とうもろこしの生産・消費動向をグラフ化してみる

2008年06月13日 06:30

とうもろこしイメージここ数日原油・石油関連のニュースが相次いでいるが、その関連ニュースとしてちらほら目に留まっているのが「とうもろこしの価格」。元々食料・飼料向けとして重要な穀物の一つだが、バイオエタノール向けに転換されるため、いくら増産しても食料供給増加にはつながらないというおかしな状態になっている。そのとうもろこしについて、さるところで「需給の関係が成り立つのならこんな急騰はしないはずなのだが」という意見を耳にし、「何かのバランスが崩れているのでは」と頭の中で色々と図式を組み立てているものの、なかなかうまく整理が出来ない。そこでまずは、とうもろこしの生産・消費・エタノール向けの転換について調べてグラフ化し、外堀を埋めてみることにした。

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幸いなことに小麦・大豆・そしてとうもろこしについては農林水産省の【食料需給インフォメーション】に多種多彩なデータがまとめられている。そのうち【食料供給予測】の最新データ(5月30日更新)を元に、グラフをいくつ作成してみる。

まずは生産量。後ほどの消費量上位グラフとのかね合わせもあるので、上位4か国のみのグラフ。以後のグラフも含め、2007年~2008年分は見込み、2008年~2009年分は予想値。

とうもこし生産量の推移
とうもこし生産量の推移

アメリカの生産量がいかに大きいかが改めて思い知らさせる。ちなみに世界の全生産量は2007/2008年で7億7980万トンなので、アメリカが4割強を生産している計算になる。また、EU27か国がやや減産気味なのが気になる(別のレポートによればウクライナ地方を中心にヨーロッパ全域をおおう形で気象の変動がおき、不作が続いているとのこと)。

主要四か国とて国民がまったくとうもろこしを直接・間接(料理の素材)に食べないわけではない。また畜産の飼料にも使うし、最近ではバイオエタノールの燃料としても用いられる。そこでこの四か国の消費量を見てみることにする。

とうもこし消費量の推移
とうもこし消費量の推移

こちらも順調な伸びを示している。しかし「生産量グラフ」と大した変わりはなく、面白みのあるものではない。

さて、実際にはその年に生産された量に対し消費量を差し引き、在庫分、輸入分をすべて考慮しないと、輸出可能分は算出されない。つまり

在庫量+生産量+輸入量-消費量-廃棄量≒輸出可能量


になる。もちろん在庫を空にするわけにはいかないので、実際には在庫量をある程度維持した上で輸出可能な量が計算されることになる。そこで「在庫にするもよし、輸出するもよし」と自由に割り振り出来る「余剰とうもろこし量」を出してみることにする。すなわち、「生産量」から「消費量」を差し引いた「その年の余剰とうもろこし量」が次のグラフ。

余剰とうもろこし量
余剰とうもろこし量

アメリカ以外が結構カツカツな状態でEU27か国にいたっては不足状態、中国ですらスレスレであることもわかる。一方ブラジルは生産量こそアメリカの数分の一程度しかないが毎年消費量の増加分を上回る生産量の増大に成功し、余剰とうもろこし量が増えているのが分かる。

手元のとうもろし量に余裕があれば、在庫として保存しても良いし、海外に売りに出して外貨を稼いでも良い。そこで、今回取り上げた4か国のうち輸出をしているアメリカとブラジルについては輸出量と在庫量、輸出データの無い中国については在庫量のみをグラフ化してみる。このグラフは変化量もさることながら「絶対量」にも注目する必要があるため、在庫量を棒グラフにしてみた。

とうもろこし輸出量と在庫量
とうもろこし輸出量と在庫量

このグラフを見ると、

・ブラジルが非常に健闘している(在庫量の増加、輸出量の逓増)
・輸出できない中国が(おそらく輸入と共に)在庫量を少しずつ削りながら増加する需要をまかなっている
・アメリカは輸出しているにも関わらず在庫量が急減している(他国への輸出要請、もしくは価格上昇による「ビジネスチャンス到来」との思惑からか)


などの傾向が見て取れる。特にアメリカにおいては、在庫量の不足がとうもろこしの供給先行き不安を導き、それが市場価格の上昇の一因となっているだけに、非常に気になるところだ。

最後にアメリカにおけるとうもろこしの消費性向。

アメリカのとうもろこし消費性向
アメリカのとうもろこし消費性向

話には聞いていたが、ここまでのものとは正直思ってもいなかった。消費量そのものはほとんど変わらず、食品・種子向けのものもほぼ横ばい。そして飼料用のものを思いっきり減らして、その分ほぼすべてをバイオエタノール向けに充てていることが一目で分かる。ちなみに飼料用は前年比-14%、エタノール向けは前年比+33%にも達している。

アメリカの畜産動物がダイエットに成功した、あるいは効率的な熱量転換の品種改良を成し遂げたという話は聞かないので、単純に考えれば「畜産物の生産を減らしてまでバイオエタノール生産に充てている」ということになるのだろう。


資料内に添付されていた主要穀物の価格推移
資料内に添付されていた主要穀物の価格推移

とうもろこしイメージバイオエタノールの原材料として使われるということで、とうもろこしのみにスポットライトをあててみたが、ここ数年の間で確かに消費量は増加し、需給の関係の上では価格が上昇する要因になりうるということが確認できた。しかしこの上昇率だけでは、2006年後半以降のとうもろこしの価格急騰の理由付けとしては、いささか弱い気がする。

むしろ「現在の」需給関係はどちらかといえば副次的要因で、むしろ近い将来における不足を予見した上での先回り的な買い付けによる価格上昇が主要因的な気がしてならない。主要生産国のアメリカと中国において、国内在庫量がじわじわと減少している様子が、その「将来において不足する可能性」を示唆する、もっとも分かりやすいデータといえよう。

「現時点の需要」と「供給」以外の
要素が絡んでくるので
本来の生産と消費の関係で
成立しうる価格以上に
値が上がっている?

その観点から見ると、「現時点で足りないから値が上がる、あまっているから値が下がる」という単純な需給関係で成立しうる価格形成とは、また別のところで現在の価格高騰が起きているような気もする。「現状の」ではなく「将来の」需給関係を基にした買い付けが行われているから、適切な需給(「消費」と生産)関係におけるバランスが取れにくくなっているのかもしれない。

需給関係と価格のリバランスについては、とうもろこしに限るともう一つの要因(冒頭で「頭の中で色々と図式を組み立てているものの、なかなかうまく整理できない」とした部分)があるのだが、これはまた別の機会に。おそらく今回のグラフを含めた検証も、その際に再度取り上げることになるだろう。

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