「安くても実はコスト高!?」 アメリカのバイオガソリン事情

2007年12月17日 06:30

バイオエタノールイメージ世界一の「原油」大飯食らい国家ことアメリカは、同時にバイオエタノール関連の技術や経験を急速に積みつつある国でもある。自国内に大量の原油生産地を持ちながら、それ以上の原油を消費する「原油輸入国」である以上、エネルギー戦略的な問題から「国内でまかなえる割合を増やさねば」と考えているからだ。ところがその「バイオエタノール先進国」になりつつあるアメリカで、いくつかの問題が起きているという(【参照:The NewYorkTimes】)。

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バイオエタノールに多く置き換えられた「E85」はあまり普及していない

アメリカで多く流通されているバイオガソリン(バイオエタノールを混ぜたガソリン。混ぜた分だけガソリンそのものを節約できる)は、10%ほど混ぜた「E10」と85%も混ぜた「E85」が主に流通している。バイオエタノールがあれだけ量産されているのだから、さぞかし「E85」も普及しているのだろうと思いきや、実はほとんど使われていないのだという。アメリカで使用されているバイオエタノールは「E10」と呼ばれる最大混合成分量が10%のもの。E10は一般販売されている自動車で利用可能。ガソリンの大気汚染に関する要素を減らす効力もあるので、主に大気汚染について問題を抱えている地域で販売されている。

「E85」は85%(実際には70~85%)ものエタノールを含むもの。もしこれが大規模に流通すれば、その分ガソリンの消費量を減らすことができるはず。しかし現実には、「E85」は人口密集地帯であるアメリカの沿岸部から外れた中西部でのみ使用可能な状態。これは後述するが、バイオエタノール・バイオガソリンの輸送コストが大きなネックとなっている。

バイオガソリン「E85」を取り扱うガソリンスタンド数。急速な伸びを示しているが、それでも大部分はアメリカ中西部にあり、全体数も少ない。
バイオガソリン「E85」を取り扱うガソリンスタンド数。急速な伸びを示しているが、それでも大部分はアメリカ中西部にあり、全体数も少ない。
「E85」を取り扱うガソリンスタンドの配置。人口密集地である沿岸地域から外れた場所にある。これではなかなか使用されない。
「E85」を取り扱うガソリンスタンドの配置。人口密集地である沿岸地域から外れた場所にある。これではなかなか使用されない。

そもそも「E85」を売っているガソリンスタンドが少ない。その数は3年間で285か所から1413か所まで増えたが、それでもアメリカ国内におけるガソリンスタンドすべての1%に過ぎないという。そして「E85」を利用できる自動車数(トラック含む)も600万台以上にのぼる。

その自動車は「flex-fuel cars」と呼ばれ、「E85」以下の混合率のバイオガソリンでも利用が可能。しかし販売時において、そのことを説明したディーラーが最近までほとんどいなかったので、ドライバーのほとんどが「自分の車が実はE85対応である」ということを知らないという。さらにそれでもアメリカ全体の自動車数からすればたったの2.4%でしかない。

ニワトリが先か卵が先か、そして燃費の問題

バイオエタノール精製工場イメージ「卵とニワトリの問題」。国家エネルギー政策委員会のエネルギーアナリストBrian Turner氏は、「E85」が普及しない理由をこの言葉で説明している。「E85が使用可能な自動車数が少ないので需要が増えない。だからE85を提供可能なガソリンスタンドが増えない。ガソリンスタンドが少ないので自動車数も増えない。この堂々巡りだ」。

さらに燃費問題も「E85」には存在する。「E85」は(ガソリンそのものの高騰もあり)通常のガソリンよりも安く販売されている。しかしE85の燃費は(エタノールそのものが純粋なガソリンより燃費が悪いため、エタノールを多く含むE85はレギュラー)ガソリンより悪い。自動車の条件次第では10~30%も燃費が低下してしまうという。

・バイオガソリンE85の事例
単価は13%安い
燃費は27%悪い
∴1割強の損

ある事例として元記事では「レギュラーガソリンは1ガロン3.13ドルかかる。でもE85は2.73ドル。1ガロンで40セントも節約できる。燃費の悪さはちっとも気にならないよ」と答える人の意見が取り上げられていた。しかし専門家の意見によれば、この意見は間違っているのだという。

