不確定性原理とテクニカル理論

2006年01月14日 08:30

量子力学の定理の一つに「不確定性原理」というものがある。素粒子のレベルでは観測行為そのものが測定結果の影響を及ぼしてしまうので、測定精度には上限が生じるというもの。

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これと同じような考えで、かつ結果はまったく正反対の事象が投資におけるテクニカル理論には当てはまるのではないかと考えるようになった。つまり、ある特定のテクニカル理論は観測者ならぬ「信奉者」が多ければ多いほどその信奉者による売買がテクニカルの結果に(精度を上げる)影響を及ぼし、精度が上がっていくというもの。

ある理論は過去のデータから導き出されたものがほとんどだが、最新のデータを取り込んで日々進歩する類のものはあまりない(ベイズ理論を導入しているのなら話は別だが)。過去10年間のデータから編み出されたテクニカルな公式が今後10年間も有効かは、10年経過してみないと分からない。そしてよほど「許容範囲・解釈の領域の広いもの」か「普遍的なもの」で無い限り、10年も通用しうるテクニカル理論はまず存在しない(探せばいくつかはあるだろうが……)。世間一般に公開されない限りは。

だが、世間一般に公開され、多くの人に信じられることにより、テクニカル理論は信憑性を帯びてくる。なぜなら、その理論の支持者、つまり「信奉者」が多ければ多いほどそれに追随した売買が行われ、その傾向に基づいたチャートが形成されるようになる。精度が高まればますます信頼性が高まり、多くの人がその理論を頼るようになる。結果として、加速度的・相互作用的に、それこそ幾何級数的(一定の数を前の数に乗じて得られる数列)に、精度があがり精度や確証度が高まることになる。

たとえを一つ挙げてみよう。あるテクニカル理論でA銘柄が毎年10月は必ず1000円まで上がると結論付けたとする。8月の段階では500円に過ぎない。ファンダメンタルや別のテクニカル理論、その他さまざまな自己判断を用いている人のほとんどは、A銘柄が急騰するとは思わない。だがこのテクニカル理論を信じている人は「10月に1000円になるのなら、今はお買い得だ」と判断し、買いを入れることだろう。信奉者が少なければそれほど株価に影響は与えないが、これが大量の信奉者による買い注文が入れば、論理的に「1000円未満で買えれば儲かる」のだから、そこまで値はつりあがることになる。

一度上昇を始めれば、このテクニカル理論を知らない人も「提灯がついた」ということで買いに乗る。かくしてA銘柄の株価は急上昇をはじめることになる。無論、1000円「まで」をその理論では提示しているが「それ以上行くぞ」と思う人もいるし「皆が1000円と思っているのだからそれ以前で売り逃げないと」という思惑も出てくる。かくして1000円前後でのもみ合いが見受けられる。

似たような傾向は、TOBで価格が設定された直後にその銘柄での値動きが、前後でもみ合われるようすでも見ることができる。

もちろん市場そのものはきわめて巨大かつ広大なため、一つの理論ですべてが左右するほどにテクニカル信奉者が増えることなどはありえないが、ある特定条件下においては「それらしい」動きを見せることが多々起きるようになる。

「不確定性原理」では観察者の行為そのものが精度を押し下げる結果を導き出してしまうが、テクニカル理論の場合はまったく逆に観察者(=信奉者、利用者)が理論の精度をかさ上げすることになる。

だからこそ各テクニカル理論の提示者やテクニカル技術を用いたタイミング判定ソフトウェアの開発元は、持論の信奉者を増やそうとする。信奉者が増えれば増えるだけ、持論の理論が「正しい」ことが形成されていくからである。

当然この傾向を頭に入れた上で、「そのような動きがあるのなら、どのあたりまで上下するかはある程度予想がつく。ならば信奉者が売り買いを転じる前に逃げるのはどうか」と考える人もいるだろう。かくして人間の駆け引きを考慮した心理学(ゲーム理論でもいいが)が重要視されることになるのである。こういった売買の手法も結局は、そのテクニカル理論の精度を高める行為になるのだが……。

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