食玩ブームを支え、恩恵を受けた業界……鉄道模型Nゲージ

2006年11月05日 18:30

「鉄道コレクション」の「高松琴平電気鉄道 73」イメージ古くは根付にその真髄を見ることができ、これまでも静かな流行りすたりはあったものの、その造型の素晴らしさから【フルタ】【チョコエッグ】でブームに火がついた「食玩」。元々この言葉は、お菓子のオマケとして用意された玩具のことを指している。しかし最近ではガムやキャンディ、チョコなどの駄菓子がついていない純粋な「ミニ玩具」も同程度のパッケージに納められていれば「食玩」と共に取り扱われコンビニなどに置かれるようになり、立派な市民権を得た形。この「食玩」界隈を支え、同時に恩恵を受けたホビー業界がある。それがNゲージスケールの鉄道模型業界だ。

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Nゲージとは「線路幅9ミリの鉄道模型」のことを指す。9が英語で「Nine」というところからつけられた名前。縮尺としては1/144~1/160が一般的。建物(ストラクチャー)や山川などの自然(シーナリー)などで構成されるミニスケールのジオラマ(「レイアウト」と呼ぶ)を創り、その上で電車を走らせるというものだ。また、それぞれの構成物、電車や建物などの収集や製作そのものも楽しみ方の一つでもある。

ジオラマ作りそのものははるか太古から趣味として存在したが、鉄道模型独自の歴史は当然「鉄道」が登場して以降になる。歴史はそれほど長くはないが、それでも大人の趣味として国内外を問わず根強い人気があるのも事実。

趣味である以上どんなハードルも乗り越えて、というのがファンの考えに違いはない。だが、鉄道模型のファン共通の頭の悩ませどころのひとつに「値段の高さ」があるのも否定はできまい。どちらかというとマイナーな趣味であるがため購入層も少なく、大規模な量産が難しい。しかも造型は精密さを求められるため、手間がかかる。必然的に単体の価格は跳ね上がる。同じ鉄道のおもちゃとしてよく知られている「プラレール」などが安価で出回っているのは、造型のシンプルさや材料費もあるが、何より量産できるからに他ならない。

さて、「食玩」がブームとなり、今や(「食玩」以外の「ミニ玩具」とあわせて)一般化した背景には、「手ごろな価格」「目を見張るような精密なミニスケールの造型物」というポイントがある。これはひとえに「チョコエッグ」の食玩部分を担当”した”【海洋堂】の技がなせるもの。これをきっかけに多くのメーカーが食玩やそれに類する「ミニ玩具」に参入し、多くの消費者に受け入れられた。

そこに目をつけたのが経験豊富な鉄道模型メーカー。中でも【トミーテック】が積極的に動いた。元々ミニスケールの造形物のノウハウは鉄道模型の商品開発で身に着けている。縮尺的にもNゲージスケールの1/150をテーマにすれば、建物や車両などが食玩ルートで流せる大きさとして提供できる。

つまり、鉄道模型のノウハウを活かしミニスケールの玩具をこの食玩ブームにのせて商品化すれば

・多くの人に知ってもらえる
・コンビニなどの大衆向け流通ルートにも商品を乗せて提供できる
・製品の質の高さはこれまでの鉄道模型のノウハウを活かせば十分すぎるくらい
・量産できるので単価を下げられ、他の食玩と同様の価格帯に押さえられる
・何より「食玩」として販売した商品はNゲージと同一スケールだから鉄道模型用としても利用してもらえる
・食玩とNゲージ鉄道模型を関連付けて情報を流して商品を出せば、鉄道模型の世界に入る人も増えるかもしれない


というメリットが得られるわけだ。

街並みコレクション 第1弾イメージ
街並みコレクションから「薬局」
ケロヨン付という懲りよう
これが税込み378円

実際、トミーテックから発売された【ニューホビー】コーナーにおけるコレクションシリーズでは、次々と目を見張るできばえのものが発売され、品切れを多数起こしていった。鉄道模型云々を抜きにして、単に「よく出来た模型」としての評価が高いのが人気の原因だろう。

