30センチ? 3メートル? 「たばこの煙」とその害はどこまで届く?

2007年05月24日 19:35

たばこイメージ先日本業の上司から保険の講演会に関するパンフレットを見せてもらったのだが、そこに書いてあったことに思わず腰を抜かすほど驚いた。いわく、「たばこの副流煙は70メートル先まで届く」というものだ。第三者に悪影響を及ぼすことで知られているたばこの副流煙が吸った本人から70メートル先まで影響を及ぼすとは……でもこれ、本当なのだろうか。早速、調べてみた。

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副流煙とは

まずは言葉のおさらい。喫煙者が直接吸うたばこの煙は「主流煙」。これに対し、そのたばこの先から立ち上がる煙のことを「副流煙」と呼んでいる。さらにたばこを吸っている人が吐き出した煙を「呼出煙」と呼んでおり、後者二つを合わせて「(環境)たばこ煙」と呼んでいる。つまりたばこの煙は「主流煙」と「たばこ煙」(=「副流煙」+「呼出煙」)から構成されている。

ちなみにたばこを直接吸う人の喫煙を「能動喫煙」、吸うつもりがないのに「たばこ煙」で吸っている状態になってしまう人の”喫煙”を「受動喫煙」と呼んでいる。つまり自分ではたばこを吸っていないのに、周囲の人がたばこを吸っているだけで、たばこによる悪影響を受けてしまうということだ。

厚生労働省のデータによると、主流煙と副流煙(≒たばこ煙)の有害物質の量については、よく知られていることではあるが、はるかに副流煙の方が多い。タールで3.4倍、ニコチンで2.8倍、アンモニアで46倍、一酸化炭素で4.7倍、(厚生労働省編纂「喫煙と禁煙 喫煙と健康問題に関する報告書」から)に及ぶ。主流煙がそのまま吸う人の口に入る、副流煙が周囲に拡散しながら広がるにしても、大きな差であることに違いはない(【財団法人健康・体力づくり事業財団HP「健康ネット」】にはもう少し詳しいデータが載っている。例えば発がん性物質のジメチルニトロソアミンは、副流煙では主流煙の19倍から129倍という数字が出ている)。

「70メートル」の根拠を探す

たばこイメージ手元にある資料中の「たばこの副流煙は70メートル先まで届く」という記述は、あくまで「そういう話がある」ということで、科学的見地や裏づけは書かれていない。70メートルといえば50メートルプール1つ半くらいの長さ。JRの主力車両の長さが20メートルなので、「通勤電車の先頭車両の一番前でたばこを吸われると、4両めの半ばくらいまでの距離」ということになる。本当なら冒頭の表現にあるように「腰を抜かしてしまう」ほどだ。しかし類似キーワードから探してみたが、関連機関による調査データなどは見つからなかった。

唯一確認できたのは【万歳!映画パラダイス~京都ほろ酔い日記】にある、医学ジャーナリスト・植田美津江氏の発言。ここには「副流煙から逃れるための距離は?と聴衆に尋ねる。答えはなんと70mだった」という表記が見られる。要はこの人の主張のようだ。

もっと詳しいことを確認するため、【本人の公式サイト】をたどってみたのだが、現在アクセスができない状態。アーカイブで過去データを確認したが、関連しそうな事項は見つからなかった。

一人で直径14メートルの円周内、複数ならばその数倍!

さらに調査を進めていくと、去年の春先に【日本禁煙学界】から発表された【屋外における受動禁煙防止に関する日本禁煙学会の見解と提言】という資料が見つかった。これによると、

無風という理想状態下で、ひとりの喫煙者によるタバコ煙の到達範囲は直径14メートルの円周内である。複数の喫煙者が同時に喫煙する場合は、この直径が2~3倍以上となる。


と記されている。仮にすべての数字を最大限にとった場合、14×3=42(メートル)ということになる。さすがに70メートルには及ばないが、直径42メートル、つまり中心(たばこを吸っている本人)から21メートル離れなければ副流煙の影響を受ける計算になる。先の例なら「電車1両丸まる納まる距離」だ。

「70メートル」という根拠は見つからなかったものの、少なくとも「20メートル以上」ということは確かなようだ。


調査の過程で見つかった論文や報告書では、20メートルや70メートルという具体的な数字はさておき、「分煙はよほど大きなスペースをとり密閉化しないと効果が薄い。特に公共機関や施設では完全禁煙が一番」とまで言い切っている。

当方もかつて大気汚染を原因とするぜん息を発症していたため、今でも気管支が強くなく、たばこの煙には弱い方。入院の際に同席していた患者の一人が「ニコチン大王」と心の中で命名したほどのたばこ中毒者だったため、その行動をつぶさに見てきたおかげでたばこの怖さをあらためて思い知った経験もある。

喫煙者に話を聞くと、たばこを吸うことで精神的安定を保てるようになるなど、特にメンタル面でのプラスがあるとのこと。この点については調べる余裕はないが、恐らく一つの事実なのだろう。とはいえ、それ以上に具体的な、マイナスのデータ、しかも本人だけでなく第三者にも影響を及ぼすものが出ている以上、「吸うな」とまでは言わないが「十分以上に注意しようね」という言葉をかけたくなるものだ。

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