みずほ証券の大量誤発注問題に見る疑問・問題点(追記記事あり)

2005年12月10日 23:59

結局12日月曜も売買は停止されそうな、みずほ証券の誤発注売り注文によって大量の「存在しない株式」を空売りされた形となったジェイコム(2462)株式。事件当日の12月8日以降、当事者のみずほ証券などの記者会見で少しずつ事実が判明してきているが、同時に疑問点(というより問題点)もいくつか沸いてきた。ここで覚え書きの意味も含め、簡単にまとめてみることにする。

スポンサードリンク

ヒューマンエラーがどうとか、警告メッセージがどうとか、東証にストッパー機能が無かったとかいう問題はこれから少しずつ明らかにされてくるだろう。また、8日の取引の結果をもとにした13日の現物引渡し日までにどのような処理がなされるのかは一両日中に決定されるものと思われる。恐らく【ジェイコム(2462)株式、強制決済の方向で東証検討】にあるように、解け合いの手法を用いることになるのだろう。プレミア次第ではみずほ証券の損失は先に発表された270億円をはるかに上回る額になる可能性が高い。

さて、現在において、記者会見の中継などもあわせ、開示されている情報からの問題点は次の通り。

(1)自己売買取引による買戻し
(2)空売りの制限単位数を超えた空売り
(3)情報開示の問題(大株主にのみ先行して開示していた)


ます(1)「自己売買取引による買戻し」。誤発注の取り消しができなかったみずほ証券側では慌てて買い戻しを決定し買い注文を入れ、46万7000株を買い戻し、その後も買い集めを進めている。いったいどれだけ買い戻せたかは公表されていないが、仮に12月8日に成立した取引すべてがみずほ証券によるものだとしても、56万4000株にしかならず、まだ4万6000株程度市場に残っていることになる。実際には10万株前後におよぶだろう。

「誤発注取り消しができなかったから買戻しを決定し」とあるが、これは寄り付きの売買取引で61万株の売りと46万7000株の買いを「みずほ証券が同時に」行ったことになる。これは自己売買取引、俗に言うクロス取引に他ならない。

クロス取引とは税務上のメリットを見出すためによく行われる手法で、株式を市場で売却すると同時に同数の株数を買い戻す取引のこと。言い換えれば、同一日同一時間に同一銘柄の売り買いが成立する取引のことであり、「仮装取引」ともいわれる。売却価格が新しい取得価格となるので、税務上有利になる。また「優待取り」の際にもよく用いられる。

だがこのような売買は、相場を意図的に変動させる、あるいは一定の価格に固定させる行為にもあたるため、公正な価格形成を妨害し投資家の利益を損なう行為として証券取引法第157条にて禁止されている。もっとも罰則は(第197条によると)5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金なので損失額と比べたら大したことではないが。

●不公正取引行為の禁止(証券取引法157条)
1.有価証券の売買その他の取引又は有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等、外国市場証券先物取引等若しくは有価証券店頭デリバティブ取引等について、不正の手段、計画又は技巧をすること。
2.有価証券の売買その他の取引又は有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等、外国市場証券先物取引等若しくは有価証券店頭デリバティブ取引等について、重要な事項について虚偽の表示があり、又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実の表示が欠けている文書その他の表示を使用して金銭その他の財産を取得すること。
3.有価証券の売買その他の取引又は有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等、外国市場証券先物取引等若しくは有価証券店頭デリバティブ取引等を誘引する目的をもつて、虚偽の相場を利用すること。


また、証券取引法の第159条「相場操縦的行為の禁止」に該当する可能性も捨てきれない。こちらも罰則は同じ。

どのような事情があろうとも、あれだけおおっぴらに「自己による同額での売買同時取引」を認めているのだから、何らかの対応があってしかるべきだろう。


続いて(2)「空売りの制限単位数を超えた空売り」。これは一部から上がっている意見だが、個人的には「問題なし」と見ている。そもそも「1件あたり50枚まで」という空売り規制は個人に対してだけだし(それ自体不合理極まりないが)、今回の場合は意図した空売りではなく、結果として空売り「の形」になってしまっただけの話だからだ。


最後に(3)「情報開示の問題(大株主にのみ先行して開示していた)」。今誤発注の問題は12月8日の午前9時半ごろに発生したにも関わらず、みずほ証券がそれを認めたのは当日の午後4時半過ぎになってから。それまでの間、市場では複数の証券会社の名前があげられ疑惑の目を向けられることとなった。マスコミ各社も情報が錯綜し、表現のミスで容疑を疑われる証券会社も出る始末だった。

さらにみずほ側が記者会見を開いて経緯の説明をはじめたのは、誤発注から14時間も経過した午後11時半になってから。状況の把握と整理、事後策の立案に時間がかかるとはいえ、市場への影響を考えれば速やかなる情報開示が必要であるはずなのに、それをなさなかっただけでも市場と投資家らを軽視した行動であると受け止められても否定はできないだろう。

さらに問題なのは、一般への情報開示の前に、大株主に対しては先行して誤発注の情報を流していたことが明らかになったこと。記者会見でみずほ証券側スタッフが口を滑らし分かったことなのだが、結果として記者から「なぜ一般公開せずに先行して大株主だけに伝えたのか」と鋭く突っ込まれ、みずほ証券側がグゥのネも出ない状況になった。市場の混乱を避けるために場中では発表しなかったとするみずほ証券側の説明も、単なる大義名分に過ぎなかったことは明白だろう。適切な情報開示という点で、大問題である。インサイダー取引にもつながりかねない。

無論みずほ証券自身は上場していないが、上場企業であるみずほフィナンシャルグループ(8411)の子会社であり、上場企業同様の責務があることに違いはない。今後、この点においても追求がなされるべきだろう。

今回ピックアップした3件以外にも、

「IPO銘柄の公開直後の場において流動株数をはるかに超える株数が売りに出される場合があるが、それは今回のような証券会社の自己取引における空売りだったのではないか(大株主から株を借りていたとしても)」
「そもそも非貸借銘柄が空売りできること自体(入力ミスだったとしても)おかしいのではないか」※

など、証券会社の自己取引部門への疑惑が一般投資家の間に広まっている。

損害金額の大きさと市場に与えたインパクトの大きさから、あまり注目されてはいないが、今回の事件で実にさまざまな「問題点」が露呈されたことは間違いあるまい。


※みずほ証券は元々ジェイコムの幹事の一つ。だから寄り付き前から「売るべき」株式を持っていてもおかしくない。その場合は1株でも空売りではなくなる(そもそも当初は1株を売るつもりだったのだから)。ただその場合、その株式をどこから持ってきたのかという問題が。あらかじめ他の株主から借りていたのか、株主名簿にあるみずほの投資組合の株なのか、それとも公募の一部を顧客に渡さなかったのか……。

※追記:みずほ証券の発表によれば、今回の誤発注は顧客の投資家から電話で「1株61万円で売る」との注文を受けての入力がきっかけだったことが明らかにされた。つまり「空売り」や「手持ちの株式の売却」ではなく、通常の仲介業務に過ぎなかったことが分かる。
またこの誤発注入力の際に当然のことながら警告表示が出たが「よくあること」と担当者は無視を決め込んだという。瑕疵も何もあったものではない。

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...

スポンサードリンク



 


 
(C)JGNN||このサイトについて|サイトマップ|お問い合わせ