「金融危機救済策」がいかに「歴史的巨額」かをグラフ化してみる

2008年12月02日 06:30

巨額イメージ先日市場系のチャットで気になるページを紹介してもらった。二つの円から構成されるシンプルなそのグラフは、アメリカがこれまでの歴史大事業といえる数々の事業に費やした額と、現在なお進行中の金融危機への対応策に使った額を表していた。その額の大きさゆえに「単なる冗談だろ」というのが第一印象だったが、それが確かな出所のものと分かると二度驚愕せざるを得なかった。今記事ではそのグラフを紹介すると共に別形式に作り直し、さらに解説を加えることにする。

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具体的なグラフはアメリカでマーケティングリサーチを行う会社であるボルテージ・クリエイティブ社が同社のブログ内で11月25日に提示したもの。【具体的なページはこちらになる】。題名は「末恐ろしい金融危機救済策に関する出費のグラフ(Scary Bailout Money Info Graphic)」。

掲載されていた二つの円グラフ
掲載されていた二つの円グラフ

グラフの体裁そのものの詳細は元記事をたどってほしいが、要は月面着陸計画やマーシャルプランなど、アメリカの歴史において多額の費用を要した大事業の具体的額を積み重ね(これが右の円グラフ)、それよりも今回の金融危機救済策「単独に」費やされた額が「現時点で」大きいという事実を分かりやすくグラフ化したもの。

なお注意書きをいくつかしておくと、「4兆6000億ドル」はボルテージ・クリエイティブ社の計算によるもの。どこまでを「今件の金融危機救済策に含めるか」の解釈で計算方法が違ってくるからだ。また、過去の事象における費用は、インフレ率を考慮したし上で現在のドルベースに換算してある。

額の比較が多少しにくいこともあるので、棒グラフに上記グラフを引きなおし、さらに各項目の簡単な解説を加えることにする。

「金融危機救済策」の2008年11月時点の総額と、アメリカ史上における数々の大型事業の費用(ボルテージ社試算データが元)
「金融危機救済策」の2008年11月時点の総額と、アメリカ史上における数々の大型事業の費用(ボルテージ社試算データが元)

・マーシャルプラン……1150億ドル
 第二次大戦後に疲弊したヨーロッパを救うため、アメリカが行った復興援助計画。提案者である国務長官の名が付けられた。
・ルイジアナ買収……2170億ドル
 1803年にアメリカがフランスから、当時フランス領だったルイジアナ周辺を買い取ったこと。当時の価格で1500万ドル(借入金の帳消し含む)。
・月面着陸計画……2370億ドル
 俗にいう「アポロ計画」。
・S&L危機……2560億ドル
 1980年~1990年におきた、住宅ローン専業金融機関である貯蓄貸付組合の破たん騒動。S&Lとは「Savings and Loan association」の略。当時のレーガン大統領によって、規制緩和やローンのシステム変更、住宅ローンの証券化などで事態は収拾の方向に(ただしこれが現在の「サブプライムローン」の遠因であるとする説もある)。
・朝鮮戦争……4540億ドル
 朝鮮半島で1950年から1953年に行われた南北間の戦争。当時の東西冷戦構造を反映し、西側・東側諸国の代理戦争とも言われた。
・ニューディール政策……5000億ドル
 1920年代の大恐慌から続く不況を打開するため、当時のフランクリン・ルーズベルト大統領が打ち出した国策による経済活性化政策。
・イラク戦争……5970億ドル
 20世紀後半から現在にいたる、いわゆる対イラク戦。
・ベトナム戦争……6980億ドル
 1959年から1975年にベトナムで行われた南北ベトナム間の戦争。朝鮮戦争同様、冷戦構造下における代理戦争とも呼ばれた。
・NASA経費(全期)……8510億ドル
 アメリカ航空宇宙局における、現在までの全予算。

「金融危機救済策」の2008年11月時点の総額……4兆6160億ドル


これらのリストを見ると、今回の「金融危機救済策」で費やされている資金がいかに巨大であるかが分かる。アメリカの発足から現在にいたるまでの、歴史的な「多額の費用を投じる必要があった国家的事業」の総額を全部足しても、まだ足りないのだから。


今件に関する評価は分かれるだろう。「これだけの巨額を投じねばならないほど、今回の金融危機は非常に大変なものなのだ」というストレートな感想や、「そこまでして救わねばならないのか」という意見、「何故これほどまでの歴史的『大失態』をしでかしておいて、その当本人らは一人として『かかった費用、損失に値するだけの』ペナルティを受けていないのか」など多数に及ぶ。特に最後の意見については、いわば「アメリカがこれまで脈々とこれまでの歴史で蓄積してきた財をすべて吹っ飛ばしたに等しい」わけで、その怒りも並大抵のものではないようだ。

責任論などはまた別の機会に譲るとしても、額の大きさには唖然とせざるを得ない。このような巨額の話が持ち上がった時に「仮にこのお金が別のことに使われたら……」という試算が行われる。例えばNASAの予算なら5倍強。スペースシャトルはおろか宇宙ステーション、スペースコロニー、軌道エレベーター計画すら立案・実施のプロセスを踏めたかもしれない。ルイジアナ買収なら21回も出来ることになる。ニミッツ級の航空母艦なら半世紀就航させた時のトータルコストが300億ドルといわれているので、1グロス単位で就航させることができる(余剰金額で護衛艦もフルセット整うだろう)。

未来の収穫を先取りしたイメージこれほどの損失を生み出す原因の一つはレバレッジによる取引があるとされている。概念的には「将来の収穫を先取りして刈り取る」というものだ。主にアメリカの証券銀行らの金融工学行使者による「収穫の先取り」は、いったい何年先の分まで行われたのだろうか。

余談だが、ABCニュースは11月25日、「金融危機救済策」が最終的には存在的なものもあわせると(今回の試算額4兆6160億ドルではなく)7兆7600億ドル以上に達すると報じている(【参考:$7.7 Trillion Increases Probability of Inflation: Skills Required for Enterprise Risk Management】)。この中には例えば先日シティグループに対して行われた「損失が一定以上発生したら政府が肩代わりして保証する」という、「発生するかもしれない費用」も含まれている。

これらの費用をどこから捻出するのか。一部は再び「証券化」という手口を使う傾向が見られるが、多くは国債の発行によるものとなるだろう。ちなみに経済の基本として、通貨あるいはその同等品の流通量を増加させると、その分(実体経済分がかさ上げされない限り)通貨単位の相対価値は下がってしまう。いわゆる「インフレーション」というものだ。国などが借金の負担を減らすときにはよく行われる政策の一つだが、これだけ巨大な額を増やすとなるとどうなるのか。今はまだ想像もつかない。

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