「日本人のがんが増えているのは食習慣と運動習慣の変化」にセミダウト

2007年04月28日 19:35

医療イメージ「社会的権威や著名な人たちの意見でもダウトはダウトだ」と身の程知らずな当方(不破)の暴走気味企画「ダウトな奴ら」(いつそんなコーナーを作った)第四弾。先日、上場企業の【オールアバウトジャパン(2454)】のサイトに掲載された【原因は何? 増加し続ける日本人のがん】にダウト。ただし、半分は合っているので”セミ”ダウトとしよう。「半分ダウト」ではマヌケだし、「ハーフダウト」では健康食品の名前にも読めるのでこの名称にした。

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「がん」増加は食習慣と運動習慣のせいだけ?

「原因は何? 増加し続ける日本人のがん」では「最近は日本人の死因の第一位はがん。1980年代以降この傾向は変わらない」とした上で、「食習慣と運動習慣が変わったから、がんにかかりやすくなった」とし、食習慣を改善しよう、運動を積極的に行おうと結論付けている。

食習慣の改善と運動の促進はきわめて素晴らしいお話で、最近気になるキーワード「メタボリック症候群」対策にも有効な生活習慣改善の手法。がんに関する話でなくとも、ぜひとも元記事にあるような食生活を心がけるべきだろう。

この「戦後日本における食習慣と運動習慣の変化が、日本人のがん発病率と死亡率を高めた」とする説は、この元記事だけでなくさまざまな番組でも主張されている。別の機会に聞いたことがある、という人も多いだろう。

しかしそれだけだろうか。本当に「食習慣と運動習慣のせい」だけなのだろうか、がんの発病率が高まったのは。

「がん」とは何か

ここで一度、「がん」とは何かを再定義してみる。「がん」とはさまざまな分類方法があり、「ガン」「癌」「悪性新生物」などさまざまな表記が行われる。せっかくなので以前「郵送検診」関係で調べた文章(【がん総合検診】)を抜粋すると次のようになる。

「がん」とは悪性腫瘍(あくせいしゅよう)のことで、DNAの病気ともいわれています。DNAがトラブルを起こすことで細胞が突然変異を起こしてしまうのです。発生した臓器や組織による分類が行われています。国レベルでがんに対する研究を行っている国立がんセンターでも、発生した部位による分類がなされています。基本的にがんは、すべての臓器や組織に発生しえます。


がんには大きく分けると「造血器(血を作り出す部分)由来のもの」「上皮細胞からなるがん(癌腫)」、「非上皮質性細胞(間質細胞:支持組織を構成する細胞)から成る肉腫(にくしゅ)」に分類されます。また、まれにですが一つの腫瘍の中で複数の原因に発するものもあります。がんの発生頻度は癌腫の方がはるかに多いようです。

ここではがんをすべて平仮名の「がん」と表記してありますが、悪性腫瘍全体の場合に平仮名表記を用い、「上皮性腫瘍(癌腫)」の場合は「癌」と漢字表記を用いる場合が多いようです。

がんはDNAのトラブルから引き起こされるものですが、そのきっかけとなるものはさまざまです。たばこ、食事、性行為、環境汚染、感染、職業環境、放射線、工業製品、食品添加物、アルコールなどなど、身体に良くないと言われているあらゆるものがその原因となりえます。

ただ、DNAの仕組みや働きについて分かっていないことがあまりにも多いのと同様、そのDNAが原因とされるがんについても、確定した原因がつかみきれていないのも事実です。世間一般に言われていることすべてが実際にがんに直接結びついているわけでもないのは難しいところです。例えば日本人に大変多い胃がんについて、塩分の摂取量が多いとかかりやすいことが調査結果から明らかになっています。とはいえ、塩分の過度摂取がなぜ胃がんと結びつくのか、その理由は解明されていないのです。科学的・医学的な研究はもちろん、経験則など過去のデータを参照した上での統計学的な調査が今も続けられています。


つまり「がん」とは、細胞の再構築を指示する頭脳的役割を果たす(細胞再構築の設計図を持つ)遺伝子が、数十年に渡って傷つけられ、その結果エラーを起こして(設計図にミスが取り返しのつかない生じて)、異常な細胞が増殖するという症状なのである。

がん発症率のカラクリ

この「遺伝子へのダメージ」は放射線などで短時間に蓄積し、がんが発生する場合もある。その一方、通常では十年単位で累積されていき、ある日そのリミットを超えて発生する「場合がある」。要は、がんとは数十年もの潜伏期間を持つ病気であると共に、歳が経てば経つほど発生しやすい疾病でもある、ということだ。

サイコロイメージ確率論的にきわめて大雑把に例えれば、毎年一回4つのサイコロをいっぺんに一度だけ振る。その時に全部「1」がでたらその年にがんにかかる、という感じだろうか。10歳の子どもなら10回しか振る機会がないので、確率は10/1296(∵6×6×6×6)。0.8%。

しかし実際にがん発生率が急増する40歳にもなると、振る回数は4倍に増えているから、それまでの(つまり生まれてから40歳になるまでの)「毎年のがんチェック」で一度でも発症する確率は3.2%にまで増える。サイコロを振る回数が4倍に増えるのだから発生する確率も4倍に増えて当然だ。

それだけではない。歳を経るにつれて細胞の老朽化・遺伝子のダメージは増えていくので(年数経過と共に、再生を繰り返しても細胞そのものが老齢化するのは誰もが知っていること。そうでなければ人は不死身になってしまう)、この「発病チェック」は基準がゆるくなる。さらに「オールアバウト」の記事でも指摘しているように、「食生活や運動生活の変化」が遺伝子の痛め具合を加速している「らしい」というのも確かな話。

