【更新】スクエニの営業利益予想下方修正と『ドラクエIX』発売延期と情報開示と

2009年02月13日 08:00

ドラゴンクエストIX 星空の守り人イメージ【発表リリース、PDF】【ドラクエIX発売延期告知リリース】)。

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ゲームセンターの不調と『ドラクエIX』の延期が原因

同日開催された第3四半期決算説明会における[解説資料(PDF)]によると各事業セクターにおいて、「オンラインゲーム」「モバイル・コンテンツ」「出版」「その他(ドラクエを題材にした業務用ハードの貸し出しなど)」は堅調に推移したものの、「ゲーム」「AM(アミューズメント)など」が大幅に下ぶれし、これが全体の足を引っ張ることになり、下方修正を余儀なくされた。

事業セグメント別営業利益予算差異
事業セグメント別営業利益予算差異

右側の計画を下方修正したセクターが気になるが、『ドラクエIX』発売延期に伴う「ゲーム」部門の影響が-41億円なのに対し、AM事業が-71億円とそれ以上のマイナス値を示しているのが分かる。主にこの事業を取り扱っている子会社のタイトー自身の売上は「他社と比べると」前年同月比では比較的堅調に推移しているものの、業界全体の不調さをカバーすることは出来ず、大きく足を引っ張る形となっている。

ゲーム事業でも
2009年1月~3月では
損失を積み増す予想を
立てている。

さらにグラフを良く見ると分かるのだが、左側の堅調セクターが「9か月間実績」>「本日修正通期計画」となり、「2009年1月から3月までに、さらに利益を積み増す」形なのに対し、右側の軟調セクターはいずれも「9か月間実績」<「本日修正通期計画」で、「2009年1月から3月までに、さらに損失が増加する」ことを表している。AM事業が損失増加というのは仕方ない部分もあるのかもしれないが(赤字体質自身は大きな問題)、主力である「ゲーム事業」で1月から3月までに損失を積み増す状態になったことは大きな問題である(概算で-14億円。これは奇しくも、これまでの9か月間で堅調セクター4事業が前期予想より増加させた分の合計に一致する)。

「ゲーム事業」の「損失積み増し」は通常タイトルの採算性の問題というよりは、『ドラクエIX』の発売延期に伴い発生する、各種費用によるところが大きいものと思われる(同日、『トゥームレイダース』シリーズで有名なEidosの買収も発表しているが、これには発行株式の価値8430万ポンド=約110億円かかるので計算が合わないし、そもそも他社の買収は通事本業業務ではないので営業損益とは別物)。

情報統制(コンプライアンス)のあやうさ

今回の一連の発表で気になったのは、スクウェア・エニックスの情報統制(コンプライアンス)に関する問題。【大手情報サイトGIGAZINE】などでも伝えているように、すでに12日の昼過ぎの段階で『ドラクエIX』の発売延期が「正式に、公式ページ」で配信された。スクウェア・エニックスにとっては大御所的なタイトルであり、その延期は事業に多大な影響を与え、株価にも反応しうるレベルの情報。にも関わらず、この時点で東証の開示情報には何ら告知は無かった。

その後しばらくしてこの情報は一端公式サイト上から削除され、同日16時に下方修正の発表が行われる。それと前後して公式サイトに「先ほどとは別のURLで」あらためて発売延期が伝えられる。証券会社経由の東証適時開示情報でもこのリリースは流されたが、なぜか[東証の公式サイトにおける適時開示情報閲覧サービス」]サイト自身では、いまだに発売延期に関する情報は掲載されていない。第3四半期決算短信・業績予想修正のお知らせでも「ゲーム事業において3月に発売を予定していた大型タイトルが発売延期になることに伴う」とだけあり、具体的な話は皆無。

これだけを見ても、自社商品に対する情報開示の統括について「?」マークをつけざるを得ない。

さらに今回、営業利益予想を120億円に下方修正したわけだが、「1か月前の」2009年1月15日、スクウェア・エニックスの和田洋一社長は【ロイターのインタビュー】に対し、次のように答えている。

2008年の年末商戦は概して堅調だったとの認識を示した。「08年度の営業利益予想210億円はおおむね実現できそう」


つまり、この言葉を信じるならば、1か月足らずの間に、210億円から120億円への下方修正を余儀なくされたということになる。

【第3四半期決算における記者会見(IT media)】によれば「デバッグの段階で想定外のボリュームのものが発生し、このままでは商品として出せるレベルのものではないと判断した」とある。デバッグ云々の話なら、この一か月の間に「ドラクエ、3月中に出せるね♪ だからゲーム事業部門は安泰だね」から「バグが取りきれない、発売延期しかない、今期には売上計上できないし、新たな費用も発生しちゃう」状態になることは十分にありえる。しかし他方で、AM(アミューズメント)の大幅な下ぶれ(-71億円)は説明がつきにくい。この一か月足らずでそこまで下ぶれする要因はない(かねてから、なら話は別)。

と、なると、上記のロイターに対する和田社長のインタビューについては

1.1月のインタビューの時点ですでに「210億円の達成は困難どころか(AM事業の下ぶれなどで無理」と知っていたにも関わらず(※ただしこの時点では『ドラクエ』は発売可能という目算はあったはず)、「おおむね実現できそう」とリップサービスをした。
2.1月のインタビューの時点ではAM事業部門から「うちの部門の業績が悪化しており、当初予想の達成は困難」との報告を受けていなかった。だから210億円の達成は「おおむね実現できそう」と胸を張って答えた。


のいずれかが想定できる。「1.」の場合は「おおむね」だからウソをついてはいないが、この下ぶれ具合を見る限りは投資家からツッコミが入りそうなレベルではあるし、「2.」ならば社内の事業部間の、あるいは経営陣・上層部への経営情報伝達に何らかの問題があってしかるべきと考えざるを得ない。

仮に「堅調4事業」の上方修正分と、AM事業の下方修正分をインタビューの時点で知っていたとしても、足し引きすると-57億円。当初予想の210億円からは153億円となり、今回の正式発表である120億円ほどではないものの、大きく下回っていることには他ならない。


ゲーム業界は比較的新しいセクターであるため、情報の統括に関してはゆるめのところがあるといわれている。業績に関わりうる情報が担当者や専門誌の関係者から漏えいしたり、インサイダーと思えるような株価の動きをすることがしばしば見受けられる。業界が成熟するにつれて、このあたりの事情も改善されていくのだろうが、「時の流れに身を任せ」るしかないとあきらめるのも問題。

上場企業にはそれに見合うだけの情報統制が求められる。さもなくば、一部の人だけが不当な利益を得るような状況を形成しかねない。今回の一連の「どたばた」「など」は、それをつくづく痛感させられる出来事だったといえよう。

※当方(不破)はこれまでにスクウェア・エニックスの株式を保有した経験はありませんし、現時点でも保有していません


(最終更新:2013/09/04)

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