歴史専門家も驚愕・歴史の「もしも」を追及するシミュレーションゲームの話

2007年06月13日 19:35

Making Historyイメージ最近新生成った【WIRED VISION】にシミュレーションゲームに関する興味深いお話が掲載されていたので、当方(不破)自身の経験なども交えて紹介。リンク先の翻訳記事は前半のみで後半は後日掲載されるようだが、原文では全文が掲載されていた。要は「経済史の大学が戦略シミュレーションをプレイして驚愕し、自分の持論の再考を余儀なくされてしまうほどに感動した」というものだ。

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経済史の大学教授も大興奮の戦略シミュレーションゲーム

Making Historyイメージその教授とはハーバード大学のNiall Ferguson教授。元記事の説明によると、歴史の可能性、少々昔に流行った言い回しで表現すれば「Ifの世界」を想定することを得意している。たとえば「ミハイル・ゴルバチョフが存在しなければ、ソビエト連邦は現在でも存在している」というものだ。氏の著書を当方は読んでいないので詳細は不明だが、きわめて面白い話である。

歴史のバタフライ効果的、日本人に分かりやすく説明するのなら「風が吹けばおけ屋が儲かる」的な流れをいつも考えてきた同教授は、【Making History】という第二次世界大戦を模したゲームをプレイして愕然とさせられたという。自分の持論の一つ「ドイツがチェコ侵攻を行った1938年にイギリスがドイツに宣戦布告していれば、第二次大戦自身が避けられただろう」という説が完全に打ちのめされたからだ。そしてそのゲーム上の展開に教授自身も納得したという。

教授いわく

「(『Making History』のおかけで新たな発見があった。そして)私のシナリオが思っていたほど強固でないことがわかった。それに、これまでは頭の中で描いていた反事実が、画面で見られるようになったのだから、実に刺激的だ」


まるで初めて戦略級シミュレーションゲームをしてその面白さに興奮するゲームプレイヤー(当方含む)のようであり、好感が持てる。そして教授は「戦略級ゲームのたぐいは歴史の『可能性』を考察するのにうってつけの材料となる」ことに気がついたという。

興味深いのはその後だ。教授は自分の持論がゲーム上で打ち破られたあと、自分の13歳の息子(いわく「戦略ゲームの達人」)にプレイを任せてみたという。その息子はドイツを打ち破るため、最初にフランスと強固な貿易協定を結び、外交関係を強化。しかる後にドイツとの共闘を仕掛けた。フランスはドイツと戦い、そしてドイツは陥落、第二次大戦は発生せずにヨーロッパに平和が訪れた。教授の持論の改編版が、皮肉にも教授の息子によって実証されることになった。

教授はこれらの経験を元に、『Making History』の制作会社が2008年に発売予定の、現代戦における世界規模の対立構造を模した戦略シミュレーションの制作にタッチするとの話である。

戦略シミュレーションゲームの面白さ

詳細は後日掲載されるであろう後半部分の翻訳記事を参照してもらうことにして。

専門家の教授も夢中になった戦略級シミュレーションゲームの面白いところは、教授が指摘しているように「さまざまな可能性を見出してくれる」ところにある。逆にいえば、その可能性を体験させることこそが戦略級ゲームの面白さでもある。

歴史上の「可能性」を
自らの手で体験できるのが
戦略シミュレーションゲーム。

織田信長で日本を統一したり、坂本竜馬を明治維新以降も活躍させたり、真珠湾攻撃で第二次攻撃隊を発進させたりなど、歴史の可能性を追及することは、非常に興味深いことに他ならない。仮想歴史小説の類がいつの世でも容易にベストセラーになるのも「可能性」にロマンを感じるからだろう。また、その可能性の追求の過程における「思考ゲーム」そのものが楽しいのも人気の一因といえる。

戦略シミュレーションゲームでなら、煩雑さと予備知識を最小限に抑えつつ、それらの楽しさを体感できる。戦国時代の各大名家の配下武将の名前や能力を知らなくとも「織田信長のいる織田家」で戦国シミュレーションゲームはプレイ可能であるし、ゲームの過程でゲーム上のパラメータで彼らを知ればよいだけの話なのだから。

また、歴史ものに限らなくても、たとえば【あちらを立てればこちらが立たず……地球環境のバランス調整の難しさを知るゲームたち】で紹介したようなゲームをプレイすれば、難しいデータを事前に自分で集めなくとも、地球環境の保全がいかに面倒な問題を抱えているかを知ることができる。先の教授がタッチしているタイプのゲームなら、【中東情勢を再現したシミュレーションゲーム、アメリカの大学院生らが開発し会社も設立】内で紹介している『ピースメーカー』や『バランスオブパワー』あたりが近いといえるだろう。

