事前情報漏えいと「自社株急落」の事業への影響~新井組の場合

2008年10月09日 08:00

株式イメージマンションなどの建築主体の建設業で、NISグループが筆頭株主となり再建中だった【新井組(1854)】は10月8日、民事再生手続き開始を申し立て、事実上倒産した。先に【今年倒産した上場企業をグラフ化してみる】で「出来うることなら年末に『あれからデータは更新されることもなく年を越すことができました』と『株式市場雑感』あたりでコメントできると嬉しいのだが」とコメントしてから二週間ももたなかったことになる。さてその新井組の倒産劇について、二つほど書き記しておかねばならないことがあるので、ここに「記録保全」の意味も含めてまとめておくことにする。

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倒産情報の事前漏えい……!?

企業が複数の人間で構成される以上、何か事を起こす際には必ず情報が事前に漏れるリスクが生じる。それは避けられない話。今回もまた、「避けられない話」が起きてしまったようだ。

新井組の倒産が正式発表されたのは10月8日17時45分。実際にはその1時間ほど前に「記者会見を17時45分から行う」と報じられており、その「気配」は感じられていた。どちらにせよ、公的には場中の情報はない。ところが前日9日から10日の夕方にかけて、公式発表以前に巨大掲示板「2ちゃんねる」の関連スレッドで、事態を明らかに匂わせるような書き込みが確認されている。諸々の問題もあり、具体的な場所は明記しないが、時系列順に追うと次のようになる。

10月7日 19時44分:「明日なのね…」(何かが起きるような言い回し)
10月8日 12時56分:「逝ったか?」(倒産したか、の意味)
    12時59分:「どうも逝ったらしいが……情報求ム」
    13時22分:「本日、民事再生申請 ソースは現場所長」
    14時10分:「本当本当 新井組 民事再生法申立」
    14時16分:「補足しますと 今日の朝に全現場所長が本社に集められ説明があったそうな。
          10日決済のメドが立たず、このタイミングでの申請になったらしい」
         (13時22分のと同一人物)
    14時53分:「17時から会見」(実際には17時45分からとなった)
    15時01分:「南堀江の現場 ガス屋さん 左官屋さん 撤収完了
          倒産ですな。保全される前の動きはぴか一ですな。
          明日から 材料と道具は持ち出し可能のでしょうか?
          それより 支払いする気あるのか?」


同社の株式は同日前日終値の23円から15円と34.78%の下げを記録している。ただし元々当日が「フリーフォール状態」だったことや、低位株状態だったため、事前情報を元に投売りされた云々の動きを見出すことはできない。

10月8日の新井組の値動き
10月8日の新井組の値動き

東証一部上場企業ともなれば取引先も含め実に多数の人が関わることになる。しかも書き込みの内容が事実だとすれば、公式な発表を前に現場の人たちには状況を説明していることになり、そこから情報が漏れ出る可能性は十分に考えられることになる。実虚取り混ぜられる形で、今後もこのような話は登場することになるだろう。

自社株下落で本業に大きな影響

企業が保有している他社の株式の株価が下がれば、評価損を計上しなければならなくなる場合もある。しかし極端な話、自社株の株価がいくら下がろうと、直接本業に影響することはあまりない。上場規定の時価総額規定に抵触しなければ、の話だが(もちろんそれに加えて体面上の問題もある)。

ところが昨今では、そうとばかりは言っていられないようだ。新井組の民事再生手続きを伝えるリリース(【該当リリース、PDF】)によれば、自社株の株価下落が本業に大きく影を落とし、これが民事再生手続き申し立てのトリガーを引いたと説明されている。いわく、

この間、新井組の株価の下落により、取引先からも決済サイトの短縮、現金決済への切り替え等の要請が相次ぐ事態となり、資金繰りが圧迫されることとなりました。


株価が下がる

「リスク増大」の
バロメーター?

取引条件悪化

事業を圧迫

要は自社株の株価が下がったことで、体面云々以上に取引先からの信頼が失われ(「倒産するのでは?」「市場は近いうちの倒産を織り込んでいる?!」)、取引先もできるだけリスクを負わない形での取引を新井組側に求めるようになった。これは当然新井組の負担を増やすことになり、最終的に今回のような事態に陥った要因となる。

先の【テクニカルもファンダメンタルも通用しない「叩き売り」相場】のように、その企業の業績とはまったく無関係の、売り手側の事情だけで売り込まれ、株価が急落することもある。新井組の事例は、企業の経営陣が「結局は投資家たちの判断によるのだから、自身がしっかりと実業をこなしていれば問題はないサ」とたかをくくって(そして個人投資家からの苦情は聞き流せば良いと)ばかりも言ってられない時代になりつつあるということなのだろうか。


(最終更新:2013/08/02)

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