ジンバブエのインフレをグラフ化してみる

2008年07月19日 19:30

ジンバブエのハイパーインフレイメージ先に【札束抱えてお店に買い物……超インフレなジンバブエの買い物風景と現状】【ノートパソコンお一つ205兆ジンバブエ・ドル】などでお伝えしているように、アフリカ内陸部の国ジンバブエでは世界経済史に刻まれるであろう超インフレが進行中。先日公式なデータとして[このリンク先のページ(Cnn.co.jpなど)は掲載が終了しています]との報道もあり、注目を集めている。

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現状のあらまし

今回のジンバブエにおけるインフレに歯止めがかからないのは、ムガベ独裁政権による強行政治が続き、政局が混乱を極め、現行政府が経済を極端に悪化させる政策を(端から見れば意図的にと思えるほど)次々と打ち出しているため。詳細は他記事・他報道に譲るが、常任理事国間でも意見が分かれている現状では、事態改善の兆しは見えてこない。

さて、ジンバブエの通貨「ジンバブエ・ドル」だが、上記にあるように公的な発表では年間インフレ率が220万%に達している。最新情報は【ジンバブエ中央銀行】のサイトでたどることができるが、日本時間で7月19日の時点では

1アメリカドル=271億6467万7690.87ジンバブエ・ドル
1日本円=2億5589万6356.19ジンバブエ・ドル


と表示されている。紙幣そのもののケタがインフレを起こしているので参考にならないが、1円玉1枚を両替すると2億5000万ジンバブエ・ドルあまりが目の前に積み重ねられることになる(いや、2億5000万ジンバブエ・ドル紙幣を1枚、だろう)。

史上最悪のインフレーションは第二次大戦後にヨーロッパのハンガリーで発生した「16年間で貨幣価値が1垓3000京分の1」(インフレ率(%)にする場合には、分子・分母をひっくり返してさらに100をかける)で、これはギネスブックにも登録されている。

しかし今回のジンバブエ・ドルのインフレが注目を集めているのは、そのインフレスピードの速さもさることながら、インターネットが普及して世界のどこからでもほぼリアルタイムで情報を入手できるようになった「ネット社会」に至ってはじめての、ハイパーインフレであること。現地や近隣諸国に在住している人や、報道機関を通じてしか得られなかったインフレに関する情報が、地球の反対側にいる人でも手に取るように把握できる。そして記録が逐次行われると共に、論議も活発に繰り広げられている。この点が、ジンバブエのインフレがこれまでのインフレと大きく異なるポイントといえる。

グラフ化してみる……が

さてそのジンバブエ・ドルだが、公式の交換レートと闇レートでは大きな隔たりがある。また後者は伝えられる機関も多種多様に及ぶため、差が大きく開いていることもある。その上で色々探りを入れてみたが、やはり【Wikipediaのデータ】が一番データとしては集約されているので、これを元にグラフ化を行うことにする。

なおほぼ2年前の2006年8月1日にはデノミネーションが実施され、通貨は3桁の切捨てが行われた。つまり旧ジンバブエ・ドル100単位が新ジンバブエ・ドル1単位となった。今グラフではそれを考慮した上でのものとなる。つまり2006年8月1日以降は表記数値に100をかけた上でグラフに反映する。

ジンバブエ・ドル為替変遷(対米ドル・デノミ考慮=旧ジンバブエドル換算、月末データ)
ジンバブエ・ドル為替変遷(対米ドル・デノミ考慮=旧ジンバブエドル換算、月末データ)

……何が何だかよく分からない。ここ数か月のインフレ率があまりにも大きすぎ、縦軸が均等区分ではまともなグラフとして表示できないのだ。そこで縦軸を対数表記に改めてみたのが次のグラフ。

ジンバブエ・ドル為替変遷(対米ドル・デノミ考慮=旧ジンバブエドル換算、月末データ、対数表記)
ジンバブエ・ドル為替変遷(対米ドル・デノミ考慮=旧ジンバブエドル換算、月末データ、対数表記)

見た目には緩やかなインフレのように見えるが、縦軸の変換レートが対数的に上がっていることに注意して欲しい。1つめの区分が1から100なのに対し、二つ目は100から10000。100から200ではない。次の区分は10000から1E+06、つまり1000000。これだけ縦軸の区分が急速に増えているにも関わらず、グラフそのものは何事もなかったかのようなカーブを描いているのが、いかに恐ろしい現実を示しているか。それは、一つ目のグラフを見返してみれば分かるはず。

しかも対数グラフであるにも関わらず、今年に入ってからカーブの勾配がキツくなっているのも分かるだろう。つまり事態はより深刻さを増していることに他ならない。

試しに1対1000のデノミネーションを実施した2006年8月以降に限ってグラフを作り直してみる。

ジンバブエ・ドル為替変遷(対米ドル、月末データ)
ジンバブエ・ドル為替変遷(対米ドル、月末データ)

やはりほとんど無意味なグラフとなった。実はターニングポイントともいえる2008年5月には、5日の時点で公式な為替レートも変動相場制に移行している。これが、公式・闇双方の為替レートにおける「たが」が外れた原因といえる。実際5月4日時点で1米ドル=3万ジンバブエ・ドルだった公式レートは、変動相場制導入初日の5日には1億6881万5333.33ジンバブエ・ドルまで急落している。

縦軸を対数表記することで、ようやくまともなグラフとして形成される。

ジンバブエ・ドル為替変遷(対米ドル、月末データ、対数表記)
ジンバブエ・ドル為替変遷(対米ドル、月末データ、対数表記)

最後に、変動相場制に移行した5月5日以降について、月単位ではなく日にち単位でグラフを形成する。これはようやく最初から、対数表記をしなくともまともに見れるグラフとなる。

ジンバブエ・ドル為替変遷(対米ドル、変動相場制移行後)
ジンバブエ・ドル為替変遷(対米ドル、変動相場制移行後)

大統領選が激化した6月以降、政情の不安定さも加速し、為替レートも急激に悪化したことが分かる。


ここまで事態が進展すると、過去のハイパーインフレの事例を見る限りでは、通貨そのものの仕組みそのものも含めた変更(ドイツのレンテンマルク導入の事例)、あるいは固定相場制の導入(アルゼンチンの事例)、そしてもちろん政情と経済の安定化がなされない限り、誰もこの動きを止めることは出来ないものと思われる。

しかも現時点では事態は沈静化どころかますます悪化の方向に舵が取られつつある。国際協調も得られない中、ただただ時が過ぎ、数字が加算されていく様子を見守るしかないのが悲しい現実といえよう。


(最終更新:2013/08/04)

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