さまざまな自動車で調査した結果、レギュラーガソリンから「E85」に切り替えると、平均で27%も燃費が低下するのだという。つまり同じ1ガロンでレギュラーガソリンが10キロ走行できるとすれば、「E85」では27%減の7.3キロしか走れないというこになる。事例の場合、13%のコストカットを目の前で実現して、実は燃費の面で27%ものコストアップをやらかしてしまっているわけだ。差し引き1割強の無駄使い、ということになる。

一部の業者ではさらに「E85」の価格を下げて、少なくとも「ノーマルガソリンとE85、どちらを使っても燃費は結局変わらない割合」になるよう努力している。これも「バイオエタノールの普及を一層推し進めるため」のものだとのこと。

小売の巨人が動くか、そして「E85」が普及しない最大の原因とは

バイオエタノールを用いたガソリンの普及でキーとなるであろう一つの要素、それは小売の王様ウォルマートにある。同社は自社流通網を用いて全国でバイオエタノールを販売しようと画策しているのだという。もしこの話が実働のものとなれば、大きな動きが「E85」にもたらされることだろう。

エタノールパイプラインイメージ「E85」の自動車やガソリンスタンド、販売地域がかなり限定される理由が、このウォルマートの動きとも関わってくる。それは「エタノールの高い運送コスト」に原因があるということ。通常の油と違い、エタノールを運ぶためには専用のパイプラインを作らねばならない。しかし専用パイプラインはほとんど整備されていない。生産地には山ほどのバイオエタノールがあったとしても、それを適切な輸送費で売りに出すため輸送手段がないという。これが現状におけるアメリカのバイオエタノール関連の問題である。

要は、バイオエタノールの単価が安いため「トラックや貨物列車で運ぶにしても生産地から遠いとコストがかさむ」「安価で運べるパイプラインは無い」、原材料も安いので「原材料を沿岸沿いに運んでその場でバイオエタノールを生産しようとしても、結局コスト高になってしまう(とうもろこしを運ぶパイプラインなど無い)」ということだ。

現在各機関がバイオエタノールの生産について見積もりをしているが、食料の生産計画に大きなひずみを生み出すことなくバイオエタノールの増産を図っても、せいぜい150億ガロンの生産が精一杯だという。これはアメリカ全体の使用ガソリン量の7%未満でしかない。つまりこれは「バイオエタノールをガソリン・原油の主要代替品として用いるためには、食料以外の原料を使って作り出していかねばならない」ことを意味している。食糧生産を減らしてまでバイオエタノールを増産したのでは本末転倒だからだ(しかしその本末転倒が起きているのが現状ではあるのだが……)

先に【バイオエタノールへの「疑問符・急加速へのブレーキ」と反論】でも伝えたようにアメリカでは「スイッチグラス」という雑草を大量に繁殖させてそのセルロースを用いてバイオエタノールを量産しようという計画がある。この手法なら、「7%未満」ではなく「1/3以上」はガソリンからバイオエタノールに置き換えられる可能性がある。このスイッチグラスに関する実験はすでに始まっているが、コスト面をクリアできるかどうかはまだ未知数とのこと。


エタノールの輸送手段とコストが、アメリカ国内におけるバイオエタノールの普及を阻んでいる最大の要因であることは、先日NHKなどで放送されたバイオエタノールのアメリカ事情でも強調されていた。ただでさえバイオエタノールは足りないというのに、輸送コストの問題から普及率が伸び悩むという状況にあるのは事実のようだ。

一番の解決策は「ガソリン使用量をもう少し減らしてみたら?」ということなのだが、今のアメリカにはそれも難しいだろう。ただ、先の【原油高騰がもたらしたもの・北海道産の石炭が再注目を集める】にもあるように、(さらなる)原油高が続けば、状況の変化が求められるかもしれない。「力づくでどうにかする」アメリカのことだから、恐らく国家プロジェクトでエタノールのパイプライン網を国内に張り巡らせるくらいのことはしそうだが……。

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