本の万引き被害、年間192億円

2008年04月25日 12:00

書籍イメージ日本出版インフラセンターは4月11日、電子タグ活用調査事業の一環として、書店における万引きなどの調査結果の概要「書店万引き調査等結果概要」を発表した。それによると大手書店14社だけで年間の万引き被害額が約41億円と試算されることが明らかになった。これを元に全国の書店規模に算出しなおすと、実に年間192億円というぼう大な額になる。大手書店すらも経営に大きな打撃である額にのぼっていることから、万引き犯自身や周囲を取り巻く環境、さらには「万引き」という表現も含め、重要課題として注視すべき問題と思われる(発表リリース、PDF)。

スポンサードリンク

総売上の1.41%、全国で192億円が万引きの被害に

今調査は1月17日から2月8日までの間、大手書店14社計1161店舗に対しヒアリングの形で行われたもの。うち14社643店舗から回答があった。

調査店舗の総売上高は2909億1767万6000円。その他データを一覧にすると次のようになる。

・総売上額……2909億1767万6000円
・総ロス※額……55億6283万2000円
・1社あたりロス額……3億9734万5000円
・平均ロス率……1.91%
・概算全国書店総ロス額……261億7193万8000円

※すべて年間ベース
※ロス……「失われた書籍」。さまざまな理由で売り上げに計上できず行方不明になった書籍。本来あるべき在庫額から実際の棚卸で計測された額を引いたもの。


有効回答をした61店舗から万引きによるロス比率を概算する
有効回答をした61店舗から万引きによるロス比率を概算する
ロス率の73%
総売上の1.4%
全国年間で192億円が
万引きの被害に

このうち、伝票ミスや返品ができなくなって処分したものを除いたロス、つまり「現行犯で捕まえた万引きによるもの」「潜在的万引きによるもの(捕まえられなかったが、その他に事由が見つからないもの)」を合わせた「万引きによる被害額」の割合を有効回答店舗から比率を算出すると73.64%になる。つまり、ロス総額のうち73.64%、全体売上高の1.41%(=1.91%×73.64%)は万引きによるもの、と試算できる。

この比率で逆算すると、調査に応じた総売上額2909億1767万6000円の1.41%、つまり約41億円が万引きで失われたことになる。さらにこの「ロス総額のうち73.64%が万引きによるもの」という割合を全国書店総ロス額で換算すると、実に約192億7000万円が一年間で万引きされたという計算結果となる。

増加する換金目的の万引き

同調査報告では捕らえた万引き犯から得られた情報に基づいた、統計データも算出されている。それによると対象書籍は圧倒的に「コミック」が多く、冊数にして7割近く、金額で4割を占めている。対象が分かりやすい事、サイズが小さく「取得」しやすいこと、そして買い取りがされやすく相場も分かりやすいことなどが要因と思われる。

金額ベース
金額ベース
冊数ベース
冊数ベース

注目したいのは万引きの目的。「読みたかったから」が最も多く44.9%、ついで「最終的に古本屋で換金目的」が34.3%という結果が出ている。よく言われている「スリルを楽しみたい」は2.4%でしかない。

万引きした理由・目的
万引きした理由・目的

ただ問題なのはこれが「書店・警備会社での聴取」の結果によるものということ。図版や元資料にあるように、「読みたかったから」という回答に対し警察でさらに追求すると、その81%が「実は換金目的」と答えているという。つまり44.9%×81%=36.4%も実は「最終的に古本屋で換金目的」に該当するため、実に7割もの万引き犯が「最終的に新古書店での換金」が目的であると推測できる。


今回発表された資料は、万引き防止策の検討、特に電子タグの導入と業界の統一ルールの策定がメインであり、それを促すための実情把握として、万引きに関する調査結果が報告されている。いかに書店が苦労を重ね、わずかな利益ですら吹き飛ばされかねない万引き対策に頭を痛めているかが分かるだろう。また大規模な調査結果による万引きの実態判明という観点においても、価値の高い資料といえる。

【福岡県で万引き防止のため「販売証明シール」をレジで貼る試み】【万引犯6割が「分かっているけど」身勝手な気持ちで繰り返す・青森県の場合……だけ?】でも触れているように、最近では生活苦で万引きをするパターンはほとんどなく、遊興費稼ぎのために繰り返したり、果ては見つかっても親がしかることなく子どもを引き取るだけで、親も子どもも罪悪感に乏しい事例が増えている。これも万引きが一向に減らない大きな要因といえよう。

先の記事でものべていることを改めて。本屋などの店舗で商品を隠し持ち、代金を支払わずに持ち帰ることをマスメディアなどでは「万引き」と称しているが、法律上は立派な「窃盗」に他ならない。表現の差し替えが犯罪意識を軽くする手助けをしているのなら、出版業界自身も含め、まずは「万引き」という表現自身を改めるべき。「窃盗」という表現を用い、実際にそのペナルティを当てはめれば、子どもも親も罪悪感を認識せざるを得なくなるだろう。


(最終更新:2013/08/07)

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...

スポンサードリンク



 


 
(C)JGNN||このサイトについて|サイトマップ|お問い合わせ