【更新】最近東証で相次ぐ「面白開示」を集めてみる

2008年11月16日 12:00

株式イメージ市場が混乱してくると、東京証券取引所などで公開される「適時開示情報」においてもその様相が明らかに反映されるようになる。特にこの一週間は、開示情報そのものや開示情報を通して見られる企業の動向において、非常に興味深い開示内容を示しているものが多数見受けられるようになった。今回はそれらのうちいくつかをピックアップして紹介することにする。

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すべての上場企業は業績予想の修正をはじめ、株価に影響を与えうる発表については逐次【東証の適時開示情報閲覧サービス】などでその内容を公示する義務がある。その様式は一定の共通のフォーマットがあるものの、細かい部分で企業毎の差異・個性を見出すことができる。すべての企業が同じツールを使い、同じテンプレートで作成しているわけではないからだ。

印刷できないファイルを登録

11月13日に【インボイス(9448)】から発表されたIRは、ある意味前代未聞のものだった。[「業績予想の修正および配当予想の修正に関するお知らせ」および「特別損失および繰延税金資産の計上に関するお知らせ」の再登録について(PDF]に書かれていたのは、

昨日17時15分に「平成21年3月期第2四半期累計期間業績予想との差異および通期業績予想の修正ならびに配当予想の修正に関するお知らせ」および「特別損失および繰延税金資産の計上に関するお知らせ」について、適時開示情報閲覧サービスに印刷のできないファイルを登録してしまいましたので、このたび印刷可能なファイルを再登録いたします。


というもの。PDFを作成するツールでは各種セキュリティの変更が出来、その中にファイル内容の変更や記録の是非以外に、「該当ファイルを印刷可能とするか否か」という選択肢がある。そのチェックを間違って入れてしまったのだろう。

とはいえ通常は、印刷できないようにするPDFファイルを作るような状況は(個人はともかく企業では)あまり考えられない。直前の設定が残っていたのだと思われるが、東証に提示するファイルを作成する端末で何をやっていたのだろうか。

行方不明な会計責任者

【京樽(8187)】の子会社である新杵が不適切な会計処理を行っていたことが11月12日に発表された([発表リリース、PDF])。売掛金残高が不自然に増加していることを受けて調査したところ、不適切な会計処理を伴う売上代金の流出が判明。要は実際に購入していない商品を購入したと書類上偽装し、その「商品」の対価を誰かがかすめとったというもの。京樽側では損失額を9000万円ほどと見積もっている。

問題なのはこの不適切な会計処理について詳しい事情を知っていると思われる新杵の会計責任者。説明にいわく、

現時点において不適切な会計処理を伴う売上代金の流出が判明しております。引き続き調査を進めておりますが、本件について詳しい事情を知っていると思われる㈱新杵の会計責任者が現在所在不明であり、不適切な会計処理の全容解明には至っておりません。


企業に不祥事があった場合に「担当者に連絡がつかない」という言い訳がされることはよくあるが、今件では本当に「連絡がつかない」というより行方不明になっているようだ。文言通り「詳しい事情」を一番良く知っている可能性も高いのだが……。

最近このような「不正会計処理が発覚し、担当の会計責任者が行方不明になる」というパターンが上場企業、あるいはその関連会社ですら増えているような気がしてならない。そこまで財務事情が厳しいのか、会計を預かるもののモラルが落ちているのか。

30分の時間差攻撃で投資家のヒットポイントはもうゼロよ

続いて11月13日に発表された【三越伊勢丹(3099)】の一連のIR。まずは12時30分、市場の後場が開場した直後に発表されたのは[業績予想の修正等に関するお知らせ(PDF)]というもの。内容にいわく、

・「個別」通期業績予想の上方修正
売上+18.2%、営業利益+25.0%、経常利益+50.0%、当期純利益+33.0%


というものだった。不景気の波を直接受けているデパートにして、相当がんばったように見える(営業外費用が見込みより減少したことなどが要因)。投資家からポジティブな目を向けられるのは当然といえる。

ところがそのわずか30分後の13時00分。今度は[平成21年3月期第2四半期決算短信(PDF)]が発表される。そこでは中見出しなどで「業績予想の修正云々」の話はなく、こっそりと

・「連結」通期業績予想……修正あり
売上-3.9%、営業利益-26.5%、経常利益-14.9%、当期純利益-18.2%


という、先の「個別」のポジティブイメージとはまったく正反対の数字が描かれている。しかも上記パーセンテージはこちらで計算したもの(直前連結通期業績予想は第1四半期決算短信から抽出、その後11月13日の個別業績予想修正にいたるまで、業績予想修正の報は無し)で、リリース上には数字しか書かれておらず、「連結業績予想数値の当四半期における修正の有無 」とあるだけ。このIRだけを見たら、先の「個別」のイメージもあり「ああ、連結でも上方なのかな」と勘違いしてしまうことだろう。

法令上、あるいは規約上の問題はないのだろうが、紛らわしいことこの上ない。「そんなのだったら、最初から全部12時半か13時に出せば良いのに。誤解してしまうじゃないか」というのが普通の投資家の意見だろう。情報開示という観点において、企業側がどのような考えを持っているのかがうかがい知れた事例といえよう。

「余白はメモにお使い下さい」

最後にちょっと和み系のものを。11月12日に発表された【ファミリー(8298)】の[業績予想の修正に関するお知らせ(PDF)]。内容そのものは下方修正で、企業にも投資家にもあまり気持ちの良い話ではない。目を引いたのはその出力内容。

「ファミリー」のIR。右側に大きな余白が
「ファミリー」のIR。右側に大きな余白が

状況が分かりやすいように、PDFブラウザの部分まで含めて画像を抽出した。書かれている内容そのものに問題はまったくないのだが、PDFファイルに出力する際に右側のマージンを多く取りすぎ、相当な余白が右側に出来てしまっている。「印刷できないファイルを登録」と同じようにファイル作成作業を行う端末での設定ミスのようだが、「一度は出力ファイルを確認してくれ」とツッコミたくもなる。しかしこれも、会計責任者がいなくなったり、30分差で誤解しやすい決算予想を出すところと比べたら、むしろ「ほほえましい」類のものといえよう。


これから年末に向けて、各上場企業は色々と忙しさを増し、当然ながら適時開示情報もにぎやかさを見せるようになる。最近は「継続企業の前提に関する事項の注記についてのお知らせ」など、ネガティブなタイトル表記のものが多く、一覧に目を通しても気分が曇ってきてしまう。

自分が株主でなくとも読んでいてハッピーになれるような、そんな明るい内容のIRが増える、そんな時代が一刻も早く訪れるよう、心から祈りたいものだ。

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