証券税制の優遇措置廃止で新展開・金融庁が税率10%を「国際化」の観点から恒久化を要請へ

2007年08月25日 12:00

株式イメージ【毎日新聞】が伝えるところによると金融庁は8月24日までに、2008年度の税制改正要望の中で、株式の譲渡益・配当に対する軽減税率を恒久化するよう求める方針を固めたという。「貯蓄から投資」の流れを定着させるだけでなく、金融・資本市場の国際競争力強化のためには、軽減税率の維持が不可欠だと判断したからとのこと。

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現行の証券税制は株価低迷を是正するために2003年に導入された「証券税制優遇措置」が施行中で、株式の譲渡益・配当にかかる税率は本来の20%から10%に半減されている。しかしすでに【政府税調「証券税制優遇撤廃」を最終決定、金融相は「株価が下がるし三角合併で国益に反する」と反発】などで伝えているように、譲渡益については2008年末、配当については2008年度末に廃止が決定している。

今件については財務省が財政の統一化や税収増加の面で、与党の一部や野党からは金持ち優遇税制だから廃止を、などの廃止促進論が出ている一方で(中には【民主党、「株式売却益課税を30%へ」との考え】などという意見すらある)、金融庁や証券関連団体などからは存続するよう強い意向がなされている。

元記事によると金融庁では「アジア諸国には非課税とする国もあり、10%の現行税率ですら優位性はない(。だから20%への引き戻しなど問題外)。国際金融センターとしての東京市場の地位を確立するためには、国際水準に近い現行税率の恒久化が必要だ」と主張する一方、反対派の意見も踏まえ「配当は10%恒久化」「譲渡益は時限措置として存続」という案も検討しているという。

また金融庁側の動きを受けて24日に行なわれた、津島雄二・自民党税制調査会会長のロイターとのインタビュー記事の中では(【参考:asahi.com】)、株価不安定の情勢を踏まえ、「すべてのオプションを頭に置いてこれから議論する」と述べ、廃止・延長を明言することを避けている。

津島氏とインタビュワーとのやり取りは上記参照ページに掲載されているが、証券税制優遇措置に関する言及を簡単にまとめると次の通りとなる。その上で年末までに適切な判断をしたい、とのこと。

・証券税制優遇措置の延長論や、金融資産収益からの課税は”国際的な話”。
・特別措置はやめるべきだという意見もあるが課税の公平についてよく考え直す必要がある。
・今問題は投資家の問題だけではない。(株式などで運用する)年金会計もかつては赤字を出したが今は黒字。
・「日本の配当課税、株式の譲渡益課税が突出して他の国と違っているという事態は避けなければならないと考える」
・譲渡益課税は日本が高い、先進国と比べれば安い、という両説がある。公平論もプラスされ、証券税制優遇措置をやめてしまえという指摘もある。しかし今問題は年金問題とも深く関わっている。


金融庁と混迷する株式市場に対する多少のリップサービスと受け止めることもできるが、これまで「2008年廃止」と一度決定していた話と比べれば、劇的な変化とも受け止められる(もっとも元々自民党税制調査会は「優遇措置賛成派」なため、最終決定を自分の口から覆すことは避けたいが、賛成派としての心境は変わらないという意味での言及なのかもしれないが)。

特に、「市場の国際化」を持ち出して「日本の市場取引を国際化するには課税率を魅力的な値にする必要があること」とし、少なくとも現行の証券税制優遇措置を正当化する理由を打ちだしたこと、さらに「財源が問題視されている公的年金の運用においても譲渡益・配当益の税制優遇措置はプラスに作用しているのだから、それを廃するとなれば年金の財源にもさらなる問題が生じることになる」というブラフをかけたあたり、自民党税制調査会が「やる気」を出していることがうかがえる。

現行の「証券税制優遇措置廃止決定」は【政府税調、証券優遇税制の廃止議論で「市場のかく乱」は避けるべきと主張】にもあるように、政府税制調査会と自民党税制調査会の対立の中で、前者優性のまま押し切られて決定したともいえる。

株式市場が混沌としている状況であることや、東京証券取引所が海外の証券取引所と相次いで提携を結んだり、海外の取引所が統合するなどで「金融市場の国際化」が加速度的に進んでいること、さらに年金問題が大きく論議されるなど、かつて「証券税制優遇措置廃止決定」の判断を下したときとは情勢が大きく変化している。

2008年の廃止決定予定時期を間近に控え、金融庁と自民税制調査会が新たな「みこし」を立てて今件問題にアプローチをかけたことにより、金融庁や政府・自民税制調査会、東証や日本証券業協会証券など関連団体、与野党それぞれの思惑が複雑に絡み合い、大規模な駆け引きや論議が交わされることだろう。今後の各勢力の動向を注意深く見守りたいところだ。

ちなみに当サイトで今年1月から4月に行なった独自アンケートによれば(【証券税制優遇措置に関する投票調査発表、措置の肯定派が大多数】)、34.9%が恒久化、22.6%がさらなる軽減を求めている。延長もあわせると70.8%が証券税制優遇措置へは賛成派といえる。逆に「税率アップ」や「予定通り来年で廃止」は12.3%でしかない。再度同様のアンケートを実施したらどのような結果が出るのか、興味深い話かもしれない。


(最終更新:2013/08/19)

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