戦略シミュレーションゲームの限界

バランスオブパワーイメージ教授も絶賛しているこの系統の戦略シミュレーションゲームだが、ひとつ注意しなければならないことがある。各ゲームを作ったのはあくまでもクリエイターでありゲームメーカーであって、実際の世界を創りえた創造主ではないこと。何を言いたいのかというと、各ゲームは製作者側の意向が多かれ少なかれ反映されていて、それが100%現実のものと一致するとは限らないということである。

元記事でも少々指摘されているが、現実社会をゲームに落とし込む際には数値化が必要になる。その数値化において、どうしても制作側の判断や偏見が交ることになる。たとえば足利家第十三代将軍・足利義輝は政治手腕に長けた人物であるとともに「剣豪将軍」と呼ばれるほどの剣術に優れた人物でもあった。これを反映して「武力は最高レベル」と数字化する戦国シミュレーションもあれば「大した戦果はないしむしろ政治力に優れている」として武力を並み程度にし、その分政治力の値を高めたものもある。

「神」たる創り手の
想定外の事はほぼ起きない。
それが戦略シミュレーションゲームの
作りえる「可能性」の世界。

そのゲームの武力や政治力がどのような値を示しているのかにもよるが、人物や事象、さまざまな物品への評価は人それぞれで、数字という絶対基数に置き換えられるときにはどうしても作り手の感情が混じってしまう。先の戦国時代の例なら、上杉謙信びいきなら謙信の武力はもちろん魅力も政治力も最高値に近い値にするだろうし、冷静に歴史的結果から判断してそれなりの数字をつけることもあるだろう。

ましてや現代、あるいは未来の事象については推定によるものが大きいに違いない。たとえば政治シミュレーションを作成しているとして、あなたは安倍総理の政治力・カリスマ性・行動力・決断力のパラメータをどう設定する? すでに退任した小泉前首相ならまだ判断しやすいかもしれないが、それでも評価は人によって分かれるはずだ。

いわば「作り手の偏見」で凝り固められた戦略シミュレーションをして、「未来を予測しうる万能の『可能性再現ソフト』」と見るのは危険である。

また、そのゲームにシステム自身が盛り込まれていなければさらにその問題性は高まる。たとえば先の『バランスオブパワー』では、ソ連自身の民主化までは再現されていないしアメリカ本土への「9.11.」のような事象もプログラム化されていない。

つまり

「過去の事象の『可能性』を戦略シミュレーションから検討するのならそれなりに材料を用意できるが、これから起きうるもっとも近しい『可能性』を検討するには不確定要素が多すぎる。たとえ再現できたとしても、それは無数の未来の『可能性』の一つにすぎない」


ということになる。これは、取り扱う規模が大きければ大きいほど「可能性」も増え、正しい「結論」を想定することは難しくなる。

戦略シミュレーション(ゲーム)で過去の可能性を語るのならともかく、未来の可能性を述べる際には、この「前提」を忘れてはならない。


……と難しいことをいろいろ書きたててはみたが、これらの問題が戦略シミュレーションゲームには常に付きまとっているのは紛れもない事実だ。そして過去の事象に関するゲームについては、現実度を高めれば高めるほど「可能性」の追求度が低くなり、シミュレーションとしてはすぐれていても「ゲーム」としてはつまらなくなることが多いのも事実(例えば太平洋戦争を忠実に再現したシミュレーションゲームなら、現実度を高めれば日本軍がアメリカ本土に上陸してワシントンに日章旗を掲げることなどバカバカしいほど不可能であることが分かる)。

とはいえ、先の教授が興奮したように、歴史の「可能性」を考察し、思考ゲームに走り、いろいろと物思いにふけるのが楽しいこともまた事実。未来についてなら、目の前で起きた「可能性」のシミュレーションを元に、いろいろな防護策を検討したり対応策を練ることもできる(これは啓蒙系シミュレーションの存在意義でもある)。

最近他のジャンルと比べてセールスに劣るということもあり、日本ではこのジャンルのゲームがほとんど見受けられない。ようやく「シリアスゲーム」という視点で注目されはじめてはいるが、かつての勢いほどではない。

願わくば日本でも今教授のように「権威ある人たち」にもう少し、このジャンルのゲームに注目してもらえれば、もう少し活躍の場も増えるだろうに……と思う今日このごろである。


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(最終更新:2013/08/20)

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