「デイトレーダーはバカで浮気で無責任」と言いのけた「偉い人」の主張は正しいのか

2008年02月12日 06:30

株式イメージすでに多くのメディアで報じられているように、1月25日に経済産業省所轄の【財団法人・ 経済産業調査会】が開いたセミナー「会社は株主だけのものか?」において経済産業省の北畑隆生事務次官がデイトレーダーについて「最も堕落した株主」「バカで浮気で無責任」と評すると共に、デイトレーダーに向けては「配当を優遇する代わりに議決権の無い'無議決権株式'」が適していると主張した。今件について騒ぎが大きくなったことを受け、2月7日の記者会見でようやく同氏は謝罪している(【参照記事:朝日新聞】)。

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株価下落の要因足りえる発言の数々

同氏の講演については公式サイト上に【講演内容(PDF)】として掲載されているが、当然ながらこれら問題発言の記録は無い。ざっくりと削除したものと思われる(公的な議事録としてこれで良いのかどうかは問題視されるだろう)。参照記事などの資料を総合すると次のように評している。

■個人投資家のデイトレーダーに向けて
・もっとも堕落した株主の典型
・バカで浮気で無責任
・経営にまったく関心が無い
・競輪場か競馬場に行っていた人が、パソコンを使って証券市場に来た
・会社の重要な議決権を与える必要は無い
・配当を優遇する代わりに議決権のない'無議決権株式'を与えれば十分。それらをまとめて上場を解禁し、市場を作れば良い

■スティール・パートナーズに対し
・株主、経営者を脅すやから
・バカで強欲で浮気で無責任で脅す人
・七つの大罪のかなりの部分がある人たちがいる


「証券会社の自己売買部門への批判はないの?」「競馬競輪よりもパチンコの方が例としては良いんじゃないの?」「デイトレーダーはその言葉通り一日で売買終えるのが基本だから権利確定しないし配当は関係ないよ。言葉の意味、分かってます?」などのツッコミどころは満載。また、強欲云々はともかく「七つの大罪」という宗教的な概念を持ち出すのは非常によろしくないことをこの人は分かっているのだろうかなど、それこそ某名人のように毎秒16回の割合で「バカで無責任はどっちやねん」と突っ込まれても文句はいえない発言がてんこ盛り。案の定、デイトレーダーとして著名な【B.N.F.氏は冷ややかに(ZAKZAK)】「ただ本人が嫌いなんでしょう」とのみコメントしている。

トレードイメージ元記事では「激しく言い過ぎたかもしれない。講演会で眠い目をした人に難しい話をしているのだから、少しはおもしろく言わないと聞いてくれない。適切ではなかったが、そこだけ取り上げられるのは本意ではない」と反省と共に反論している。が、飲み屋での内輪話やサークル内のひそひそ話ではなく、日本をリードする経済産業省のトップクラスの事務次官官僚のトップである事務次官がその肩書きを用いて講演した場での発言なのだから、あきれ返る。「演出」というよりは「ひかえめなホンネ」と受け止められても仕方が無い。

だとすれば、政局の混乱や年金問題のごたごたより、国内外の投資家から「日本の経済を引っ張る人材は所詮この程度の認識しかないのか」と失望され、嫌気されるのは明らか。どうひいき目に考えてもプラスに働くとは思えない。ここではあえて略するが、同氏は以前から似たような「?」マークがダース単位でつくような発言を繰り返しており(天下り斡旋禁止の反対、良い会社はむしろ株主を軽視するなどなど)、日本の経済を任せるべき人材なのかどうか、その適正すら疑ってしまう人も少なからずいるだろう。

主張通りの「無議決権株式」がすでにあるけど、どうよ?

詳細なツッコミは他の報道に任せるとして、ここでは北畑氏が声高らかに主張していた「会社の重要な議決権を与える必要は無い。配当を優遇する代わりに議決権のない'無議決権株式'を与えれば十分」とする意見について考えてみる。要は「一日で売買終えるんだから議決権など必要ない。売買して儲けるための道具を与えればデイトレーダーには十分だろ、フフン」ということだ。

実は「無議決権株式」についてはすでに存在する。一番有名なのが、昨年7月に【伊藤園(2593)】が発行した【第1種優先株式(発表リリース、PDF)】。証券コードは25935になる(ヤフーファイナンスには未登録)。優先株式の概要としては「配当は25%アップ」「通常株式の配当が無い時でも、余剰金がある場合なら15円の配当を優先的に支払う」「議決権は基本的にナシ」というものだ。まさに北畑氏が主張した「デイトレーダー向けの道具」ともいえる(もちろん伊藤園側はそれを目的として優先株式を発行したわけではない。念のため)。

もし偉大なる北畑氏の主張・論理が正しいのなら、伊藤園の優先株式はデイトレーダーによって積極的に売買され、株価も通常株式よりグングン上がっていなければならない。

伊藤園の株式(2593)と優先株式(25935)、それに日経平均をチャート化。
伊藤園の株式(2593)と優先株式(25935)、それに日経平均をチャート化。ヤフーファイナンスは使えないので、【ブルームバーグ】のチャートセンターを利用。


……。出来高も含めて比較してみても、通常株式は日経平均といい勝負なのに、優先株は倍近い値下がり率を誇っている。出来高も優先株<<通常株という状態。ちなみに2月8日の終値は通常株で2135円、優先株で1555円。ディスカウント率は約-27.2%。8日の優先株の出来高は通常株の約1/10に過ぎない。

北畑氏の思惑に反し、株価も出来高も低調な理由を考えてみると、優先株式そのものの特徴が主要素だと思われる。株式の最大の特徴は「有限責任(株式取得分だけの責任しかない)の代わりにその分の議決権がある」点。その議決権が優先株式にはない以上、会社へのにらみは利かせられない。いわば「利子の分が配当に該当する、社債と似たようなもの」と思えば良い(特定事例下においてのみ議決権が発生する社債のようなもの)。

しかも会社に万が一のことがあった場合、弁済順位は通常の社債よりも低い(税金、従業員の給与、一般社債などの債権、劣後債権、そしてようやく株主の番となる)。伊藤園のような倒産リスクが低い会社ならそれなりに優先株式の意義はあるが、所詮「それなり」程度に過ぎない。

北畑氏の主張通り、デイトレーダー向けの「無議決権優先株市場」を作ったとしても、どのような判断を市場が下すのか。ディフェンシブ・安定銘柄とされる伊藤園ですらこのような状況なのだから……と考えれば、よい事例といえるだろう。

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