非農業部門雇用者数データにみるアメリカ経済の現状

2008年03月08日 19:30

コラムイメージ先の【日本ばかりがなぜ下落……2007年以降突出して下げる日本株、今後はアメリカの減税効果に期待!? 】で少し触れた、3月7日に発表されたアメリカの2008年2月度の雇用統計について、あらためて見てみることにする。結果は「失業率4.8%(先月比0.1%改善)」「非農業部門雇用者数-6万3000人(先月-2万2000人)」。全体としての雇用者数減少幅は過去5年ほどの間では最大のもので、2か月連続しての減少は2003年5月から6月にかけて以来。なお事前のエコノミスト予想では2万5000人の増加だった(【発表ページ】)。

スポンサードリンク

「非農業部門雇用者数」とは農業従事者以外の事業所の雇用者数の割合。要は農家以外の働く人たちのこと。事業所の給与支払い帳簿に記載されている雇用者数でカウントされる。日本と違いアメリカでは雇用の柔軟性が高く、企業の業績が悪化するとすぐに雇用調整(レイオフ……一時帰休)で人減らしをする傾向にあるため、企業における景気感と雇用者数の連動性が高い。よって雇用者数の増減はそれぞれの企業の業績動向を見るのに良い指標となる。

失業率はやや改善・未成年者の失業問題は残る

まずは失業率。

失業率変遷
失業率変遷

失業率は成人男性・女性共に2007年12月をピークにやや改善する傾向にある。ただし報告書では「事実上誤差の範囲」とも述べており、もうしばらく様子を見る必要がある。

また「数字的に改善」はされているが、これが「農業に転職した」や「失業者が職探しそのものをあきらめた」ことによる減少の可能性も否定できない。失業率とは「仕事を失うことおよび働く意思も能力もあるのに仕事に就けない状態」にある人の、労働者人口全体に占める割合であり、「仕事探しをあきらめた」人は労働者人口からは除外されるからだ。

なお男女とも4%前半を維持しているのに全体で4%後半の値が出ているのは、全体統計では未成年を含むため。こちらはグラフがゆがむので表には反映させていないが、2008年1月で18.0%、2月で16.6%と高い値を示している。未成年者や若年層の失業問題は先進諸国共通の課題であり、アメリカでも頭を悩まさせる状況に変わりはないことが分かる。

部門別の雇用者数から見えるアメリカ経済の現状

続いて雇用者数の変遷。月別過去データは2007年12月以降しかなく、それより前は四半期ごとのデータなので、まず「2007年第3四半期から第4四半期の増減」と「2008年1月と2月における、前月比」を表組化する。なお項目は代表的なもののみ抽出した。

「2007年第3四半期から第4四半期の増減」と「2008年1月と2月における、前月比」
「2007年第3四半期から第4四半期の増減」と「2008年1月と2月における、前月比」

今年のデータはまだ2か月分しかないのではっきりとした傾向とは断定できないが、昨年後半からの推移と比較すると「非農業部門の民間全体の雇用情勢は悪化に転じている」「建設部門は昨年から引き続き軟調」「サービス部門では専門職の失業者数が増加中」などの傾向がうかがえる。

さらに今年1月と2月それぞれにおける、先月比の雇用者数の増減をグラフ化すると次のようになる。

非農業部門雇用者数について、2008年1月・2月の前月比
非農業部門雇用者数について、2008年1月・2月の前月比

全体数としてはマイナスであることに違いは無いが、部門別でかなりの違いが見て取れる。具体的に箇条書きにすると次のようになる。

・サブプライムローン問題で住宅がだぶつきニーズが減少していることもあり、去年から建設や製造業の失業は増加の一途をたどっている。
・景気後退の流れを受け、小売業の雇用情勢も悪化。また度重なる損失を受け、金融関連の雇用もネガティブなものに。
・教育、医療部門は堅調。
・レジャーや接客業の活況は目を見張るほど。
・政府関係者の雇用は増加中。


サブプライムローン問題やモノライン問題など、金融・住宅関連の経済不振、そしてそこから生じている事実上のリセッション(景気後退)の流れを受け、まず「それらの現場・最前線にある部門」で、そして「消費者の購買力の減少からあおりを受けた小売業」で大規模な雇用調整が起きているのが分かる。

一方、これら金融問題が生じる前から大きな課題として議論されニーズの高かった教育や医療に関わる分野では、新しい雇用機会が生まれ、雇用者数が増加している。また、レジャー、接客業の雇用者数も増えている。

特に宿泊施設や、レストランなどの外食業における雇用機会が急増しているのが注目に値する。これについては他のデータを参照する必要があるが、類似事例として、日本でも外食産業では新店舗の相次ぐ展開や顧客サービスの充実で売上をカバーしようとする傾向があり、雇用者数が増える傾向にある。アメリカの場合もそれと同じ理由の可能性が高い。もしそうだとすれば、一般小売業同様に外食産業も大変な時期を迎えているということになる。


「過去5年ほどの間では最大」「2003年5月から6月にかけて以来」などという説明が続くと、非常に大きな問題が突然発したようにも思える。しかし建設関係の雇用調整はすでに昨年から続いている話であるし、小売業の雇用者数減少も過去データを元引けば昨年後半からその傾向は見えていた(【詳細なデータの「Retail trade」の項目を参照のこと】)。何もこの一か月に突然空から降って沸いたわけではない。

住宅市場の現状や金融機関の決算、市場の状況を見るに、もうしばらく不調セクター、すなわち住宅・建設、小売、そして金融関係の不調と雇用調整は続くものと思われる。どのあたりが底になるのかは不明だが、先の記事にもあるように、減税の効果が出始める今年後半以降は明るい兆しが見えてくる可能性が高い。また状況がさらに悪化することになれば、金利引下げやさらなる減税、そして一部で検討されている公的資金の本格的注入もありえる。そうなれば劇的なトレンド転換を目の当たりにできるだろう。

一方でこのような状況下においても雇用機会を増やせる産業がいくつもあり、順調な伸びを示していることも注目したい。政府機関関連の雇用はともかく、レジャー・接客や教育・医療という分野は、アメリカ経済においては今後も注目に値するセクターといえよう。

なお今回の発表についてアメリカのポールソン財務長官は「歓迎できるものではないし良いニュースではない」とした上で、「驚きではない」こと、減税などによる景気対策や住宅ローンの支援策の効果が年内にも現れる見通しであることを明らかにしている(【ロイター伝】)。


(最終更新:2013/08/10)

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...

スポンサードリンク



 


 
(C)JGNN||このサイトについて|サイトマップ|お問い合わせ