景気の現状は厳しい…2008年8月分の景気動向指数は現状5か月連続の下落、先行き6か月ぶりの上昇

2008年09月09日 06:30

内閣府は9月8日、2008年8月における景気動向の調査こと「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。それによると、各種DI(景気動向指数)は相変わらず水準の50を割り込んでいる状況には変化はないものの、先行き指数は半年振りで少しながらも改善の兆しが見られるようになった。基調判断は先月から続き「景気の現状は厳しい」であり、引き続き予断を許さない状況にある(【発表ページ】)。

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猛暑とオリンピックで現状は大幅減

文中・グラフ中にある調査要件、及びDI値についてはまとめページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】上ので解説済み。そちらを確認してほしい。

8月分の調査結果は概要的には次の通り。

・現状判断DIは前月比マイナス1.0ポイントの28.3。
 →5か月連続の低下。「悪化」が増えている。「良くなっている」派はほぼ壊滅。
 →家計は身近な商品の値上げが継続、さらに大雨やオリンピック観戦による外出の手控えで消費は減少。企業は原油・原材料価格の高騰が続いているが高止まり感も見られる。雇用は新規雇用減少傾向が続いているが「悪化」から「変わらない」と判断する人がスライドしつつある模様。
・先行き判断DIは先月比プラス1.2ポイントの32.0。
 →6か月ぶりのプラスに。
 →身近な商品の価格上昇による消費意欲の減退続く。ただしガソリン価格への下落による影響への期待感から、一部で上昇へ。


2001年パターンを踏襲中・あと半年が踏ん張りどころ

それでは次に、それぞれの指数について簡単にチェックをしてみよう。まずは現状判断DI。

景気の現状判断DI
景気の現状判断DI

上でも触れているように、オリンピック観戦や大雨による「引きこもり」効果で、小売やサービス関連は大きく落ち込んだ。一方飲食関連は多少ながらもプラスを示している。これは宅配やファストフードが伸びたからだろう。また企業は非製造業が引き続き落ち込んでいるものの、製造業は原油の高止まりから横ばい意識が強まり、ややプラスに転じている。雇用関連も「悪化」が減り「変わらない」が増えたことからややプラスに。要は企業も雇用も「悪化している状況から底打ち状態の雰囲気が見えてきたため、先月差でプラスに少しながらも推移している」状態にある。特に雇用関連は先月の「これ以上下がりようが無い」という大底が実証できたのかもしれない。

続いて景気の現状判断DIを長期チャートにしたもので確認。

2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)
2000年以降の現状判断DIの推移(赤線は当方で付加)

現時点ですでにITバブル崩壊後の不景気時期にあたる2002年~2003年(日経平均株価が7000円台を記録)の時期の水準に近い状態が続いている。2月から見せた反発の兆しも4月分で再び下落し、さらに8月分では7月分よりカーブはさらにゆるくなったものの、降下が続いている状態。調査母体がこの表を意識していることはないだろうが、2001年後半につけた大底の水準にほぼ達する状態にあるといえる。今年3月の一時的な上げは2001年初頭の小型反発のそれに似ていることもあり、同様のパターンを踏襲する雰囲気。

・下落傾向確実に。
だが多少緩やかな動きへ。
・「雇用と全体の下落逆転」は
継続中。
・合計のDIは2002~03年の
不景気時代水準に近づく
→前回と同じパターンを
踏襲するのなら、半年以内に底か?

注意すべきなのは今年に入ってから何度と無く指摘しているように「前回(2001年~2002年)の急落時には、家計や企業、雇用動向DIにぶれがあったのに対し、今回の下落では一様に、しかも急速に落ち込んでいる」こと。景気状況がいっせいに悪化したことを表している。これも今年後半から急激に加速した資源高(特に「サブプライムローンショック」「8.17.ショック」と呼ばれるサブプライムローン問題関連)が引き金。ただし資源高そのものはそれ以前から兆候が見られていたことが確認されている。やはり市場の大幅下落が引き金となったのだろう。

一方これまでの傾向として見られた「直近の最底値の際には雇用関連の指数が全体指数より下側に大きくクロスして落ち込む傾向」が3月では小規模ながらも見られ、4月以降継続していることが注目に値する。さらに8月では2001年~2002年の最低値に達することなく、雇用指数が上昇の兆しを見せはじめてしまった。

これが誤差の範囲の動きで来月以降再び底値を探る動きに転じるのか、あるいは上昇を続けることで本格的な景気動向の反転のきっかけとなるのか、注意深く見守る必要がある。ただし直近の小反発(今年3月前後)の水準が前回よりもやや低めなこと・今回の雇用指数の反転は前回と比べてはるかに上の水準で起きていることを考えると、次月以降再び下降をたどり、前回「以上」の不況感が実現する可能性が大きいことは否定できない。

景気の先行き判断DIについては、現状判断指数とはほぼ正反対な結果が出ている。つまり家計動向はすべてプラスで、企業動向では非製造業のみがプラスの値を示している。特に飲食関連の数字が頼もしい。また雇用関連は現状だけでなく先行きでも回復しつつあるように見える。

