【更新】「IMFへ1000億ドル」の意味と効力

2008年11月17日 08:00

IMFイメージ11月14日と15日の二日間、アメリカ・ワシントンで開催された20か国の首脳による緊急首脳会議(G20、金融サミット)において麻生太郎首相は、日本が【IMF(国際通貨基金)】の財務体質強化のため最大で1000億ドル(約10兆円相当)を外貨準備から拠出することを明らかにした。これに対しIMF側では14日にドミニク・ストロスカーン専務理事の名前で声明を発表し、歓迎する旨を表明している(【発表リリース、PDF】)。

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G20の開催後に行われた記者会見の発言内容が[iza]に掲載されており、その部分を抽出すると次のようになる。

そして、IMF等の国際金融機関の資金の基盤というものが弱い。それを増強する必要が皆さんとともに共有されている。そのため日本としては、IMFに対して増資するにしても時間がかかるので、今は時間が急ぐので、したがって日本としては1000億ドルを資金の融通をする用意があると表明している。

(中略)

また先ほど申し上げてましたけれども、IMFの増資というか、IMFに対する融資をはじめ、少なくとも格付け会社の話とか、また監視機能をいまある組織を使ってやっていくんで、新しい組織をつくるよりそちらのほうがいいなどなど、いろいろ申し上げましたけれども、具体的な形としてとりまとめていただいたので、こういった私どもの提案を生かされているので、そういったものを現実にやっていくということになろうと思う。


今件については後ほど正式な発表が行われるだろうが、一応確認事項をまとめておくことにする。

IMFに拠出するのは「10兆円」ではなく「1000億ドル」である
ほとんどの報道で「10兆円を国家予算からタダで差し上げる」かのように報じているが、これは誤報に等しい。実際には「1000億ドル」(米ドル)をIMFに貸し付ける・あるいは出資することになる。総理の発言を読むと「IMFに対して増資するにしても時間がかかるので、今は時間が急ぐので」という前置きがあり、「出資するには手続き上の時間がかかるから、貸し付ける」というニュアンスに読み取ることができる。

実際IMFでは財源補完のため、加盟国から資金を借り入れる仕組みを持っているし、過去に前例もある。当然貸付の場合には後日利子付で返済されることになる(【資料:IMFとは、PDF】)。また、「10兆円」ではなく「1000億ドル」と強調したのは、この拠出金は日本銀行や財務省が外貨準備として保有しているアメリカドル・アメリカ国債が原資となっているから。

【財務省の最新データ(PDF)】によれば、日本の外貨準備高は8月現在で9762億5000万ドル。このうち1000億ドルが今回の額に相当する。ちなみにこの外貨準備高は主要各国中、中国についで二番目の高さを誇る。

財務省による各国の外貨準備高(アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスなどは外貨準備高の定義を変更したので、桁違いに小さな値となっている。そのためグラフからは除外されている)
財務省による各国の外貨準備高(アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスなどは外貨準備高の定義を変更したので、桁違いに小さな値となっている。そのためグラフからは除外されている)

外貨準備とは

「外貨準備」そのものについては【日経の「まなぼう」】によるところが詳しい。要は

・日本企業が海外で儲けたお金を日本に還流する際、円が買われドルが売られるが、その額がぼう大なため、そのまま放置すると円高が進行してしまう。
・それを防ぐため、日本銀行や財務省などの通貨当局が米国債などの外貨建て資産を購入し、バランスを調整する。
・結果として外貨建て資産が増え、外貨準備高が大きくなる。


ということ。為替を安定させるためには必要不可欠な資産ということになる。日本が鎖国するということであれば売り払ってもかまわないのだが、それは事実上不可能。もちろんドル建ての資産のため、そのままでは日本国内では使えない。

仮に(どこぞの政党が主張したように)国内で利用できるように売ることにでもなれば「米国債を売ってドルを手に入れる」「ドルを売って円を買う」プロセスを踏むため、猛烈な円高ドル安を呼ぶことになる。日米間だけでなく世界的な為替の混乱は起きる、円高で大手企業の多くは破たんの危機を迎えるという、まさに「金の卵をうむガチョウに手をかける」状態。

