ジュースの値上げ、非遺伝子組み換え食品の調達難~バイオエタノールの功罪

2007年04月26日 19:35

とうもろこしイメージ少々古い話になるが、飲料販売各社は5月から紙パック入りの100%果汁ジュースの値段を5月から10%程度値上げすることを決定した(【gooニュース】)。原材料を提供しているアメリカ・フロリダ地域のオレンジ産地がハリケーンの被害を受け、濃縮果汁が世界的に供給不足におちいり、原材料費が高騰しているためだ。しかし値上げはハリケーン被害の影響だけでなく、バイオエタノール産業の活性化にも原因があるという。

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ジュースの値上げは原材料の値上げ。では、なぜ?

値上げ価格の詳細は元記事にもあるが、値上げ幅は10%から最大20%近く。しかも今回の値上げが最後ではなく、原材料高騰は今後も続くことが予想され、結果としてジュースの価格もさらに値上げされることは容易に想像がつくという。

アメリカでは現在国を挙げてバイオエタノールの生産に本腰を入れている。もちろん燃料の国内消費分をまかなうためだが、ノウハウが海外でも活かせるため、石油メジャーまで真剣になって取り組みはじめている。海外でもヨーロッパ全体で、生産調整や備蓄がしにくい食料品について、余剰生産分をバイオエタノールにするための工場建設が盛ん。そしてバイオエタノールを国家事業にまで押し上げたブラジルに続けとばかり、中堅諸国でも検討が開始されている。

これらのようにバイオエタノールに人気が集まっているのは、慢性的な燃料不足に加え、「成長時に二酸化炭素を吸収する植物から作られたのだから、消費時の二酸化炭素排出量はチャラになる」という考え方に基づく「バイオエタノールは地球環境に優しい」という自然保護の観点にも合致するため。当然さとうきびやとうもろこし、とりわけとうもろこしの需要は世界規模で高まる。

さらにこれらの農産物については、一大生産国オーストラリアで続く大規模な干ばつによる生産量減、中国の人口爆発と生活水準の向上に伴う食糧消費量の急増が、品不足に拍車をかける。

バイオエタノールブームが直接の原因だが、他にもさまざまな要因が重なり、とうもろこしなどの穀物の価格は急騰している。そしてそれが、色々な方面に影響を及ぼし始めている。
バイオエタノールブームが直接の原因だが、他にもさまざまな要因が重なり、とうもろこしなどの穀物の価格は急騰している。そしてそれが、色々な方面に影響を及ぼし始めている。

結果としてとうもろこしなどの価格はここ数年で数倍にまで急騰(【「燃料>食品」なとうもろこし事情】)。価格が急騰すれば当然同じ生産量でも見入りが増えるから作付け農家も儲けは増える。これまで他の作物を作っていた農家も、とうもろこしの「収益効率のよさ」にほれ込んで、相次いで田畑を潰してとうもろこし畑にしているという話を聞く。彼らはいわく「農家とてビジネスマンです」とのこと。

バイオエタノールで健康を気にしている人たちが頭を抱える

当然割を食うのは潰された作物を利用していた人たち。【エタノールの需要急増でとうもろこしなど穀物のニーズ高まり価格高騰へ】では直接とうもろこしを原材料にしていた食品の価格上昇が懸念されていたが、他の食物にまで「バイオエタノール症候群」は波及しはじめている。

先日放送されたNHKの特集では、【「遺伝子組み換え食品」をチェックするためのガイドブック、「トゥルーフード・ガイド」とは】にもあるような「非遺伝子組換作物」にこだわっていた人たちが割りを食っているという話が紹介されていた。

遺伝子組換食物の方が生産効率そのものは高い。バイオエタノールは口にするわけではないから、遺伝子組換であろうが無かろうが関係ない。バイオエタノール目当てでとうもろこしを生産する農家は、こぞって遺伝子組換のものを利用する。その結果、これまで輸入していた「非遺伝子組換作物」の価格が数割も値上げされ、それを原材料にしていた食品メーカーの人が頭を抱えている状況があちこちで見受けられるというのだ。

「バイオエタノールによる思わぬ影響」が色々な部分で見え始めてきたことを実感させられる話ではあった。


今日27日からは関東地域の一部で石油連盟によるバイオガソリンの販売が開始される。しかしこれは日本国内で生産したバイオエタノールを使っているのではなく、フランスからわざわざタンカーで運んできたシロモノ。環境の整備や啓蒙活動のためにはプラスとなるが、「地球に優しい」「資源調達リスクの分散」の観点からはまったく無意味な話。

日本国内では、早期に国内のバイオエタノールの形式を一本化すると共に、とうもろこしなどの穀物以外で日本でも収穫が可能な原材料となりうる有機化合物を見出し、生産体制を整える必要があるだろう。

また、あまりにもとうもろこしに偏っている、そして食べ物と燃料が「とうもろこし」という名前の綱を使った綱引きをしている、ある種不健全な状況を、もう少しまともな方向に向かわせる必要もあると思われる。もし万が一、とうもろこし全体が不作におちいるような状況(病原菌でも害虫でも、その可能性がないとはいえない)が発生したら。リスク分散も地球環境も何もかも、すべてが吹き飛んでしまうかもしれない。

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