれないのでは? 」というもの。これはソフトに限らず、ビデオソフトなどにも見られる傾向。

最近、映画『ミッション・インポッシブルIII』のプロモーション用に、開封後48時間で再生不能になる販促用DVDが作られた(【参照:IT Media】)。スパイモノの映画ということもあろうが、いかにコンテンツを作る側が体験版にぴりぴりしているようすがうかがえる。

ニンテンドーDSの体験版の仕組みはこの点でも非常に優れている。ダウンロードした体験版はいつでも遊べるが、その間は他のソフトや機能を一切使うことが出来ない。そして電源を切ってしまうとその場で消えてしまう。しばらく遊びたい場合はフタを閉めてレジューム機能を使えばいいが、その間は「体験版専用端末」になってしまう。

ずっと体験版でDSを埋めるわけにはいかないから、ある程度プレイをしたら電源を切り、体験版とおさらばすることになる。つまりその時点で体験版の寿命は尽きるわけだ。これなら「体験版が保存できるならそれで満足してしまうかも」というメーカー側の心配事も杞憂に終わる。

さらにタイトルの一部では遊べる回数や機能に制限をつけているものもある。例えば『テトリスDS』では3回しかプレイができず、その後はただタイトルデモ画面を眺めるばかりとなる。

一言でまとめると「ニンテンドーDSはハードルを低くして、バイラルマーケティングを行うのに最適な機能を兼ね備えている。あるいはその機能を最大限に活用している。誰もが気軽に口コミを行え、またいつのまにか口コミをしている」ということになるのだろう。

任天堂はニンテンドーDSを単なるゲーム機としてだけではなく、今回の推測のように「バイラルマーケティング」を利用できる(あるいは活用している)端末として世に送り出している。あるいは単に体験版が遊べる仕組みと無線LANを組み込んだら、結果としてこういう効果が生じたかもしれない、つまり「たなからボタモチ」状態なのかもしれない。が、それだとしても注目すべきことである。

また、【任天堂のDSライトを美術館案内端末として利用する件、東京渋谷の「スーパーエッシャー展」と判明】【DSの「英単語ターゲット1800DS」などで英語学習、京都府が実験学習へ】などで報じたように、ゲーム以外の分野で、デジタルモバイル端末としてのDSの使われ方も次々と提案されている。

今後、ニンテンドーDSの「バイラルマーケティング」との相性の良さをうまく活用した、もっと別の、面白い、良い意味で驚かせてくれるような「提案」を、任天堂や他のソフトメーカーがしてくることだろう。そんなソフト(+α)の登場を心待ちにしたい。


……ちなみにネット上で「バイラルマーケティング」をする場合、検索情報の問題や情報そのものの伝播のスピードや精密度など、通常のマーケティングとは別に考えねばならないことが山ほどある。が、ここでは主旨が異なるので省略。これを事業にしている会社もあることだし、そういう「専門家」の方々にお任せするのが一番だろう:P


■一連の記事:
【ニンテンドーDSと「バイラルマーケティング(口コミ戦略)」の意外でステキな関係……上編】
【ニンテンドーDSと「バイラルマーケティング(口コミ戦略)」の意外でステキな関係……下編】

(最終更新:2013/09/15)

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