「人口1000人に付きわずか2人」「毎日19人の患者を診療」日本の医師不足が浮き彫りにされたOECDの最新レポート

2007年11月17日 12:30

医療イメージ経済協力開発機構(OECD)は11月13日、加盟している国それぞれの医療実態を調べたHealth at a Glance 2007(図表で見る医療・2007年版)を公開した。それによると日本は1年間における一般の病症における入院(緊急性病床)において、19.8日を記録しており、OECD平均の6.3日を3倍する日数であることが明らかになった。

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OECDとは冷戦時代主に西側諸国によって構成された、経済活性化のための組織。冷戦終結後には東側諸国や新興工業国も加わり、現在では先進諸国を中心に35か国が加盟している(【参照:外務省内OECD説明ファイル、PDF】)。

今回発表された「図表で見る医療・2007年版」ではさまざまな観点から加盟諸国の医療・健康における実態が図表で明らかにされている。今回は直接医療に関係する入院数などについて焦点をあててみることにする。

受診回数は加盟国トップの13.8回/年

まずはお医者さんへの受診回数。日本がトップの13.8回/年を記録している。

加盟諸国別受診回数
加盟諸国別受診回数

OECD平均の6.8回と比べると2倍近くになる。他の先進諸国と比べてもドイツの7.0回、イギリスの5.1回、アメリカの3.8回など日本の回数の多さがわかる。医療制度や文化の違いはあれど、これは「目だった数字」と見て良いだろう(受診回数が多いと「良くない」という意味ではない)。

ただし受診回数そのものは一部の国をのぞき減少する傾向にある。1990年と2005年(今回データ分)を比較して、日本では1.5ポイントの減少を記録するなど、多くの国でマイナスの数字が見られる。一方、ドイツやデンマークなど一部の国では増加も見られ、特にトルコでは3.4ポイントの大幅増加が見受けられる。レポートではこの原因について「医者が増えたこと、医療費の公的補助システムの拡充、低所得者層向けの医療設備への交通費の補助サービスの普及などが医者に通う機会を増やしたのだろう」と説明している。

診療医師数は不足気味、1000人に対しわずか2.0人・年間6800回診察

日本における人口1000人あたりの医師数は1000人あたり2.0人。「1人の医師が500人に対応する」という計算になり、毎日が「お盆と正月と誕生日と年末大セールの同時開催」というほどの忙しさが容易に分かる結果となっている。

加盟国別人口1000人あたりの診療医師数
加盟国別人口1000人あたりの診療医師数

日本の2.0人はOECD全体の平均の3.0人の2/3、ドイツの3.4人やアメリカ・イギリスの2.4人と比べてもかなり少なめであることが分かる。

医師不足は医者一人あたりの診察回数にも表れている。

加盟国別の医師一人あたりの年間診察回数
加盟国別の医師一人あたりの年間診察回数

OECD平均で医師一人あたりの診察回数は2511回。これを日割りすると6.9回/日となる。一方で日本は実に6795回と平均の2.7倍に達している。日割りで18.6回/日。1年365日休みなしで計算しても、日本では平均的な医師は毎日19人近くの患者を診察していることになる。

入院平均日数は19.8日、OECD平均の3倍

入院日数も日本は他の加盟諸国と比べて長い傾向にある。

加盟諸国別の平均入院数(クリックして拡大)
加盟諸国別の平均入院数(クリックして拡大)

OECD平均では6.3日、ドイツで8.6日、イギリスで6.1日、アメリカで5.6日など一週間程度で退院するのが平均的な入院日数であるのに対し、日本は19.8日と3週間近く入院する結果が出ている。レポートでは入院期間の長い国について、「とりわけ日本では病院におけるベッド数が多く、それが入院日数が長いという結果をもたらしたのかもしれない」と説明している(実際人口1000人あたりのベッド数は加盟国中日本がもっとも多く、2005年時点でOECD平均が3.9床なのに対し8.2床となっている)。また、医療技術の進歩発展や機材の充実も入院日数を延ばす一因なのだろう。

グラフ上薄い棒グラフが日本には割り当てられていないが、これは1990年の数字。すべての国において医療技術の進歩発展もあり、平均入院数が減少していることが分かる。


これらの結果を見ると、日本の医療現場では「医者の絶対数が少なく現状のお医者さんがてんてこ舞い状態」にあることが分かる。同レポートでは医学生の数に関する報告も行なわれているが(【該当ページ】)、医師1000人あたりの医学部卒業生の数は29.1人とOECD平均の34.6人を下回り、下から数えた方が早いという状況。看護師についても状況はさほど変わらない。

医療制度の改正で、医師に対する風当たりがさらに強くなるという話を聞く。また最近では特に産婦人科の医師不足が社会問題となっている。恐らくは今回発表されたデータを取得した2005年当時より、医療現場における「大変さ」は一層拍車をかけたものとなっているのだろう。【医師の過労死問題が問われる状況ですらあるのだから】その推測は容易にできるというものだ。

「医療費削減」という大義名分のもとに行なわれた政策により、医療現場へのしわ寄せがキツいものとなりつつある。現状を見る限りでは医師も患者も双方とも幸福になれるような状況になるとは思えない。「患者の医療費支払い額が増えるようにすれば医者に通わないよう努力するだろうから、国民の健康も増進されて医療費も削減されるだろう(そうすれば国の医療費負担分もますます減らすことが出来る)」という思惑なのだろうが、その一方で「国民の健康増進を推し進める」政策は少しも見えてこない。せいぜい【メタボリックで四人に一人が要指導・来年4月から特定健診、特定保険指導開始】にある「特定健診」くらいである(もし他にも画期的な改善策が行なわれているとしたら、啓蒙活動が足りないといわざるを得ない)。

国のおサイフ勘定ばかりを優先して現場の状況を無視し、結果として医療や国民の健康に関する現状を改善するどころか医師も患者も頭を抱えるばかり、幸せになるのはそろばん勘定をする官公庁ばかりという、困った事態に陥りつつあるようにも見える。医療制度関連の政策には注意を続けていくべきだろう。

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