「IMFへの拠出」の意味

「でもそのガチョウ、国債の利子以外はタマゴ産まないのでは」という意見もある。今回のIMFへの拠出は、まさにその意見への回答の一つともいえる。IMFは世界最強の「世界規模の金貸し」として有名。上記のリンクからIMFの各種リリースに目を通してもらえればお分かりの通り、非常に厳密な貸し出しチェックを行い、さらに貸し付けた国に対しては厳しい対応で返却できるよう「指導」を行っている。

どれだけ厳しいかは、日本が仮にIMFの管理下におかれたらどうなるかを示した【「ネバダ・レポート」を検索して】みればよい。面倒な人は、第154回衆議院予算委員会(第10号2002年2月14日)で民主党五十嵐文彦議員の質問議事録(【こちら】)を参照のこと。ざっと挙げると

・公務員の総数、給料は30%以上カット、及びボーナスは例外なくすべてカット
・公務員の退職金は一切認めない、100%カット
・年金は一律30%カット。国債の利払いは5年から10年間停止
・消費税を20%に引き上げる
・課税最低限を引き下げ、年収100万円以上から徴税を行う
・資産税を導入し、不動産に対しては公示価格の5%を課税
・債券、社債については5~15%の課税
・預金については一律ペイオフを実施し、第二段階として、預金を30%から40%カットする


となる。これほど厳しい姿勢で臨む「ワールドワイドな金貸し」というわけだ。だからこそ多くの国が頼りにしているし、貸し倒れも少ない。つまり金主からすればリスクが低いということになる。

●IMFへの拠出のメリット
・手持ち無沙汰な米ドル資産の有効活用
・「世界最強の金貸しIMF」への拠出で
 1.貸し倒れリスク低下
 2.特定国への貸し出しによる
「不公平感」の是正
 3.効果的な国際貢献

IMFに拠出を行うということは、「金融危機で資金貸与が求められる」情勢において、「確実に世界への貢献が出来」、かつ「個別に貸与するよりも貸し倒れのリスクが極めて低い」ことを意味する。また、特定国に対する貸与をした場合、他国からは差別されたと見なされ「えこひいき」と思われかねない。そしてすべての国の要請に答えるほど日本に財力は無い。

どこぞの国に対する財政的支援のように「巨額を投じたのに相手国ではほとんど報じられず捏造扱いされ、挙句の果てに侮蔑までされてその上踏み倒すとしか思えない姿勢を見せる」ような状況よりははるかに良策といえる。

国内対策は?

「他国の金融危機はいいけど、国内の金融危機はどうなのよ。事実上手をつけられないとはいえ、1000億ドルもの資金を動かすのなら、日本国内にもそれくらいの対策は打つべきでは」という意見もある。それについても「なぜか」ほとんど報じられていないが、すでに実態として動き出している。その一つが【10月31日から拡充された緊急保証制度、PDF】。簡単にまとめると

・金融機関が中小企業に資金を貸し付ける際に政府が仲介して保証する対象企業・業種・金額を大幅に拡大する。
・保障額は8月の緊急対策で決定した枠が「緊急保証制度6兆円」「セーフティネット貸付3兆円」。
・10月31日の時点でそれぞれ「20兆円」「10兆円」まで拡充する。


要は中小企業に対して「30兆円分の融資に関して政府保証枠」が設けられたわけだ。今件のIMFへの拠出1000億ドル・10兆円相当と比べても3倍に相当する。「贈与」ではなく「貸付」という観点でも同じだ。

この政策の効果は劇的に現れている。これも「なぜか」一般マスコミではほとんど報じられていないが、例えば【ダイヤモンド】の記事によると「地銀をはじめ、これまで全く相手にもしてくれなかったメガバンクなどからも、次々に融資の申し出がある」「10月の下旬になったころから、次々に地銀やメガバンクの営業マンが訪れ、「お付き合いいただけませんか」と融資を申し出ている」という文字が躍る。

一方で金融機関のモラルハザードを懸念する面もある。「どのみち政府が担保してくれるのだから査定などいい加減でいいや」というものだ。もちろんこのようなスットコドッコイで自らの立場の義務を果たさない金融機関に対しては、適時厳しく「査定し」「適切な対処」を講じればよい。


詳細は正式発表を待たねばならないが、「一部」を除けば多くの人にとって、今回のIMFへの拠出はプラスとなる政策であることに違いはない。反対勢力の茶々に阻まれて無駄な時間を浪費させられたり、額を減じられたり、挙句の果てには中止させられることの無いことを心から祈りたいものだ。


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