新興市場再生の「五つの提言」をチェックしてみる

2009年02月14日 12:00

株式市場イメージ先日発売された経済週刊誌のうち、『週刊ダイヤモンド』と『週刊東洋経済』が非常に資料価値の高い内容を見せていたとして、それをトリガーにして色々と考えたり図式化する記事企画第五弾にして最終回(多分)。今回は「新興市場の断末魔」を取り上げている週刊ダイヤモンドから、同紙が提示した「新興市場再生のための『五つの提言』」をチェックしてみることにする。

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該当の週刊ダイヤモンドではタイトルの表現からも分かるように、現在株式市場の中でも特に低迷を続けている新興市場において、何が問題なのか、何が起きているのかを淡々と解説している。もちろん実際には悲惨な株価・実情の企業ばかりではないのだが、これだけを読むと「上場企業のイメージ」が音を立てて崩れていく感が強い。その実情は【1%の希望の星……新興市場の「勝ち組」の成績をグラフ化してみる】でも触れた通り。

そのようなさんさんたる状態の新興市場を再生するため、同紙では次の五つの対策を提言している。そのルールの概略と共に、当方(不破)なりのツッコミを入れることにしよう。

1.市場退出ルールの強化
海外の証券取引所の上場廃止基準と比較し、日本の新興市場における基準が甘いことを指摘し、「もっとキツくするべきだ」との提言。例えばナスダックのルールを適応すると、現在の新興市場上場企業1322社のうち862社が上場廃止に該当するという。実際、ナスダックでは4000社程度が上場しているが、多い年では900社以上が1年で上場廃止の扱いを受けるとのこと(ここ数年は上場廃止企業も少なくなってはいるが)。

日本では一方で、数字的な基準が甘めであるだけでなく、その他要件による「ペナルティ」が非常に甘く、さらにルールとして定められていてもそれを断行することが滅多に無く、「何でこんな企業が上場を続けられているんだ?」とコメントしたくなるような企業が多数存在するのは自明の話。その上、【株価低迷で時価総額による上場廃止基準一時停止へ】にもあるように、市場ルールの厳格化を求められる雰囲気の中、逆にルールを緩和する始末。株価低迷という事情があるにせよ、投資家軽視とも受け止められかねない態度を証券取引所が続けるのでは、投資家離れが加速化し、結局それが上場企業そのものの首をしめることになる。

この提言には全面的に賛成。さらに「運用上のルール遵守厳粛化」も加えるべきだろう。

2.新規上場基準の緩和
提言いわく「形式的な上場基準は国内外でさほど変わらない。むしろ上場審査のスピードとコストがかかるのが問題。だからこの面のハードルを下げるべき」としている。新興市場なのに、東証一部上場と変わらないくらいの体制・上場維持コストがかかるのはおかしいのでは、ということ。いわく「新しい血をどんどん入れなければ健康体にはなれない」。

この提言については中立。新しい血を入れるのは必要だし、新興市場の上場・維持と東証一部企業の上場・維持が同一コストなのは確かにナンセンス。企業の規模や状況にあわせたコスト負担が行われるよう、仕組みは変えるべき。

その一方、基準そのものの緩和は反対。「上場する」ということは、投資家から資金を募ることを意味する。「企業を市場に参加させるべきか否か」のルールを緩くしてしまったのでは、「本来上場させるべきではない」企業まで上場することになる。当然「べきでない企業」に投資家が資金を吸い上げられ、「まただまされたか」状態になりかねない。

「投資は自己責任」? それも事実だが、その自己責任を判断する材料すら「べきではない」方法で提示されていたとしたら、「責任論」は展開できないはずだ。

市場に参加する投資家のことを考えれば、(維持費の削減ではなく)「基準の緩和」は言及できないはずだが。先の例なら「新しい血をどんどん入れなければ健康体にはなれないのは事実だが、その血の鮮度や衛生面チェックをおろそかにしたのでは、かえって体がおかしなことになるだろう」ということだ。

