【更新】野村證券社員インサイダー取引事件報道から垣間見られる「監視する側」の思惑

2008年05月07日 06:30

株式イメージ【金融庁、国内全証券会社に「内部管理徹底」を要請】でも報じたように【野村證券(8604)】の元社員(行動時は「現社員」)による大規模なインサイダー取引は意図的かつ悪意に満ちたものである実情が明らかになりつつあるが、今件について興味深い話がいくつかゴールデンウィーク中に報じられた。連休もほぼ明けたことではあるし、簡単にまとめてみることにしよう。

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関連銘柄判明・全部で21銘柄!?

[毎日新聞]や[ロイター通信]の報によれば、該当する容疑者らがインサイダー取引を行った銘柄やその買い付け額、利益のほとんどが判明した。銘柄数は全部で21、買い付け価額は総額1億8000万円ほど、利益はすでに報じられている約5000万円の通りだが、1銘柄で700万円近い利益が出たものもあったという。

21の銘柄すべてで野村證券がM&Aに関与し、容疑者が内部情報を得たというもの。東証一部上場銘柄も多く、14銘柄に登っている。案件も一部株式交換による完全子会社化だが、大部分はTOBで、「事前に情報を知り買い付けていれば100%儲かる事例」という、まさにインチキ極まりない話。

2006年分
・すかいらーく
・キャビン
・北越製紙
・筒中プラスチック工業
・NEOMAX
・旭ダンケ
2007年分
・ツバキ・ナカシマ
・日本サーボ
・明光商会
・ドトールコーヒー
・エーザイ
・三光純薬
・アルゴ21
・富士通デバイス
・カルピス
・三星食品
・アサヒ飲料
・日新電機
・バンダイビジュアル
・サイトサポート・インスティテュート
・日立粉末冶金


容疑者が企業情報部に転属して(入社は2006年2月)からまもなくこれらの取引は開始されており、元々インサイダー取引をするために入社したのではないか、あるいはそういう「素質」を元から持つ人物だったのではないかとすら疑われてしまう。もちろんあらゆる法令を適用して当事者らを断罪するのは当然として、そのような人物を入社させ、約2年も野放しにさせた野村側の管理体制も(金融庁側の言にあるように)問題視されるべきだろう。

ただ、これら21銘柄について、金融庁・野村證券・証券取引等監視委員会いずれからも正式発表は無い。いわゆる「リーク情報」というものだろう。複数のメディアで同時に、同じ内容が流れているところをみると、むしろ意図的に流された情報と見てよい。このあたり、取り締まり側の「情報戦」の様相が垣間見られる。

分刻みで監視されるネット証券での不正取引

もう一つ注目される記事は朝日新聞の[ネット証券での不正取引、丸見え 監視委が分刻みで分析]。詳細は元記事を確認してほしいが、概要をまとめると

・証券取引等監視委員会によって、ネット証券の売買は分単位で監視分析されている。
・2009年5月までには証券会社と取引所の間でシステムを接続、売買状況をすぐに入手できる体制をとる。
・東京証券取引所では2007年からインターネット上の掲示板に流れる情報を検索するシステムを強化、疑わしいものはリサーチの対象としている。
・証券取引等監視委員会も掲示板を含めたネット上の企業情報に目を通している。


このような形になる。今回の野村證券(元)社員のインサイダー取引も、この監視体制によって摘発された。このような話は以前から噂されていたが、今回その一端が明らかにされたことになる(当然正式なリリースではないが)。

取り締まる側の情報がほとんど流れない中で、今回稀有とも言えるケースで話が出たわけだ。そこで逆に「なぜそのような話がほとんど表ざたにならないか」と考えてしまうが、答えはそう難しくない。取締りをしていること、その内容や方法論を公開してしまうと、今回の野村(元)社員のような「取り締まられる側」が対処方法を考え、取締りの効果が薄れてしまうからである。

取り締まり情報の公開は
やもすると取り締まり効果を
失わせる可能性がある

例えば「月一回、毎週火曜日に店内見回りをしますよ」と事前に告知があれば、従業員は火曜日に気合を入れるだろうし、その他の曜日は気を抜いてしまうだろう。本屋で「ここだけ監視カメラがあります」とおおっぴらにアピールすれば、その場所での万引きは減るかもしれないが、他の場所では逆に増える可能性が高い。

今回の話も「あるなし」という意味では非常に興味深い内容だが、具体的に何をどんな手法でどうするのかはまったく公開されていない。「こういうこともしてるんだぞ」と(元ソースが明記できないリーク情報)でさりげなく広めることでプレッシャーを与え、抑止効果を働かせる意味合いもあるのだろう。

問題なのは「怪しい案件が多すぎて、言葉通り『監視』はするが、取締りするかどうかの判断や、取り締まりそのものに手が回らないのではないか」という問題。実際今回の場合はあまりにも状況が酷すぎたので摘発されることとなったが、いかにもインサイダー的な値動きをする銘柄は毎日のように見受けられる。不法とも思える見せ板行為なども日常茶飯事的なものとなりつつある。昔のテレビCMの「みてるだけ~」、あるいは最近の「注視します(でも何もしません)」ではないか、と非難の対象になるかもしれない。

監視側の人員や予算の増強は必要不可欠。数倍しても足りないくらいだ。しかしそれがかなわない現状では、すべてのデータを「監視」して摘発するのは物理的に無理。ある程度割り切り、手ごまを有効に使い、摘発率を高めるには(銀行のオンラインシステムでは導入済みで、おそらくはすでに今件でも導入されていると思われるが)【「マルサの女」も顔負け? 富田林市が航空地図システムで固定資産税もれ物件を500件も発見】でも触れたように「これまでのデータを蓄積して特異な部分を抽出し、チェックを人間に行わせる」システムを使うのが一番だと思われる。また、それがすでに導入済みなら、精度を高める工夫が求められることだろう。

(最終更新:2013/08/06)

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