景気の先行き判断DI
景気の先行き判断DI

家計動向の下落の度合いはここ半年の間で最大級のレベルであった7月分からやや回復を見せる数字を出している。原油が高止まりの様相を呈し、そして下落の傾向を見せ始めているだけに、今後は原油価格の高騰をきっかけにした食品の値上げは、落ち着きを見せるのではないかという期待が込められているのだろう。特に飲食関連が大きく反発し、30を超えたあたり、消費者の(とりわけ自動車を用いた、あるいは食品価格の安定による)消費行動の活性化が期待されていると見てよい。企業動向は製造業がマイナスだが、非製造業はわずかにプラスをみせている。雇用関連は現状判断と同じくプラスに移行。

2000年以降の先行き判断DIの推移
2000年以降の先行き判断DIの推移(赤線は当方で付加)

当方の視力が確かなら、総合先行きDIはすでに先月で2001年後半の最下方値に達している。そして今月はそこからわずかではあるが上ぶれした結果を見せている。「現状判断指数」のデータ同様に底入れした雰囲気が感じられる結果といえよう。ただしこちらも「現状」同様に雇用関連の数字の下落度合いが、2001年の不況と比べてまだ足りないようにも見受けられる。8月分も含めて数か月の間は踊り場的な状況を見せ、再び下降トレンドに移行する可能性も否定できない。2003年以降よく見受けられるようになった上昇・安定時の傾向「雇用指数が全体指数を大きく上回る」がまだ確認できず、クロス・逆転も起きていないことからもそれは確認できる。

発表資料には現状の景気判断・先行きの景気判断それぞれについて理由が詳細に語られたデータも記載されている。簡単に、一番身近な家計(現状・全国)に関して事例を挙げてみると、

・今月は少雨、高気温などで野菜の相場が大幅に下落した。これが食品値上げ等で増えている内食に追い風となり、販売点数は増加している。盆も売上が伸び、下旬は気温が下がり、鍋物商材など少し高単価の商品が伸びている(近畿=スーパー)。
・例年より早く、いきなり涼しくなってきたので、夏物が売れにくくなっている。反面、秋物の動きが良い。特に初秋物のブーツ関係が動いている(衣料品専門店)。
・衣料品全般は厳しさが続いている。特に、下旬の急激な気温低下で、夏物最終セールの動きは悪く、秋物立ち上がりも実需に至っていない。食料品は、夏休みの外出控えの影響もあり中食の需要増がみられ、単価の上昇もあり、堅調である。一方、レストランはオリンピックの影響で全般的に厳しい。来客数も前年割れと厳しい(百貨店)。
・北京オリンピックが終了し、好調に推移してきたテレビの売上も低調になった。エアコンは前年8月が異常に売れたため、今月は大幅な前年割れとなった。他の商品は相変わらず不振である(家電量販店)。
・今月の販売量は、前年比90%となっている。盆明けにマイナーチェンジの新車発表会を2週連続で実施したが、土日でも店舗の盛り上がりは全くない(東海=乗用車販売店)。
・例年よりも前半の来客数が悪い。都心部の店舗は旧盆後から盛り返して95%ぐらいにはなっているが、車を使う郊外型の店舗は例年の60%ぐらいで、全く来客数が取れていない(その他飲食)。


など、小売業の中でも衣料品が特に大きく減退している現状や、食品を中心に消費者が賢い消費行動を実行している状況がうかがえる。


8月は底状態か?
単なる踊り場、だまし上げの
可能性も否定できず。
ここ数か月は注意が必要。

掲載は略するが、企業部門のコメントでは原油高やリース関連法令の変更、不動産・建設セクター全体の不況から、クレーン、運送業者、土木、建築業者など直接・間接的な関連業者の廃業、倒産、計画中止、解雇者の増大などの文言があちこちで見受けられる。一方で例えば国産志向の高まりから関連商品の納品が好調であるなど、数少ない「景気の良い部門」で賢明に努力している企業の姿も見られる。ただしとりわけ消費者の防衛意識は強いままのようだ。

また雇用部門では職業安定所の「建設業を中心に解雇者が増加しており、前年と比べ2倍以上となっている」「パート求職者の増加が目立っている」「さらに先行き不安から、在職求職者が退職の意思表示をせずに、より良い転職先を探すケースも増え」という表現も目に留まる。建設業の不振、景気全体の悪化状況が雇用面でも色濃くにじみ出ている結果といえる。

本文中でも何度か指摘しているが、今回の景気悪化が2001年から2002年にわたった景気悪化のパターンを踏襲するのなら、全体の指数の底打ちと前後して「大幅な雇用関係指数の下落・他指数との乖離(かけはなれること)」現象が見られるはずである。8月は奇しくも現状判断DIは下げたままであるものの一部項目でプラスの動きを見せ、先行き判断DIはプラスに転じてしまった。ここから値を上げて、本格的な景気動向の反転を見せる可能性もゼロとはいえない。

ただし雇用関係指数絡みの動きがまだ怪しいところがある。本格的な反転を見せるには下げ幅や乖離が足りない。今回の底打ち・横ばい感は「反転の本物の兆し」が3~4割、「だましでしばらく踊り場を見せた後再び下落」が6~7割の可能性を持つと考えて良いだろう。どちらが正しいのかを見極めるには、二、三か月の時間経過とデータ取得が必要と思われる。

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