3.取引所の責任明確化

証券取引所は公的なインフラとしての立場があるものの、基本的には私企業に他ならない。市場を健全化するには、幅広い裁量権を有する私企業ならではの柔軟性を活かし、イニシアティブを発揮すべきだとしている。

具体的には「非常識な株式分割、第三者割当増資、いい加減な情報開示などに対し、取引所は断固たる措置をとるべきだ」としている。それが現状で出来ていないのは、「投資家の売買機会を損なう」「上場廃止企業から訴えられる」「上場企業が減れば収入も減る」(他に「上場企業数の多い少ない」という見栄の問題もあるのだろう)などがあるから、ということだ。さらに何か責任を追及されれば「取引所だけが悪いのではない。監査法人や証券会社も悪い」と責任逃れの反論を行う。これではお役所仕事そのものとしか言いようがない。

責任の所在が明確でないから、問題が発生しているのだとすれば、明確化には賛成といえる。とはいえ、元記事では「どうすれば取引所の責任を明確化できるのか」までは記述されていない。自発的な自主ルールの策定を待っていたら次世紀まで待たねばならないだろうから、「プレッシャー」をかけ、さらにその自主ルールに違反した場合のペナルティも設ける必要があるのかもしれない。

4.新興市場は6つも要らない
これはタイトル通り。各地方証券取引所は「地域の活性化・地元産業の保護育成」を掲げているが、その地域だけでしか取引できないわけではない。市場は外に向けて開放されている。現状では「上場基準がキツくて上場できない企業が、緩めの地方証券取引所に上場する」というパターンが目立つ。これでは単なる「駆け込み寺」でしかない。

すでに大阪証券取引所によるジャスダックの買収が明示され、近い将来ジャスダックそのものがヘラクレスと統合される可能性が高い。原文ではこの状況を踏まえ、「他の地方証券取引所も合併させ、東証マザーズ・大証ヘラクレス+ジャスダックの二大新興市場で十分。さらに整理統合を推し進めて大証に一本化でもOK」としている。

これは賛成。役員の席の確保と地域企業を上場させたいというエゴで市場全体に弊害を与え続けているのなら、「お掃除」しなければならない。

5.海外ベンチャー誘致を急げ
これもタイトル通り。とくに中国やインドなど、アジア新興国のベンチャー企業をターゲットとすべき、としている。ただし「上記4つの提言」、すなわち「悪いことをしたらちゃんと罰せられる、取引所が厳しく取り締まる」体制を整えてからでないと、というのが前提。

これは条件付で賛成。その条件は言及されているように「投資家保護のルールの厳粛化と、その断行」を確実なものとすること。あえてどことは言わないが、半ば国策と政治的な「プレッシャー」、さらには功績確保の焦りによって上場以前から色々とその実情について疑問視されていた海外企業が上場を果たしたものの、CEOの不正発覚が露呈しわずか一年半ほどで上場廃止になった件が先日あったばかり。

原文で言及されているように、まずは現状の取引所内外の体制を確かなものにした上で、誘致を図るべきだろう。


例えば「5.海外ベンチャー誘致を急げ」では、現在海外の企業が上場した場合、事実上「外国部」扱いされ、取引の上で何かと投資家が「高いハードル」を感じる場合が多い(SBI証券ではインターネット上からの注文が出来ず、コールセンター経由でしか受け付けない、となっている)。このあたりの仕組みも改善する必要があるだろう。

基本的には「2.新規上場基準の緩和」が投資家利益を損なう可能性があるので慎重な態度をとる必要がある、ということ以外は大体において賛成。特に「証券取引所が既得権益を意固地なまでに確保し続けているため、さまざまな弊害を起こしている」という認識は多くの人が同意を示すのではないだろうか。

新興市場の銘柄が不人気振りを極めているのは、「まただまされるのでは?」という疑心暗鬼、そして「だまされても証券取引所は後手後手にしか処分をしないし、あるいは事実上見逃すのでは」という不信感によるところが大きい。市場に投資家と投資資金を呼び戻すには、まずは「信頼の回復」を図るべきであり、取引所が「自分自身」や「上場企業」ではなく、「投資家」にも体を向けねばならないのだろう。


(最終更新:2013/09/04)

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