直前で決裂したビッグ3救済案の経緯を時系列化する

2008年12月15日 06:30

自動車イメージ先に【アメリカの自動車産業に従事している人の数や年収をグラフ化してみる】でアメリカの自動車産業の従事者数や年収について記事化したが、その際に最大手3社、いわゆる「ビッグ3」(GM、クライスラー、フォード)の全米自動車労組(UAW)との交渉決裂が、救済案の廃案を導いたことについて触れた。【この交渉経緯に関する記事が見つかった】ので、それを元に解説してみることにする。タイトルは「Workers wages the straw that broke the automakers' backs」。直訳すると「自動車メーカーのこれまでの業績を台無しにしてしまった、労働者の賃金交渉」とでもなるのだろうか。

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ご記憶の方も多いだろうが、直前までこの交渉は「まとまるもの」として話が伝えられていた。実際、交渉はある程度の難関もあったがそれを何とかクリアし、あとは事務的・形式的手続きを残すばかり……だと思われていた。が、突然「ちゃぶ台返し」的な交渉破たんが伝えられ、日本時間で金曜12日の株価急落の引き金にもなっている。

元記事を使い、時系列順に並べてみることにする。

・12月11日19時前後(東部標準時)、議会の上院共和党・下院民主党・アメリカ自動車の経営者・さらにはUAWの間で救済案成立に向けて、合意はほぼ出来ていた。
・経営陣が退席した後、共和党とUAW間の間で賃金問題についての論争が発生。いわく「トヨタやホンダのようなUAWに属さない外国メーカーの組立工場の水準に、UAW側が賃金を合わせる」というもの。
・UAWには賃金を合わせる、つまり現状から下げる・カットする「気持ち」はあった。しかしそれは現行の契約が(ビッグ3と)切れる2011年以降にして欲しいという態度を崩さなかった。
・共和党側は「(事態が事態なのだから)すぐにでも賃金カット=外国メーカーの水準に合わせるべき」との姿勢を崩さず。
・UAWは共和党の主張に応じず。
・共和党曰く「ただちに賃金カットに応じないなら、(今法案を通して)救済することは無い」。
・結局11日の深夜に交渉は決裂。


という形になる。結局先の記事でもたとえ話として挙げた「給料カットに抵抗したら給料ゼロになったでござるの巻」がそのまんまになりかねない事態であることが確認できる。

現在では例の「金融危機救済法」ことTARP(不良資産救済プログラム)の7000億ドルからビッグ3の救済に融通してもらえるよう、各方面が動き出している。これも一つの手ではあるが、仮にビッグ3への救済に使われたとなれば「ならばうちも」「ビッグ3が助けてもらえるのならうちにも是非」とばかりに、多種多様な業種の企業が名乗りを上げてくる可能性は高い。そして7000億ドルは有限。どちらの選択肢を選んでも、先のことを考えると頭が痛くなる。

さてせっかくだからもう一つ。同じく先の記事で「別データによればビッグ3の従業員(UAW所属)の時給は29ドル。これに各種手当てなどを加えると労務コストは76ドルとなり」という記述をした。これはもっと詳しい表記が[このリンク先のページ(Cnn.co.jpなど)は掲載が終了しています]で記載されている。こちらを紹介すると、

現在GMの熟練工の賃金は時給ベースで28.12ドル。しかし年金と退職後の健康管理プログラムへの費用を含めると、GMが支払う人件費は78.21ドル/時にまで跳ね上がる。実に3倍程度。
(The current veteran UAW member at GM today has an average base wage of $28.12 an hour, but the cost of benefits, including pension and future retiree health care costs, nearly triples the cost to GM to $78.21, according to the Center for Automotive Research.)

それと比較して、新規雇用者の場合は賃金を時給計算すると14~16.23ドルで済む。しかも(新制度が導入されているので)今の新人は諸経費をあわせても、GMの人件費は25.65ドル/時で済む計算。
(By comparison, new hires will be paid between $14 and $16.23 an hour. And even as they start to accumulate raises tied to seniority, the far less lucrative benefit package will limit GM's cost for those employees to $25.65 an hour.)


とのこと。いかに旧制度における熟練工や退職者へのGMの負担が大きいかを物語っている。退職者にも健康管理のサポートをする必要があるので、時間が経てば経つほど現社員数が変わらなくても負担が重くなる(退職者も寿命などで減ることもあるが)という仕組みだ。アメリカという国自身に公的機関による社会保障制度が無いも同然なので、企業がカバーしなければならない、という理由はあるのだが……。


(最終更新:2013/08/01)

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