【更新】ロシアの爆撃機Tu-95(ツポレフ95)、伊豆諸島に領空侵犯

2008年02月12日 06:30

Tu-95(ツポレフ95)イメージすでに多くのメディアで報じられているが防衛省に2月9日入った連絡によると、9日の午前7時30分から約3分間、伊豆諸島南部の海上においてロシアの爆撃機「Tu-95(ツポレフ95)」1機が領空侵犯を行なった。これに対し航空自衛隊では迎撃戦闘機22機と早期警戒管制機2機をスクランブル発進させ警告したが、ロシア機は何の応答も無く立ち去った([参照:読売新聞])。今件についてロシア空軍側では領空侵犯の事実を否定した([参照:読売新聞])が、外務省では同日抗議を行なうと共に、ドイツを訪問中の高村正彦外相がロシアのイワノフ第一副首相と会談し、再調査を依頼。第一副首相側も調査実施を表明している([参照:産経新聞]>)。

スポンサードリンク

Tu-95(ツポレフ95)とは?

さてここで今回領空侵犯を行なったとされるTu-95(ツポレフ95)について軽くおさらいをしておこう。すでに当サイトでも何度か登場しているこの爆撃機、正式名はTu-95(ツポレフ95)(Tu-95MSベアH型)で、その歴史は古く開発自体は1950年代にさかのぼる。すでに生産自身は終了しているが、その長大な航続距離(1万5000キロメートル)から今でも現役機(H型は巡航ミサイルAS-15を搭載可能)として活躍中。最近では2007年7月17日に[防衛省から発表があったように(PDF)]伊豆諸島付近への偵察飛行も敢行している。

近年になってからは【ロシア、戦略爆撃機による24時間パトロール飛行を再開・15年ぶり】にもあるように原油高で財政がうるおったロシアが国威高揚もかねて各軍の活性化を図っており、【ロシア戦略爆撃機の長距離偵察に英ユーロファイター戦闘機が初スクランブル発進】【ステルス戦闘機F-22、感謝祭にロシアの爆撃機と初遭遇】にもあるように、アメリカやイギリスとの間で領空侵犯などを巡り迎撃を受ける騒ぎが起きている。


プロモーション動画のものと思われるTu-95の映像。大きさが把握できるはず。

公式サイト上の発表

防衛省公式サイトでは連休中のためか今件についてまだ掲載は皆無だが、外務省では[ロシア機による領空侵犯について]と称し2月9日付けでリリースを発している。

状況の説明は次の通り。

2月9日7時30分36秒から7時33分24秒までの間、ロシア連邦空軍機(Tu-95)1機が、伊豆諸島南部の孀婦岩領海上の北緯29度47分、東経140度07分から北緯29度52分、東経140度34分にかけての地点において、我が国領空に侵入した。航空自衛隊の戦闘機(F-15等計22機)が緊急発進を実施し対処した。


また、ドイツ歴訪中の外相が調査依頼をした件も[高村外務大臣とイワノフ露第一副首相との会談(結果概要)]にて伝えられている。これについては次の通り記載されている。

9日早朝に発生したロシア機による領空侵犯事案について、イワノフ第一副首相から、ロシア側において調査した結果、領空侵犯の事実はなかった旨述べるとともに、日露間では共同演習、防衛交流を続けるべきであり、それにより信頼が生まれ、疑念はなくなっていくと述べた。これに対して高村大臣より、領空侵犯については我が方の自衛隊機が目視で確認している、事務方で既に抗議するとともに事実関係の調査を申し入れているが、もう一度しっかりと調べてほしいと述べたところ、イワノフ第一副首相は、技術面を含めもう一度詳細に調べてみようと述べた。


防衛省側からも今後発表があるだろう。なお、ロシア機(旧ソ連機)の領空侵犯は2006年1月の輸送機によるもの以来。伊豆諸島付近では1975年9月以来33年ぶりとなる。

今回の偵察・領空侵犯をどう見るか

2007年7月時の対象機と飛行ルート。
2007年7月時の対象機と飛行ルート。
今回もほぼ同じだったと思われる。
(正式発表待ちだが……)

今件は伊豆諸島への領空侵犯が33年ぶりであることや、北海道や日本海側などロシアに近い地域ではなく、むしろ一番遠い伊豆諸島であったことなどで大きく報じられている。しかし実のところ、冷戦時代にはこのような偵察行動(と領空侵犯)は日常茶飯事的に起きていた(「東京急行」と呼ばれている)。それが冷戦終結後、経済的な問題から燃料費などの節約のため優先順位を抑えられ、ここ数年までの間滞っていただけに過ぎない。その観点で考えれば、原油高騰で経済力をつけたロシアが、冷戦時代のような軍事的圧力を強めつつある、と考えることもできる。

ちなみに、一部で「24機は多すぎ、大げさすぎでは」という意見も聞かれるが、戦闘機22機と早期警戒機2機がいちどきに、雲霞(うんか)のごとくTu-95の周囲を飛び交ったわけではない。領空侵犯をした3分間だけでなくそれ以前においても対象機に対して接触飛行を続けていただろうし、領空侵犯状態から脱した後もしばらくは追尾を続けねばならない。もちろん戦略爆撃機と同じ航続距離を戦闘機が持っているはずもなく、ローテーションを組んで逐次監視を続ける以上、複数組の機体が必要になる。

さて。伊豆諸島付近の偵察経路も、その「日常茶飯事」の一つ。上記の防衛省発表による2007年7月の伊豆諸島付近へのロシア爆撃機の偵察飛行の件やイギリス領空を侵犯した時の[BBCの解説ニュース]を見ても「いくつも存在する偵察経路のうちの1パターン」に過ぎなかったことが分かる。何しろ同機は無補給で1万5000キロの航続距離を誇る。グアムまで飛べるのだから、伊豆諸島などついでの駄賃のようなもの(航路的には本当にグアムのついで、ではなく伊豆諸島を目的地としたものだろうが……)。むしろこのレベルの話で外務省も報道も大騒ぎをするのなら、東シナ海のガス電問題など毎日、新聞の一面を飾ってもおかしくないはずだ。無論、領空侵犯をしても良い、許すべきだという話ではない。念のため。

先に侵犯を受けたイギリスでは今件について【BBC NEWS】が詳細を伝えると共に次のようなコメントを寄せている。

今件がロシアの日本へのブラフか単なるミスかどうかは分からないが、日本政府に緊張感を走らせたのは事実。しかし日本にとってロシアは石油資源の確保先として、ロシアはシベリア地区の開発資金の投資を求めて、お互いを重要視している。両国間の関係改善の動きは確かなものだろう。


この指摘はかなり真髄をついているように見える。

ロシア空軍の通常飛行において意図的に、あるいは何らかの間違いで領空侵犯をしてしまったのかもしれない。あるいは高村外相がドイツでロシアの第一副首相と会談するタイミングを合わせ、軽いジャブをしかけた可能性も否定できない。

いずれにしても、1980年代までにおける冷戦構造上の軍事大国ロシア(旧ソ連)が復権を果たしつつあることだけは違いなさそうだ。


(最終更新:2013/08/13)

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...

スポンサードリンク



 


 
(C)JGNN||このサイトについて|サイトマップ|お問い合わせ