平均的な書店の「おサイフ事情」をのぞいてみる

2008年08月23日 19:30

書店イメージ7月24日に公正取引委員会で公開された著作物再販協議会議事録など(【報道発表資料ページ】)の資料には、音楽・出版業界などの著作権に関係する各種業界の最新情報が掲載されている。その資料には平均的な書店の「おサイフ事情」こと財務諸表もいくつか掲載されていた。今記事ではそのうち損益計算書を見ながら、書店の実情をかいま見ることにする。

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資料には取次ぎ大手のトーハン発「平成19年度版書店経営の実態」と、同じく大手の日販発の「2007書店経営指標」を基にした、関連書店の平均値による損益計算書が掲載されている(この二社で書店の7割ほどをカバーしている)。本来なら上場している書店の諸表をそのまま分析してもよかったのだが、個別ケースに収まってしまう可能性もあることと、専業店のデータが得られないことから、今回はこのような形を取った。

まずは前者を書き直してみる。

トーハン発「平成19年度版書店経営の実態」による書店の経営実態
トーハン発「平成19年度版書店経営の実態」による書店の経営実態

読み方が分からない人もいるだろうから順に説明。一番上の「売上高」は書籍・雑誌など商品の売上。今件ではこれを100として各数字を割り出している。「売上原価」は書籍などを入荷した時に問屋に支払う代金など。差し引きが「売上総利益」になる。

そこから販管費(販売費・管理費の総計。人件費や家賃など、商品が売れようが売れまいがかかる費用)が引かれたのが「営業利益」。書籍・雑誌の専門店である「専業店」では、この時点ですでに赤字となっているのが分かる。CDやビデオ、ゲームなどの売り上げが2割を超える複合店でも、営業利益はわずか0.74。つまり1000円の本が売れても、直接の営業利益はたったの7.4円に過ぎない。

さらにここから、本業、つまり本の売買以外で得た収入や費用が差し引きされたのが経常利益。企業の稼ぎ具合を見る一つの指針となるが、専業店では-0.05の赤字、複合店でも1.60しか黒字を出していない。

さらにさまざまな特別の損益を足し引きし、加えて税金の支払いなども発生し、最終的に残ったお金が利益、すなわち「当期純利益」となる……のだが。複合店でも1.05、専業店では-0.31の赤字が出ている。これは

・平均的な専業店では年間1000万円分の本を売り切ると、3万1000円の損をする。
・平均的な複合店では年間1000万円分の本を売り切ると、10万5000円の利益が得られる。


ことになる。もちろん従業員の給与や家賃などのランニングコストを計上した数字で、あくまでも「平均値」でしかない。しかし、すでに専業店はビジネスとして「やっていけない」状態にあること、複合店でもちょっとした費用の増加(例えば人件費の増加や店内の改装、万引き率の増加)でおサイフ事情が火の車になることが容易に見て取れる。

同様に日販側のデータ。こちらは三大都市圏と地方の本屋の実情も分かる。

日販発の「2007書店経営指標」による書店の経営実態
日販発の「2007書店経営指標」による書店の経営実態

「トーハン」側と比べて多少はマシに見えるが、やはりトーハン同様に書店経営が非常にカツカツであること、営業利益率が極めて低いこと、専業店の経営状態が厳しいことが見て取れる。


両方の損益計算書を見渡して気がつくこと、把握できることを箇条書きにすると次のようになる。

・書店経営の売上高経常利益率はきわめて低い。売上100.0に対して利益は良くて1.0程度でしかなく(=1.0%)、専業店ではマイナスの場合もある。
・商品原価も高めなら、人件費をはじめとした販管費の負担も大きい。根本的に利益を生み出しにくい構造にある。
・専業店では経営の持続は難しい。複合店でも綱渡り的状態。


・現状では
専業店スタイルは
商売が成り立たない。
・複合店にするには
資金力や広い面積が
必要。
  ↓
中小の専業書店は
立ち行かなくなり
店をたたむことに……

元々書籍や雑誌が「薄利多売」的なビジネスモデルなのが要因なのだが、売上高に対する売上原価と販管費の割合が極めて大きく、営業利益がほとんど得られていない。これが経営状況が思わしくない最大の原因。専業の場合はそれ以外に収入を得る選択肢がないのでカツカツ(あるいは慢性的な赤字)になってしまう。複合店では書籍以外の商品(音楽CDやDVD、ゲームなど)の販売でどうにか平均的な売上原価を下げて売上額を増やし、利益を上積みしているという色合いが濃い。

複合店にするにはそれなりのマンパワーや面積、資金力が必要となる。地方の個人書店にはとうてい無理な話であるし、中小の書店ではお客を満足させるほどの品揃えが出来ずに中途半端なものとなり、売上の向上には結びつかない。結局「わずかでも儲けが得られる可能性がある大型複合店」への道を歩めない中小書店は経営が立ち行かずに「お手上げ」となり、店をたたまざるを得ない、というのが実情だろう(資金力があれば大型化・複合店化するという道もあるが……)。

大型複合店イメージ先に【「書店の減り具合」と「書店の売り場面積動向」のグラフ化を仕切り直してみる】でデータから推測された、「中小書店が次々に店じまいをし、開店するのは大型書店ばかり」現状は、その記事や【書店の売り場面積動向をグラフ化してみる】で述べた「『本のデパート』『書籍の遊園地』的な雰囲気を作り出すことで、『その場に居るだけで楽しい』書店の魅力を演出する」という事情のほかに、「利益を生み出せる可能性が高い複合店スタイルは、大型店でないと作れないから」という、そろばん事情があるものと思われる。

あるいは小さな書店でも展開できるような、「書籍・雑誌と深い関係があり」「利益率が高く面積を取らない商品」が存在すれば、小さな書店にも生き残る道はある(一時期流行ったトレーディングカードが好例)。または発想をまったく変えて、物品を売る以外の方法で利益を上げるやり方もあるかもしれない。

しかし現状では、その条件を満たすような「素晴らしいアイディア」はまだ見つからないようだ。柔軟な発想を持つアイディアマンなら、もしかしたらこの設問の解答を導き出せるかもしれないが……。


(最終更新:2013/08/03)

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