8月の新設住宅戸数、前年同月比43.3%減・過去最大の下落率

2007年09月29日 12:00

住宅イメージ国土交通省は9月28日、2007年8月における新設住宅戸数のデータを発表した。それによると8月の新設住宅戸数は前年の同月比で43.3%減の6万3076戸に留まり、過去最大の下落率となった。この下落について国土交通省では「主として改正建築基準法の施行(6月20日)の影響」と説明している(【発表リリース、PDF】)。

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具体的な内訳は31.0%、貸家は46.6%、分譲住宅は52.0%の減少。とりわけ分譲住宅のうちマンションは63.2%もの減少となった。

改正建築基準法の施行は、くだんの「姉歯建設設計事務所による耐震強度偽装事件」をきっかけに全国で多数発覚した耐震偽装の再発を防ぐためのもの。住宅を着工するのに必要な建築確認の審査を厳しくして審査期間も延長。さらに検査機関以外に専門家も確認するなど、複数のプロセスを経るようにした。

事件を教訓として安全な住宅を市民に提供するという志は立派であるし、業界そのものの改善にはプラスとなることは間違いない。だが、主に行政側の準備不足が目立ち今回の混乱、そして結果としての新設住宅戸数の減少をもたらしているのもまた事実。

新設住宅戸数の変遷
新設住宅戸数の変遷

数え上げればきりが無いが、制度そのもののフィックスが施行直前までなされなかったこと、制度改正の周知不足、さらには構造計算をするのに必要不可欠な「大臣認定ソフト」が事実上棚上げ状態にある(6月20日施行なのに、その仕様が固まったのが6月19日。しかもこれまで使われてきていた構造計算用ソフトウェアも改正によって認定が取り消されている)、行政側の判定員の絶対数不足で審査が追いつかないことなど、建設業界からは今年頭から、特に施行前後以降悲鳴が上がっている。とりわけ中小の建築士や設計事務所は対応に苦慮しているという。

耐震強度偽装問題を教訓にした
「改正建築基準法」の施行
→制度そのものはともかく
事前準備と告知がダメダメ
→(1)建築業界内で対応に苦慮
(2)行政も対応力不足
→申請が通らず新築戸数が激減

似たような話は来月から施行される金融商品取引法に絡み、証券・保険業など金融業界でもいわれているが、建設業界における改正建築基準法の行政側の準備不足や対応のまずさはケタ違いのように見受けられる。行政側も判定員を9月から400人追加するなど対応策を打ち出しているものの、二歩も三歩も出遅れている感は否めない。

国土交通省では同日、住宅着工に一か月ほど先行するといわれている建築確認件数も発表している(【発表リリース】)。これによると全体では5月が前年同月比で7.5%マイナスだったのに対し6月は10.7%、7月に入ると大きく下がり39.3%、8月には24.3%それぞれマイナスを記録している。このデータを見ても、しばらくは新規住宅の建設は冷え込むことが容易に想像できる。

今回の改正建築基準法施行によって、民間の検査機関では仕事の多忙から「お手上げ状態」「しばらくは新規の仕事は受け付けない」という状況にあるところも多く、公的機関でも長蛇の列が出来、申請すること自体が困難であるのに加え、不備を指摘され受理されない(つまり計算のやり直しを余儀なくされる)ことがほとんどだという。中には「並んでもどの道受理されないのだから、体制が整うまでしばらく新規申請はストップ」とあきらめ、申請自身を停止している業者もいるとか。

国土交通省から今回発表されたデータは、改正建築基準法施行の影響の大きさを改めて知るものとして注目されている。特に国土交通省の事前準備の不備への指摘が多い。期間が今年一杯で済むのか、それとも来年まで引きずるのかは不明だが、ここしばらくは建設業界にとってきわめて多忙で頭痛に悩まされる日々が続くことだけは間違いない。

●改正建築基準法への体制が
業界全体で整うまで
・新築住宅の建設は難しい
・中小の建築事務所の淘汰?
●さらに……
・業界内の大規模な再編も
・住宅価格の高騰の可能性

繰り返しになるが、建築基準の厳密化とそれによる「一層安全な住宅の提供」が実現するのなら、これほど素晴らしいことはない。しかしその体制に移行するための手際が悪すぎて、結果として住宅・建物価格が想定以上に高騰したり、建築業界を支える中小の設計事務所や建築士がお手上げ状態や廃業に追い込まれるのでは本末転倒。病んでいる患者にいきなり劇薬を与えては身体がもたないのと同じなのかもしれない。

一方で、これからしばらく続くであろう「冬の時代」の中で、建築業界内でも能力不足の建築士は自然に淘汰され、逆に有能な事務所や建築士にはより良い報酬が支払われるようになり、結果として精鋭が揃うのではないかとする意見もある。改正建築基準法施行という氷河期時代を乗り切り、ほ乳類のように次世代を生き延びて反映することができるのか、ナウマン象のように滅びてしまうのか、それぞれの努力と知恵にかかっているといえよう。……それまでの間、一番割りを食うのは住宅を供給される側である一般消費者であることに違いはないのだが。

ともあれ、今後しばらくは国土交通省の各種発表、直近では10月31日発表予定の9月分新設住宅戸数を注目しなければなるまい。下手をするとアメリカの住宅ローン「サブプライムローン」同様、日本でも「改正建築基準法施行」をきっかけとした、何らかの衝撃が起きる可能性もないとはいいきれないのだから。

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