耐震強度偽装問題とハンドルネームと「りびんぐゲーム」

2006年01月06日 23:59

「りびんぐゲーム」イメージ当サイトはどちらかというとインターネット技術や株式・金融関連の情報配信が中心なのだが、なぜか姉歯元一級建築士らによる耐震強度偽装問題については何度と無く報じている。その関連性に関して「どうして?」という問合せがいくつかあった。幸いにも(苦笑)時間が多少持てたこともあり、この機会に絡めてみようと思う。

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理由の一つは、上場会社のシノケン(8909)が一部関係していたことから。今や手が届かなくなったが、数年前には監視もし、購入を検討していた銘柄だった。だからこそシノケンの名前が挙がった際には驚きもし、関心もそそられた。

そして元々父親が建築関係(とはいえ設計ではなく重機を使って現場で働く方だが)に従事していたこともあり、幼いころから何度と無く住宅やビルなどの建築現場を訪れ、「現場」の空気を吸う機会があったから。結局建築関係の仕事に就くことはなかったが、プラモデルや鉄道模型などもあわせ、物を作ることへの感心は高い。

「りびんぐゲーム」イメージそれらと同じくらい重要な理由が、自分のハンドルネーム「不破雷蔵」の由来でもある、ある漫画のテーマとクロスする部分があったからだ。もちろんもうお分かりだろう、星里もちる氏による『りびんぐゲーム』である。

バブル全盛期に連載が開始されたこの漫画。住宅というリアルな意味と、人と人とのつながりや心の通わせあいという精神的な面の両面から見た「居場所」を追い求めるというテーマにそって描かれたストーリーなのだが、人気による連載の長期化も相まって、連載途中でバブル経済が崩壊し、当初予定されていたストーリーとは違う形で終焉を迎えることになった(と連載終了後の作者談として語られている)。

「一角(いずみ)ちゃんカワイイ★」とか人物像やストーリーそのものはさておき、この漫画には実に多くの「問題物件」が登場する。物語が始まっていきなり主人公の不破雷蔵氏(苦笑)の勤める会社が入るはずだった高層ビルが、ピサの斜塔のように傾いてしまう。曰く、「凝固材の注入不足かなんかでしょう」「群発地震が続きましたからねぇ」。

色々あって主人公らが引っ越すことになったマンションも問題が山盛り。雨漏りはするわ防音対策は不徹底だわあげくの果てにちょっとした地震で建物がきしみ、外に出られなくなる始末。

特に物語の後半では主人公が(建物に祟られたような自分のいきさつを活かすかのように)建築士を目指すこともあり、「当時の」業界内の実情が色々と語られる科白が出てくる。例えば後に主人公の先輩建築士になる杉田建築士は自分が設計した(主人公が住んでいる)欠陥マンションを指し主人公に、

たしかに設計したのはこの僕だ。
しかしだな、設計したとおりの建物が立つとは限らんのだ。


と語っている。そしてそのすぐそばにいる工務店(工)の社員とオーナー(オ)が

工「すみません、オーナーがどうしても安く安くとおっしゃるものですから。とりあえず少し勉強させていただきました」
オ「失敬な! それではワシが金を出すのをケチッたみたいではないかね」
工「ですから私共はオーナーのご希望にとりあえず沿う形で」
オ「だいたいきみのところが安く建つ、安く建つと言うからワシは金を出したんだ! それなのにこのワシのせいにする気かね、それでもプロか、この能なし!」
工「能なし……ですと」
工「だいたいオーナーが設計なんて無視しろとか、建ちさえすればいいから安くしろとか勝手なことばかり言うからこんなことに」
オ「なんだとー、きみのところが安く建つ安く建つと言うからワシが金を出したのにこの能なし!」


と掛け合い漫才(?)をはじめる始末。杉田設計士もこれにはあきれ果て、

ようするにコミュニケーションがうまくいっとらんのだな、この業界に未来はない……


とまで嘆く始末。

……あれ。オーナーと工務店、設計士(建築士)の立場や善悪は多少違えど、現在進行中の耐震強度事件とかぶさるところが多くない? と気がついた。確かに当時から、建設業界内ではこのような話は(特にバブル崩壊前後では)多く見受けられてはいた。だからこそ、建設関連銘柄は十二分に調べて問題のないところのみを監視したわけでもあるのだが。

元々「りびんぐゲーム」は連載当初から愛読し、単行本はおろか後になって再編集された文庫本化されたものまで全部そろえているくらいのもの。気にならないはずがない。状況が幾重にもかぶって見えてくる。

それにしても、連載開始が1990年10月、単行本の第一巻が発売されたのは1991年9月。その当時から業界は大して変わっていない、自浄効果は働いていない、ということなのか、と一連の耐震強度偽装問題の記事を、心の奥底で悲しみを覚えつつ書く自分が居る。

いつぞやの記事でもさらりと触れたが、知人の業界関係者の話では、元々ある程度の手抜き、というか省略は昔から日常茶飯事のことだったらしい。だが「りびんぐゲーム」で語られているようなレベルのものや、昨今の耐震強度偽装事件のような、命に関わりかねない部分は決して手をぬかず、逆に必要以上に手を込めて行っていたとのこと。時代の流れと世代継承の中で、重要な部分が継承されず、手抜きの部分・楽をできる部分だけが引きつがれてしまったようだ。

「りびんぐゲーム」では他にも知名度だけでイカれた(失礼)デザイン建設をしているデザイナーを一喝するような場面や、土地や相続の問題など、住宅事情について色々考えさせられる話が登場する。また、建設関係以外でも、さる近未来SFアニメをきっかけに流行りだした「自分の居場所探し」にも通じるテーマが語られている。それらの点もあわせ、「りびんぐゲーム」は今でも通用する、いや、今だからこそ読み直す価値のある一作といえるだろう。

(最終更新:2013/09/19)

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