トミーテックではこの「Nゲージスケール」の鉄道模型にも流用できる食玩(ミニ玩具)を「ジオコレ」と称し、シリーズ化している。いわく「バス・トラック・車・電車・機関車・建物・樹木フィギュアなどを忠実の1/150(Nゲージサイズ)で忠実に再現したシリーズの総称ブランドです。コレクション性に加え、手軽にジオラマ造りが楽しめるのが特徴です」と説明されている。

「ジオラマコレクション」には現在次のシリーズがラインナップとして存在する(1/80スケールのものは省略)

・鉄道コレクション ・THEバスコレクション ・THEトラックコレクション 
・THEトレーラーコレクション ・THEカーコレクション
・街並みコレクション ・建物コレクション ・情景コレクション


これだけシリーズ化されていることからも分かるように、メーカー側の思惑はずばり的中。「鉄道模型」というコアな趣味層向けに少数生産する商品よりも大量に作れるので、生産単価も抑えられ、安く提供できた(逆に「安価で提供できないと食玩として流通不可能」ということでもあるのだが)。しかも食玩として発売されたものの、鉄道模型としても使えるので、鉄道模型ファンも「安くて手軽に車両や建物が手に入る」と大喜び。

メーカーも単純に商品が売れるとしてだけでなく、自社の別ブランド(「食玩」と「鉄道模型」)同士の相乗効果が得られ、新しい事業ラインを創設することができ、既存事業の底支えと奥行きを広げられるようになった。一石二鳥どころか三鳥四鳥。

鉄道コレクションをNゲージ鉄道模型で走らせることができる走行用パーツイメージ
鉄道コレクションを
Nゲージ上で走らせることが
できる走行用パーツも
トミーテックから別売りで
発売されている

「食玩(ミニ玩具)」で発売しても鉄道模型ファンへのサポートも忘れていない。例えば「鉄道コレクション」は飾りとしてはそのままで問題ないが、鉄道模型として走らせるのには足回り部分に無理がある。そのため、走行用の金属パーツや動力パーツが別売りで用意してあり、差し替えを行えば自分のレイアウトで走らせることができるようになる。もちろん建物はそのまま利用できるし、灯りを内部に取り入れてよりリアルさを出せる。

簡単にまとめると「造型技術はあるが需要が少ないため高価格」という問題を抱えていた鉄道模型メーカーが「食玩ブーム」の到来を迎える。そして自社商品との共通点を元に「食玩と鉄道模型で共用できる商品を開発する」という発想の転換を行い大成功を収めたと説明できるだろう。

Bトレインイメージ
同様のプロセスを経ながら
少々変わった経緯を持つものに
「Bトレイン」がある。
これについては機会が
あれば日を改めて

注目すべきところは(少なくともトミーテックは)粗製濫造をしていないため、メーカーも食玩好きも鉄道模型ファンも皆、この状況を喜んでいることだ。典型的なビジネスの成功スタイル「Win-Win」どころか「Win-Win-Win」の状態が出来上がっている。これを維持しようとする限り、「ジオラマコレクション」は今後もさまざまな企画品が発売され、食玩ファンも鉄道模型ファンも喜ぶことだろう。

……まぁ中には【ジオラマキャラクターズ】のように、「それはあまりにも無理があるだろう」というものも無いわけではないのだが(笑)。


[2007/08/21追加]
「チョコレート生地で制作した阪急電鉄の電車の鉄道模型をデビュー・実現化させることができれば私としてはこの上ない至上の感動です!!!
※阪急電鉄とは---大阪(関西)の大手私鉄であり、電車の車体の色はマルーンカラーといわれチョコレートの色と類似している」

というご意見をいただきました。造型的に面白そうですが「食玩」の価格帯ではちょっと難しいかもしれませんね。それに、そんなチョコレート、もったいなくて食べられません(笑)

■関連記事:
【手のひらサイズに農家を再現、「建物コレクション」第一弾「農家」シリーズ発売】
【10月14日は「鉄道の日」】


(最終更新:2013/08/25)

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