オレオレ詐欺、最大の防止策は「ゆっくり考えていってね」

2008年10月25日 19:00

ATMを使う高齢女性イメージ内閣府は10月16日、「消費者の意思決定行動に係わる経済実験の実施及び分析調査」を発表した。それによると特に女性の高齢者の被害が多い「振り込め詐欺(オレオレ詐欺)」の最大の防止策は「考える時間を与える」であることが、心理学的考察や実証実験から明らかになった(【発表リリースページ】)。

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実験の主旨

今調査では「人間は常に経済合理性に基づいて行動する」という前提を元に作られてきた世の中の枠組みが、実際には「道徳的(倫理的)価値、社会的価値のありようが大きな影響を与え」、さらに「自分の個人的利益や無意識の判断に基づいて行動」する場合もあるという人間の行動のもとに当てはまらないことが多いとした上で、具体的な事例を元に検証をしてみたというもの。

「人間の判断はすべてが
経済的な合理性のみで
行われるわけではない」
を検証する

要は「人間ってすべての事柄を合理的、経済的な考えだけで決めるわけじゃない。実際には色々な価値観、周囲の注目度、自分自身の利益、さらにはパニックや衝動など無意識の行動にも色々と左右されるものだ」ということを、「環境奉仕活動」「振り込め詐欺」の2点のから検証してみようという話。

この考え方は【住民税倍増でクレーム殺到・税源移譲問題再考】などでも触れている、ノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマン氏の「プロスペクト理論」こと「行動ファイナンス(行動経済学)」あたりとも通じるものがある。

振り込み詐欺、敵は「考える暇を与えない」

前置きがやや冗長となったが、本題に入る。発表レポートによれば、振り込み詐欺に関する連絡を加害者から受けた時点において、受け手側は「熟慮的処理」「自動的処理」の二つの過程を経て意思決定を行う。

・熟慮的処理……手元や記憶上の情報を探したり確認し、色々考えた上で結論を出す
・自動的処理……無意識な、直感的な判断(正しい「判断」とは限らない)


振り込み詐欺にあう人は、加害者側から電話で脅されたり、時間がないと畳み掛けられたりすることでついつい「自動的処理」を優先してしまい、振込みをしてしまう(=間違った判断をする)ことになる。

「振り込み詐欺」にあう人の行動・思考パターン(元資料に追補)
「振り込み詐欺」にあう人の行動・思考パターン(元資料に追補)

高齢者の女性が「オレオレ詐欺」にかかりやすいのは……

短時間の、熟考しない判断こと「自動的処理」によるミスは性別・年齢別で違いが生じるのだろうか。レポートでは全国300人の男女(年齢階層などは非公開)に対する行動実験の結果を例示している。実際に「振り込み(オレオレ)詐欺」を実証するわけにも行かないので、パソコン上で購買判断の課題を与え、その正解率を見ようというもの。

実験では課題を与えた後、「考える時間を与えずにすぐに回答させる……即断条件」「考える時間を与えた後に回答させる……熟考条件」「簡単な計算問題をしてもらった後に回答させる……二重課題」の3グループに分けて回答。それぞれのグループの正解率を検証した。

条件毎の正答した割合(若年)
条件毎の正答した割合(若年)
条件毎の正答した割合(中高年)
条件毎の正答した割合(中高年)

若年層では即断の方が熟考よりも正答率がわずかながら高いという、これはこれで興味深い結果が出ているが、今件では検討の対象外なので脇においておく。問題なのは中高年、特に女性における即断グループでの正答率の低さ。同一条件の男性の約半分でしかなく、他グループ・他条件と比べてもきわめて低いのが分かる。

レポートではこの結果を受けて、「反応の特性やその他条件を考慮した更なる検討が必要である」としながらも、「振り込み詐欺に対しては熟慮的な判断を促すための「時間」を確保することの重要性」が示され、とりわけ

切羽詰った状況にある(と説明されている)振り込め詐欺対策としては、熟考できれば正しい判断ができるようになる「中高年齢層の女性」を重要なターゲットとして、「少し待つ」ように促すことが効果的である可能性


が示唆されたとしている。

レポートの裏づけデータと最近の警官配置と

要は「特に振り込み詐欺でだまされやすい中高齢層の女性に対し、振り込みという決断を行動に移す前に考えさせる時間を与える」ことが最大の防衛策となりうる、というのが今回の実験・検証の結果。同時にこれまで実施されてきた防衛策の裏づけでもある。

今回のデータを後押しするデータとして、【神奈川県警による振り込み詐欺のデータ】を例示しておく。

神奈川県警が掌握しているオレオレ詐欺被害者の男女別年齢層(既遂1042件、今年1~9月)
神奈川県警が掌握しているオレオレ詐欺被害者の男女別年齢層(既遂1042件、今年1~9月)

男性よりも女性、しかも60~70歳の高齢層に多いのが分かる。

警察官イメージ最後に。新聞報道などでご存知の通り、警視庁では年金支払日の15日に東京都内の現金自動預払機すべて(銀行・コンビニ含む)に警察官を貼り付けると発表している。単に張り付いているだけではなく、高齢者に積極的に声をかけて被害防止を図る狙いがあるという。

これは防犯意識を高めるだけでなく、高齢者に話しかけることにより時間を経過させ、場合によっては振り込み要件の状況を確認させることにより、「即断条件・自動的処理」を「熟考条件・熟慮的処理」に変える効用が期待できる。もちろん後者でも判断ミスを犯す可能性は否定できないが、大きな効果は期待できるだろう。……本来ならばATMの設置店側が行うべき行為なのだが。

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