かくして「毎年のがんチェック」のサイコロふりは、「全部1だけではなく、一つだけなら1以外に3でも発生」「全部1、ただし一つだけなら1以外の奇数でも発生」という形で、少しずつハードルが低くなっていく。

例えば40歳以降は「全部1だけではなく、一つだけなら1以外に3でも発生」と仮定しよう。この場合、41歳~50歳までの10回分は、10/1296+1/1296(「1・1・1・3」の場合)×10で、1.6%。40歳分までの3.2%とあわせると、4.8%。この仮定だと「50歳までにがんが一度でも発症する可能性」は4.8%となる。

ここまで説明しておわかりだろうか。繰り返しになるが単純計算でも、がんは歳が経てば経つほど(新たに)発生しやすい疾病である。そして歳が経てば経つほど、一定期間における発症確率も高くなるので、その確率はグンと跳ね上がる。そしてもちろん、一度発症した人でも「がん発生チェックのサイコロ」は振り続けねばならない。

そして日本は「高齢化が進んでいる」。結論として、がん発症率の高い高齢者が増えれば、全体としてがん発症率がかさ上げされるのは、当たり前のことなのだ。

がん発症率の増加は「食習慣と運動習慣」そして「高齢化」

日本の人口構成が逆ピラミッド型、つまり「お年寄りが多くて若者が少ない」という構造になりつつあるのはすでに何度と無く報じられている。誰もが耳にしていることだろう。お年寄りが多いということは、それだけ「新たに」がんにかかる人が多いことでもある。

【国立教育政策研究所による分かりやすい、日本の人口ピラミッドの変遷】を見ればお分かりの通り、戦後若年層が多かった(がん発症確率の低い人が多い)日本の人口構成も、次第に高齢化が進んでいる。

左から順に1950年・2000年・2040年の人口ピラミッド。縦軸が年齢(下が0歳、上が80歳以上)、黄色が男性、赤が女性。1950年はきれいなピラミッド型をしているのが、2000年にはバランスが崩れ、2040年には医学の進歩などで超高齢化社会(80歳以上が多いのでグラフが突き出ている)が到来しているのが分かる。
左から順に1950年・2000年・2040年の人口ピラミッド。縦軸が年齢(下が0歳、上が80歳以上)、黄色が男性、赤が女性。1950年はきれいなピラミッド型をしているのが、2000年にはバランスが崩れ、2040年には医学の進歩などで超高齢化社会(80歳以上が多いのでグラフが突き出ている)が到来しているのが分かる。

すでに2000年の段階でピラミッドというよりはひょうたん型になっているが、さらに年が進めば完全な逆ピラミッド型になるのは明らか。こうなると、年齢構造を起因とする「発症チェックの積み重ねでがんが発症してしまった人」が増えるのは今後も続くことは明らかといえるだろう。

つまり、戦後日本人のがん発病率が増えたのは、「食習慣と運動習慣」だけでなく「高齢化」によるもの、という考えが正しい。食生活や運動傾向が変化したことが「がん」のリスクを高めた原因なのに違いはないが、それだけが原因でもない。

ちなみにアメリカではがんによる死亡率が減少している。これはアメリカでは日本で認可されていないさまざまな治療薬が用いられているから……という話もあるが、むしろ移民や高い出生率で「がん発生率が低い」若者達の全人口に占める割合が大きいから、というのが正しい見方だろう。

「がん」は不治の病ではない

「生活習慣や運動習慣を改善しても、寿命が延びればがんにかかる可能性が高まるのでは、どうしようもないではないか」と、まるで【どこかの上場企業の役員が吐いたような】愚痴をこぼし嘆く人もいるだろう。そこで最後に、希望となるデータをいくつかあげておく。

まず先日厚生労働省が発表した統計データ。日経新聞などにも解析記事が出たので目を落とした人は多いだろう。ネット上には4月26日に掲載された【都道府県別にみた死亡の状況―平成17年都道府県別年齢調整死亡率の概況】によれば、がんを含めた三大死因となる疾病での死亡率は減少しているという結果が出ている。

厚生労働省の最新データによる、三大疾病を死因とする死亡率。上が男性、下が女性
厚生労働省の最新データによる、三大疾病を死因とする死亡率。上が男性、下が女性

つまり「がん」にかかっていることがわかっても、イコール不治の病、というわけではないのだ。むしろ最近では昔と比べればさまざまな検査体制が整い初期段階での発見も比較的容易になっているし、もしがんが見つかっても数多くの治療法方がてぐすね引いて待っている。必ず治る、というわけではないが、完治する確率は随分と上がっている。少なくとも発見されずに長い期間が経過し、気が付いたらもう手遅れ、という目も当てられない状況は確実に減りつつある。


日本人のがん発症率は確実に上昇している。これは先に紹介した厚生労働省の報告書にもグラフつきで表されているので、一目瞭然。そして「食習慣と運動習慣の変化」によるところが少なからずあるのも事実。しかしそれだけが原因ではなく、そもそも論として「日本人が長生きをするようになったから」という理由があり、恐らくはこれがもっとも大きな原因なのだろう。厚生労働省のデータには「年齢別」のがんによる死亡率データがないので、検証ができないのが残念だ。

ともあれ、「がん」というビッグモンスターの存在に恐れおののく日々を過ごすだけでは能がない。がんのことを学び、「食習慣と運動習慣」を改善し、さらにたばこをひかえ(できれば禁煙し)、定期的に検診を受けて初期発見ができるよう心がける。そして万一発症が確認されても確実に最良な治療が受けられるよう、十分な蓄財をしておくか、がん関連の保険に入っておくこと。だれにでも出来る、それほど難しくないお話だ。

というわけで、がんの増加を「食習慣と運動習慣の変化」とするお話には「セミ」ダウト、としておこう。

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