「アポロ&ポセイドン構想2025」シンポジウムで新たに分かったこと

2008年03月13日 06:30

バイオエタノールイメージ先に【2025年には日本が資源大国に!? 三菱総研「アポロ&ポセイドン構想2025」提示】で報じた、海藻を用いたバイオエタノールの量産システムを軸にした、海洋からの新エネルギー源確保のための研究について、3月12日に三菱総合研究所内でシンポジウムが開催された。その場において「アポロ&ポセイドン構想2025(Apollo & Poseidon Initiative 2025)」の関連資料も配布され、また質疑応答の内容から、新たな事実なども明らかになった。今回は速報として、前回の報道後、特に疑問視された点における回答などをまとめることにする。

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「アポロ&ポセイドン構想2025」は2007年2月に内閣府のイノベーション特命室へ提示された、海洋における海藻(ホンダワラなど)を用いた総合的な資源調達プロジェクト。バイオエタノールを年間2000万キロリットル以上精製する話が一人歩きしているが、それだけでは採算が取れないので、各種レアメタルや海洋の浄化、さらには二酸化炭素の吸収による排出権の確保と排出権関連の出費削減などをもあわせた総合的な「エネルギー開発プロジェクト」となっている。

なおこのプロジェクトは逐次新しい技術の導入や議論の結果、情勢の変化を反映させた変更が行なわており、常に形を変えて進歩しているとのこと。

先の報からさまざまな掲示板などで論議が交わされたが、それらの中からいくつかを抽出した上でまとめ、今回のシンポジウムで確認したことを以下に箇条書きで列挙する。

1.深海1000~3000メートルの深みで「ホンダワラ」は育つのか

実は「アポロ&ポセイドン構想2025」ではなく類似案件の【オーシャン・サンライズ計画】での話なのだが、同じくホンダワラを用いる構想で「水深1000~3000メートルでの養殖を想定」という解説があった。ホンダワラがそもそもこの深海で育つのか、という疑問が一部で呈されたが、この答えは「アポロ&ポセイドン構想2025」においては「ノー」だった。

今計画においてはホンダワラの養殖深度は1~2メートルを想定。海上が荒れて緊急避難をさせる場合にも海中5~6メートル程度の深度。要はそれ以上深く潜らせると、光がほとんど届かず、光合成が出来ないという説明である。

2.環境や生態系への影響は

バイオエタノールやレアメタルの精製元となるホンダワラを大量に養殖すると、周囲の環境に影響を与えるのではないかとする意見。炭酸ガスの固定や多種多彩な生物の生息場の提供、あわびやウニ類などの飼料にもなるなど、「水産資源の増大」「豊かな生態系の創出」「(動植物にとって)住み良い環境づくり」が期待されるが、同時に周囲環境・生態系が変化する可能性はある。

今計画において最大限に日本海を用いた場合、日本海の一次生産(能力・養分)の約半分を海藻の養殖に用いることになるので、上記メリットが望めるのと同時にマイナスの変化がおきる可能性は否定できない。これについては今後検証を進め、その中で改善する技術を導入・研究開発するなど詰めていくとの回答。

要は「オール・オア・ナッシング」でちょっとしたハードルが立ちはだかったらすぐにダメ出しをするのではなく、大きな戦略の元で柔軟性に富んだ、機動性のある計画進行が必要ということである。

3.日本海ではなく太平洋での展開はどうか

計画では日本海上に養殖場を設けることになっている。海流の問題や海中内の養分が豊富であることなどから最有力候補として挙げられているのだが、同時に東シナ海のガス田問題や、半島からの大量・長期間に渡るゴミの廃棄など、政治・外交における障壁・妨害が容易に想定できる。これらの問題をほとんど検討する必要のない、太平洋側で事業を展開してはどうか、という意見が出てくるのは、現状においては当然といえる。

これについては、「銀座にショーウィンドウを作った方が売れる」という表現が行なわれ、対外アピールや事業そのものの効率を考えると、もっとも適しているのが日本海であるという結論によるものという話だった。また同時に「日本海での展開プランはシンボリック的なもの」なる説明もあり、将来において「日本近辺で資源確保」という観点だけでなく「地球規模の環境対策」として「アポロ&ポセイドン構想2025」の技術を用いるのなら、もっと適切な場所はいくらでも存在するとも言及している。

4.マスコミ露出が少ないが……

今回の「2025」では基本的に先の日刊工業新聞による報道がすべてで、他のソースは細切れになった情報を当方がまとめて以前の記事にしたもの。情報そのものは非常に少ないが、多くの人の意見や論議を呼び起こしたことから、少なくともネット界隈の注目度は極めて高い。

計画そのものが非常にダイナミックで大規模なものであることから、その実現性を「夢空事」と一笑する人もいる。しかし今回のシンポジウムでも語られた「大戦略を元に逐次軌道修正や足し引きを行ない、目標を目指す」という方針上、そのように見られるのも仕方ないのかもしれない。だからこそ、真意を伝えるため、立案・計画実行時は同じように酷評される面もあったものの、大戦略のもとで技術や経験の蓄積を進め、長い時間をかけて目標を達成した「アポロ計画」の名を冠している。

説明によれば、日本では個々の技術は素晴らしいものがあるが、それを集大成化して大きなものを創り上げる「戦略性」に欠ける、戦略性を持つシステムそのものが考えとして無い。そこで今回のシンポジウムでも「一般の人を巻き込んだ」展開を、という発言はあったものの、資金面が云々という話ではなく、技術やアイディア、研究など計画の根幹を成す骨組みに関する面での協力を第一に求めているのが現状であるのだという。

そのために、マスコミへの情報露出は優先順位が低くなってしまうのが「マスコミ露出が少ない」原因だとしている。実際、先の日刊工業新聞の記事も何らかの形のリリースが配布されたわけではなく、担当記者が計画の関係者から色々と話を聞き、それをまとめたものに過ぎないとのことだった。

また先にも触れたが、計画そのものが日々進歩変更されているため、そのたびにマスコミにリリースを提示していたのではきりがない、という意見もあった。もっともこちらはインターネット上に公式サイトなどを作り、逐次更新情報を展開していけば良いと思われるのだが、他の理由(計画に「参加できる」人の協力が優先課題)から、優先順位は低いようだ。


「そこでのみ資料を配布する」ということで今回シンポジウムに参加したが、手渡された資料は講義の中で展開されたパワーポイントのものからかなりの枚数が歯抜けしており、かつモノクロのものでしかなかった。完全なデータやカラーの資料については、それぞれの講師の個人的なファイルであるから、という理由で提供されず、当方でも少々頭を抱えている(一応請求済み。配慮があるとありがたいのだが……)。

今後手元の資料と、ウェブ上で見つけられるかもしれない断片データを元に、これまでと同じように分かる範囲で理解しやすく、「アポロ&ポセイドン構想2025」についてお知らせするつもりである。


(最終更新:2013/08/10)

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