テクモがものすごい勢いで自社株買いをしている件について

2008年06月14日 12:00

株式イメージゲーム製作販売中堅の【テクモ(9650)】は6月13日、自社株買いが終了したと共にその株式数に倍する手持ち自社株の消去を行い、さらに新たに自社株買いをすることを発表した。自社株買いを宣言しても実際には行わない企業が山ほどある中で、この速さは非常にレアなケースといえる。テクモは昨今、開発主力スタッフの一人板垣伴信氏との間で色々と「つばぜり合い」を交わしていることもあり、注目を集めている。

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会社と開発スタッフのつばぜり合い、株価は下落

今記事ではテクモと板垣氏の「問題」について突っ込んだ考察をするつもりはないので簡単に流しておくと、ことのきっかけは『デッドオアアライブ』シリーズの開発の中心人物として知られている板垣氏が6月3日、報道機関に対して「報酬未払い」「退職せざるをえなくなった」などとするリリースを配信したことに端を発する(【GAME Watchの該当記事】)。

この報道を受けて翌日6月4日のテクモ株は出来高を伴い大きく値を下げ、久々の3桁台に突入。ことの影響の大きさを受けてか翌日には【テクモ側もリリースで反論(PDF)】。「板垣氏の件がひとまず片付いたので社内で説明し職務に従事するよう促した」「規定通り報酬は支払っていて、それ以外のことは前経営者の話」と、板垣氏の主張に真っ向から対抗する姿勢を見せた。しかしその後も株価の下落は止まらず、6月6日には終値で954円をつける。

テクモ、自社株買いを発表。そして「実行」

ところが6日の場が引けてから、テクモ側では【自社株買いの発表(PDF)】を発表する。その数30万株(発行総数比1.2%)。上限価額は3億6000万円だから、1株1200円の計算となる。取得期間は6月9日(発表の翌営業日)から12月31日と比較的長めの期間を設定している。

ここで注意してほしいのは、自社株式の購入はあくまでも取締役会の決定事項であり法的拘束力はなく、さらに発表された内容は「目標値」に過ぎないこと。自社株買いはそれだけ買われる要素が増えるから、株価上昇の材料になる。そこに付け込んで、「自社株買いをしますよ」とおおっぴらにリリースを出しておきながら「結局買うタイミングに出会えませんでした。ごめんね、てへっ」と舌を出すかのようなリリースを1枚出して、ほとんど、あるいはまったく自社株買いをせずに株価対策を行う企業が少なからず存在するのは事実。

今件の板垣氏とのやりとりが株価に大きな影響を与えた事象であるのは事実で「その株価変動への対策からの自社株買いだろう」というのは明らかだが、期間が今年末締め切りとなっているので「毎月少しずつ買い、その進捗をリリースで流すのだろう」と考えていた人も多いはず。ところがそれからきっかり一週間経った先日13日、テクモが出したリリースには目を疑うことになる。

【自己株式の取得結果及び取得終了に関するお知らせ(PDF)】によると、6月9日に開始した自社株買いについて、すべてを市場内買い付けにより、上限株数の取得を終了してしまっている。つまり予定では「今年末までに」としていた自社株買いを、わずか1週間で終えてしまったことになる。

テクモの直近2か月のチャート(下は出来高)
テクモの直近2か月のチャート(下は出来高)

チャートを見ると確かに自社株買いを始めた6月9日以降、出来高が明らかに大きくなっているのが分かる。自社株買いそのものを材料として投資家に注目を集めて買われているのが分かるが、それだけではここまでの出来高の増加は説明しにくい。6月9日の時点でテクモ内部では自社株保有数が62万5524株であったから、その約半分に達する自社株をわずか1週間で買い集めたことになる。外資からの敵対的買収が報じられるなど特殊事情でもない限り、ここまでスピーディーな自社株買いは未だかつて見たことがない(当方の経験不足なのかもしれないが)。

単純計算をすれば30万株+62万5524株=92万5524株となったテクモの自社株だが、同社は同日、このうち60万株について6月26日付けで消去することを発表している(【発表リリース、PDF】)。

株式の消去は株の圧縮、つまり1株あたりの資産価値を高める効果がある。例えるなら、10人でカステラを分ける予定だったものを9人で分けるようにしたということ。それだけ1人分の分け前(株の場合は1株あたりの資産価値)が増えるので、既存株主には嬉しいお話。

さらなる自社株買い発表。このスピーディーな展開は!?

そしてさらに同日、再度【自社株買いを決定している(PDF)】。今度も1株1200円の試算で、ボリュームは前回より10万株増やした40万株を上限。期限も同じく12月31日まで。先に説明したように実際に1株も買わなくとも特段問題はないのだが、矢継ぎ早に発表されるリリースのペースに、「次もまた?」という期待が広がるのは否定できまい。

自社株買いはその発表だけでも、さらに実際に購入が行われれば底支えという点でその企業の株価を押し上げる。板垣氏とのどたばたで急落した株価を支えるには、うってつけの戦略の一つといえよう。とはいえここまで素早く実行された自社株買いは見たことが無く、さらに大規模な自社株消去・更なる自社株買いの発表ともなれば、強烈なテクモ側の意思を感じざるを得ない。

単なる株価対策の粋を超えないものなのか、それとも「機を見るに敏なり」「災い転じて福となす」とばかりに「ごたごた」による株価急落を活かそうということまで考えてのことなのか。あるいは別の考えがあるのか。残念ながら、それは当事者であるテクモの上層部にしか分からないお話だろう。


(最終更新:2013/09/06)

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